おまけ【100】
「お婆ちゃん達お話ししてくるから、待っててね。」
お婆ちゃんに連れられて来たのは、お参りで来たことのある神社だった。正しくは、神社の奥にあるお家だった。名前は忘れてしまったけれど、お正月や夏祭りで来る神社にお家があるなんて知らなかった。
お家の中で私たちを待っていたお婆さんは、少し怖そうだけど、お婆ちゃんに似てるなと思った。
そのお婆さんは、
「庭に子供達がいるから、一緒に遊んでおいで。」
と外の方を指差して、
「案内してあげなさい。」
後ろにいた綺麗なお姉さんに言っていた。
「行こっか。」
お姉さんが手を引いてくれて、お庭を一緒に歩く。さっき見えたお家の中もお庭も、私の家よりずっと大きくて、広い広いお家だった。
「お姉さんのおうち広いね。」
「あらあら、お姉さんだなんて。」
お姉さんはお姉さんなのに、何故だか嬉しそうに笑っていた。
「お話少しかかると思うから、皆と待っててね。後でケーキ持っていってあげるからね。」
「はーい!」
お婆ちゃんが何のお話をしているかはわからない。
大人がお話しする時は難しそうな顔だったり怒った顔をしている。お父さんとお母さんがいつもそうだ。だからいつも優しいお婆ちゃんが、怒ったりしていなければいいな…。
お姉さんに連れられたお花がたくさん咲いている場所の前に、女の子と男の子がしゃがんでいる背中が見えた。お姉さんは二人に向かって、「尊、臨。」と声をかける。
「二人でいたの?」
「はい、お花を摘んでました。」
「お母様、その子は?」
こっちを向いた二人が私のことをじっと見ていて、いつもお母さんに挨拶はちゃんとしなさいと言われているから、
「こんにちは。」
「尊の再従姉妹の七ちゃんよ。尊と臨もご挨拶して?」
お姉さんに言われて、…あれ?今お母様って呼ばれていたような?
女の子と男の子が挨拶してくれると、
「じゃあ、一緒に遊んでてね。」
お姉さんはお家の中に戻って行った。
「七ちゃんって言うんですか?」
名前を呼んでくれた尊という女の子は私よりお姉さんのようで、幼稚園にいるどの子よりも可愛くて、手に摘んだお花を持っているからお姫様みたいだった。
臨という男の子は私と同じ年中さんくらいで、隣にいる女の子と同じくらい可愛い顔をしていた。土だらけの手にお花を二つ持っていて、
「一個あげる。」
と一つ私にくれた。女の子の方も「私のもあげます!」と渡してくれたが、その手には一つしかお花を持っていない。
「それもらったらお姉ちゃんの無くなっちゃうよ。」
「いいんです!」
女の子は私にお花を持たせるように上から手を握って、見たことないくらい大きな目をキラキラさせていた。
「私、女の子の再従兄弟に会うの初めてなんです!」
ビー玉みたいな綺麗な目をしたその女の子は満開の笑顔で、嬉しそうに私に言った。
「私と仲良くしてください!」
目が覚めた。
お昼寝(というよりは夕方寝)の爽やかな目覚めに、これ以上無いほどぱっちりと目が覚めた。急激に覚醒した。
開けた視界には満面の笑顔の尊の代わりに臨の顔が目の前にいて、
「うわっ!」
急に両眼を開けた私に驚いていた。
これは昼寝起きとかだからじゃなくて、人の気配に起きただけかもしれない。と寝起きにしては妙に冴えた頭で考えながら、臨が手に毛布を持っていて、かけてくれようとしてたらしい。
「ごめん、起こすつもりじゃなかったんだけど。」
寒そうだったから、と言われて。自分が居間の窓に寄りかかって寝ていたことに気づく。庭を眺めているうちにうたた寝したらしい。そう言われるとかなり肌寒い。
庭には寒さを感じさせる秋色の景色が広がっていて、あれ、さっき花とか咲いていた気がしたのに。夢で見たのかな…。
「どうかした?」
「なんか、小さい頃の夢見てた気がする。」
「小さい頃の夢?」
臨と尊がいた気がするけれど、思い出そうとすればする程記憶から消えていく。確か、花を摘んでいたような…。
「あれ、七起きちゃいましたか?」
