幼馴染 序章
1つのセリフから、ショートショートを書きました。
「また、振られたのかよ」
一方的に別れを告げられ、ついでにかばんをぶつけられた俺は、たいして痛くもない腕をさすりながら、彼女が走り去っていく後姿を見送っていると、後ろから聞きなれた声がした。
振り返ると、腕を組んでふくれっ面をして、仁王立ちになった幼馴染の姿があった。
「なお」
「あいつ、カバンぶつけるとか、ひどくね」
「うん?まあ、そうだね」
「なんで……」
「ん?」
「なんでお前、すごくモテるくせに、いつもすぐ振られるわけ?」
口をとがらせ、頬を膨らませた直哉は、なぜか泣きそうな顔をしていた。
「さあ、なんでだろうね」
何かぶつぶつ言いながら、下を向いて、地面に半分埋まった小石を、つま先で掘り返そうとする姿は、小さいときから何も変わらない。
「なおだったら、俺が黙っていたって、傍にいてくれるのにね」
「当たり前だろ」
「そうだね。ずっと小さいときから一緒だもんね」
「匠実のこと、振るとか、信じられない」
俺が彼女に振られるたびに、自分のことのように怒る直哉に、なんだか意地悪を言ってみたくなった。
「じゃあ、なおが彼氏になって慰めてよ」
きっと「ふざけんな」と直哉から蹴飛ばされるだろうと覚悟をしていると、ガバっと顔をあげた直哉に、思いもかけないことを言われた。
「つ、付き合ってやってもいいだぜ!」
一瞬、俺は呼吸をするのを忘れた。
直哉はふざけて言ったのだろうけれど、思わず泣きそうになって、慌てて笑って誤魔化そうとした。
「ぷっ」
「なんだよ」
「あははははは」
「なんで笑うんだよ。もういいよ。ばーか」
俺はとっさに、走りだそうとした直哉の腕をつかんだ
「ごめん、ごめんって…なお」
引き寄せると、真っ赤な顔をして、涙をためた目で、じっと睨んでいる。
もうこうやって、何度直哉に心臓をわしづかみにされてきたことか。
「はあ、いつまで我慢できるかな」
「なに、それ」
「ん?ひとりごと」
「変なやつ」
「そうだね」
完
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