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富崎春翔のおかしな青春  作者: ザラニン
第1章 転入編
9/9

第9話 友達

 その戦いは一方的なものだった。

 春翔のよるサブマシンガンとナイフによる攻撃は、F部隊を圧倒していた男をさらな圧倒していた。

 あの読むことのできないアクロバットな動きに、春翔は余裕そうに付いていっていたのだ。

 春翔に圧倒された男はダラダラと血を流しながら床に倒れ込んでいた。


「フ、ハ、ハ、ハハハ、ハハハハハ」


 だが男の体にあった傷はみるみると塞がっていった。

 そして男は立ち上がる。


「強いなぁ、君。けど、僕は殺せない」


 切っても撃っても、皮膚はすぐにそれを塞ぐ。

 ロケットランチャーを撃ち込んだりでもしなければ、あの男は殺しきれないのだ。実にチートな能力だ。


「君がどれだけ僕を攻撃しようが、少し経てば」


「知っている」


「は?」


「嫌と言う程その能力については熟知している。だから倒し方もな」


 春翔は言う。

 彼自身、同じものを持っているのだ。自分の弱点を知っているのは当然のことだ。

 そんな春翔に男は言う。


「なら、見せてみてよ。その倒し方ってやつをさ」


 それを聞いた春翔は少し息を整えると、「ああ、分かった」と言った。

 すると、春翔はサブマシンガンを連射させながら接近しだした。

 男その銃弾を身軽に避けると、接近してきた春翔に近接格闘を仕掛けるが、春翔はそれに応戦し、戦いの中でできた少しの隙に男の首にある頸動脈を切った。

 「カッ⁉︎」と言いながら男から赤黒い血が噴き出るが、すぐに傷口は塞がる。


「……だから、無駄なんだよ、どれだけ僕を切りつけたところで傷が塞がることくらい、分かるでしょ?」


「ああ、承知の上だ」


 そして春翔はすぐに体勢を低くし、腕の脈を切りつけ、ついでに足を引っ掛け転ばせる。瞬時にナイフを逆手に持ち、一気に振り下ろして腹部に刺し込む。


「グッ! 痛いけ、けどさ、だからなんなんだって話」


「お前、まだ気づいてないのか? ひょっとして馬鹿か?」


 春翔はナイフを抜くことをせず、さらにそこから体を切り裂く。


「ウグッ! このっ」


 男は上に乗っている春翔を膝で蹴り飛ばそうとするが、避けられる。

 春翔が距離を取る間に、男は立ち上がり、体勢を整えようとする。


「あれ?」


 しかし彼の体は立ち上がると同時によろけ、床に膝を突いた。

 その現象に男は理解できず「なんで?」と声を出す。

 その理由を春翔は「それの説明しましょうか」と親切そうに言い、説明しだした。


「……まずお前は勘違いをしている。その能力は傷が治るだけだ。つまりそれ以外は普通の人間と同じ」


「だからなんなんだ?」


「気づいていないのか。ヒントは()だ」


「血? …..まさか⁉︎」


 男はそれにとうとう気がつく。

 だがそれはもう取り返しのつかないことなのだということを理解する。

 春翔は続ける。


「そうだ。体内の血液量が減っていくと貧血が起こる。貧血の主な症状はめまいと疲労、お前の今の状態と同じだ。それなのにお前はそんなことも知らずにどんどん血を流していった。その少ない出血量で貧血を起こすとなると、それ以前にも流していたんじゃあないのか?」


「クッ……」


 男はどうにか立ち上がるが、顔色は青く染まり、息切れを起こしていた。

 恐らくこれ以上の戦闘は不可能だろう。


「……この僕を、よくも」


「投降しろ。お前にこれ以上の戦闘は無理だ」


 そう言うが、男は膝を曲げ飛び上がろうとする。


「おい、もうお前は」


 次の瞬間、男は数メートル上にあるギャラリーに向けて飛び上がり、そこのフェンスに立つ。

 月を背景にし、見上げる春翔を男は見下ろす。


「覚えてろ。僕はお前を忘れない」


「逃がすか」


 春翔はすぐに照準を合わせて発砲するが、男はそれを避けながら窓ガラスから工場外へと姿を消した。


「……クソッ、逃したか」


 春翔は少し悔しそうに銃口を下げる。

 その後、駆けつけた残りのG部隊と合流した彼らは、状況の整理をした。

 一方春翔はというと、その隙に工場の外に出てバイクでその場を立ち去った。

 バイクを走らせながら、ヘルメットに内蔵された電話で晴海と通話する。


「……なあ晴海」


 疲れたのか、囁くように春翔は声を掛ける。

 そんな春翔の声に晴海は耳を傾ける。


「俺、久しぶりに殺したよ、人を」


 力の抜けた声でも、その中には悲しみの感情が混ざっていた。


「7年ぶりさ、こんなしんみりとした気分になったのは。まるであんたと出会ったあの時みたいだ」


『春翔……大丈夫か?』


「大丈夫だ。この感覚は嫌というほど慣れている。けどさ」


 春翔は一拍置くと、気が付かない程震えながら口にした。


「思い出すんだよ……あの時の()()()を、あの顔をさ。……なあ晴海、ちょっと皮肉めいた質問、いいか?」


『なんだ?』


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その質問は、2人にとってはトラウマとも呼べるべきものだった。


『……悪魔だったさ。正直思い出したくはない』


「そうか……殺された奴らも、そう見えたのかもしれないな。やっぱり地獄だな、殺し合いっていうのは。そして俺は、地獄の中の悪魔……か」


 少年は暗い夜道をバイクで駆ける。

 まるでまた地獄へと向かうかのように、進んでいった。



☆☆☆



2日後、昼……


 春翔は先日の夜、メールで葵をいつもの屋上へと呼んだ。

 ただ呼んだだけではない。自分のことをまだ上には報告しないようにと言いつけておいた。

 そして春翔は燦々と照りつける太陽の下で、葵を待っていた。


「来たか」


 階段から足音が聴こえると銀色に輝く扉から葵が現れた。

 見たところ、この2日間で殆どのかすり傷は治ったようだった。

 春翔は「2日ぶりだな」と気軽に言うが、葵は表情を一切変えなかった。寧ろ険しくなっている。


「……まさか朝学校に顔を出さないなんてな」


「そんなことはどうでもいい。こっちは聞きたいことが山ほどあるんだけど」


 単刀直入である。

 あの夜の後の春翔の行動やら、情報の提供やらを一切説明していなければこうなるだろう。


「言いたいことは分かっている。情報だろ。持っていけよ」


 春翔はそう言うと、情報がコピーされたメモリを差し出す。

 偉く素直なことに少々葵は驚くが、そのメモリを受け取ろうとする。

 しかし春翔は触れようとしていた葵の手からそのメモリを遠ざける。


「ッ? なんのつもりかしら?」


「受け取る前に、俺が今から言う3つの条件を受け入れろ。そうすれば渡してやる」


「交換条件ということ? なんでそんな必要があるの? 素直に渡せば」


 無理矢理春翔の手からメモリをもぎ取ろうとする葵から避けながら、内容を口で提示する。


「まず1つ目、この一連の件だが、俺が介入したことを上に報告するな。されると俺の私生活にかなりの支障と制限が付く可能性がある」


 手の届かない位置まで遠のけたメモリをジャンプしながら手に入れようとする葵は飛びながら言う。


「それはっ、無理なっ、話ねっ。貴方のことは当然報告するわっ」


「2つ目、俺の詮索は禁止。お前だけじゃない、俺を知りうる者全員だ」


「それも無理だわっ」


 春翔は今度下がりながらメモリを取られるのを防ぐ。


「なら、このメモリは木っ端微塵になるぞ。それでもいいんだな」


 そしてフェンスの隙間から腕を伸ばし、屋上からメモリを落下させようとする。

 当然それに葵は慌てる。


「だ、ダメッ、それは私達が求めていた重要な情報よ!」


「ならコレを手に入れられたのは誰のおかげだ? どこの誰のお陰でコレを手に入れられたんだ?」


 葵は言葉を詰まらせ、「そ、それは」と悔しそうに言う。


「これをどうするかは、手柄を取った俺にも、いや、俺だから選ぶことができるんだ。戦果的には俺の方が上だからな」


「クゥゥ」


「さあ選べ。この2つを受け入れるか、それとも俺1人なんかの為に大切な情報を屋上から落下させるか」


 葵は悩む。

 そして悩みに悩んだ末に、答えを出した。


「わ、分かったわ。貴方のことは報告もしないし、調べもしないわ」


「言ったな。なら今から部隊メンバー全員にそう送れ。もし送らなかったら大事なメモリが」


「わ、分かったわよ」


 投げやり気味に葵は言うと、スマートフォンを取り出してメンバー全員に言われた通りのことを送り、送った証拠としてそれを春翔に見せた。


「……よし、いいな。もしそれでも送ったりしたら、情報提供者Hからそれなりのことわされると思うからな」


 そうは言うものの、春翔は手を引き戻そうとはしない。さらにメモリを掴んでいる手は未だにガッチリとしている。

 葵はそれに対し「なんで渡さないのかしら」と言う。


「忘れていないか? 条件は3()()だ。つまりもう1つある」


「まだあるの? そろそろ強硬手段に……ッ?」


 すると春翔は腕をフェンスから引き抜き、手に持っていたメモリを葵に投げ渡した。

 葵はそれを危なげなくキャッチすると、戸惑いながら春翔に聞く。


「な、なんで」


 春翔はその問いに答える。


「もう、お前は死なないだろ。だったらなれるだろ? 【友達】にさ」


「……は?」


 葵からついそんな声が出てしまう。

 一体どんな条件なのかと思えば、かなりシンプルなものだったので正直身構えていて損をしてしまった。


「だ、ダメか?」


「いや……そんなことで情報を貰えるのならこちらとしては万々歳だけど」


「そんなことなんて言うなよ。結構これ言うの大変なんだぞ、友達になってくれなんてな。……それで、どうなんだ? なってくれるのか?」


「え、そ、そ、そ、それは」


 葵は言葉を詰まらせる。

 決して拒んでいるわけではない。中々よしの一言を言えないのだ。

 こんなことを言われるのは、人生で初めてだからだ。

 しかし、情報のために葵は頬を赤く染めながら言葉を振り絞る。


「い、い」


「い?」


「い、いいわよ。なってあげるわよ、友達に」


 日本の初心者かと思える程の喋り方だったが、春翔にはきちんと聞き取れた。


「ありがとう」


 春翔は珍しく微笑みながら感謝を返す。

 火が出そうな程顔を赤く染めた葵は、これまたぎこちなく「ど、どういたしまして」と言った。

 この時、お互いに脱ぼっちとなった。







 ……2人が屋上でそんな会話をしている時、()()()()()は入り口付近に隠れ、その会話を片耳で聞きながら、小声で通話をしていた。

 スピーカーから声が響く。



ーーあの男、富崎 春翔の処理を執行しろ。

打ち切ります。

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