そこに尊が部屋に入って来た。が、その手には大きな羽毛布団を抱えている。
気持ちはありがたいけれど、本格的に寝かせつけようとし過ぎな気がする…。
と言っている間にすっかり夢の記憶は消えてしまった。
「小さい頃の夢見てたんだって。」
「どんな夢ですか?」
「なんか、この家にいたような感じだった。」
「一緒に住んでた夢とかでしょうか?」
ずっと一緒に住んでた夢、か。
そんな幸せな夢なら忘れないで覚えていたかった。というか一生見ていたかった。
「もしずっと一緒に住んでたらさ、もっと性格とか似てたかな。」
私の問いに臨がうーん、と唸っていて、
「なに?」
「箱入り娘みたいな七が想像できなくて。」
失礼なと思ったけれど、確かに自分でも想像できなくて言い返せなかった。お上品でお淑やかな私は仮に転生して令嬢になったとしても、どの世界線にもいない気がする。
「でも、春と一緒にいられないのも嫌だな…。」
「その時は春ちゃんだってここで一緒に暮らしてますよ。」
「それあり?」
「なんでもありです。夢ですから。」
「四姉弟か。」
「大家族だね。」
テレビで見る大家族はもっと大人数な気もするが、家族みんなで夕食後にトランプとかで遊んでいるのが楽しそうで羨ましかった。四人でいたら、出来たかもしれない。
「尊のこともお姉ちゃんって呼んでたかもね。」
「いい響きですね…、お姉ちゃんだなんて。」
嬉しそうに笑う尊に、あれ、なんかデジャブだ。夢の中で見たのかな?
「でもわかる!私も春にお姉ちゃんて呼ばれると嬉しいもん。ぎゅーってしたくなる。」
今は春がいないから隣の尊とぎゅーっとしながら、
「臨も最初は私のことお姉ちゃんって呼んでましたもんね。」
「言うなよ!」
「中学校に上がる頃でしたよね、急に尊って呼んだりして。」
「お姉ちゃんって呼んでるのクラスの奴に揶揄われたんだよ!」
可愛いなそのエピソード…。
臨だって尊似の顔なんだから、子供の頃なんか絶対可愛いかっただろうし、それでお姉ちゃんとか言われたら抱きしめちゃうかもしれない。
「ちょっとお姉ちゃんって呼んでみて。」
「嫌だ。」
「いいじゃん、一回だけ。」
「七の方が誕生日後なんだろ⁉︎」
「ちっ。」
けちめ。
誕生日が遅いって言ったって、同い年なんだからそんなに変わらないと思うのに。
でも確か臨って四月生まれって言ってたし、現状同い年ですらないのか。じゃあ、
「そういえば七って結局誕生日いつなの?」「逆に臨のことお兄ちゃんって呼んだりしてたかな?」
お互い同意に口を開いてしまい、気が合ってしまった。
「ごめん、話被っちゃった。」
「…もう一回言って。」
聞き取れなかったようで、
「だから、お兄ちゃんって呼んでたりしたかな?って。」
「…もう一回。」
「耳遠いの?」
お兄ちゃんじゃなくてお爺ちゃんみたいになってる。
そのやり取りを見ていた尊が、ふふっと笑った。
「それが夢じゃなかったら、きっと楽しいですね。」
「ねー。多分ずっと一緒に遊んでたよね。」
「うちにいる限りは勉強もしないとだよ?」
「それも教えてもらえるんだからいいじゃんー!」
「まず自分で授業聞きなって…。」
これが夢じゃなかったら、きっと幸せだったように思う。
私たちがここに来るまでの痛みは、つけられてきた傷は、多分、無かったように思う。
だけど。
「そうだ。今日さ、ご飯の後トランプしよ。」
「いいですね。何にします?」
「大富豪とか?」
「じゃあ罰ゲームつけよ!」
痛い思いをしてきても、ついた傷があっても、私たちは不幸なわけじゃない。
今だって十分、幸せだ。
今回がちょうど百話なのでおまけにさせてもらいました。
数ヶ月に渡って長々書いていますが、いつも見てくださる方、評価くださる方、本当にありがとうございます。すごく励みになっています。
書くことが楽し過ぎるのでまだまだ書き続けたいと思っています。今後もお付き合いいただけると嬉しいです。




