第8話 狂敵
扉が開いたのと同時に、F部隊は突入した。
倉庫の中には巨大な四角い枠が4つ分けられて設置されており、その中には緑色の草が生えていた。
そう、大麻だ。
「なんだよこの量、これ全部がか」
「物的証拠ね。まぁ武装した兵が出てきただけでおかしいんだけど」
理恵は植えられている大麻の写真を撮る。
これを警察に提供するからだ。
彼らは道を進んでいくと、とあることに気が付いた。
「……ッ、おい、みんな来てくれ!」
浩一は叫ぶ。
散開していた葵達が駆けつけるとそこにはなんと仲間の部隊の死体があった。
「う、嘘、でしょ?」
数的にC、D、E部隊の者達だろう。
体、頭などに銃弾を受け絶命しているようだった。
防弾チョッキを装備していたとしても、何度も撃たれればその壁も破られる。
だがここで彼らはその不審な点に気がつく。
「ちょっと待てよ。一体これは、誰がやったんだ? そして誰がここまで運んだんだ? 」
アンドリューはそんなことを口にする。
「確かに。普通に考えて、この人数を殺すのにはそれ相応の数が必要よ。なのに敵の死体は1つもない。ここに来るまでの道で殺されたら、ここに連れて来るにはこの数の人がいるし、まずここまで持ってくる必要性は無い。でもここら辺は所々血が飛び散っているから多分ここで殺された可能性が高い」
「それじゃあ、どうなるんだ?」
「考えられるのは1つ。これは複数人でやったんじゃなくて、1人でやったということよ。それ以外考えられないわ」
その時だった。
「おおっ、名推理だなぁ。君頭いいねぇ」
そんな軽い声が空間内に鳴り響いた。
「誰だっ!」
彼らは周りを警戒する。
手に持っているアサルトライフルを構え、背中を味方に預ける形で周りを見る。
「でもすることは普通か。ちょっと残念だなぁ」
アンドリューは「どこにいる⁉︎」と叫ぶ。
それに対し声の主は「上だよ上」と正直に答えたので、彼らは上についているギャラリーを見る。
そこには緊張感の無い私服を着込んだ20代前半くらいの男が足をぶらつかせて座っていた。
「ようやく気が付いたか。お馬鹿さん達」
「なんなの君……ま、まさか、他の部隊の人達を殺したのって」
理恵の問いに、男は当然のように答えた。
「ああそうさ。まさかこの僕が直々に手を下さなきゃなんてね」
「直々に……つまり貴方がここのボスということね」
「そういうこと」
すると男は数メートルあるギャラリーから飛び降りる。
そして懐に入れておいた拳銃を取り出す。
F部隊は男に向けて銃口を向ける。
男はそれを見て「フッ」と失笑する。
「おいおい、冗談だろ。そんなおもちゃで僕を止められるとでも思うのかい?」
次の瞬間、F部隊は一斉に発砲を開始した。
火を吹いた銃口から放たれた銃弾は、男に直進していく。
しかし、その射線先にはすでに彼の姿は無かった。
なんと彼はその銃撃をアクロバットに回避したのだ。
「何っ⁉︎」
男は銃弾を回避しながら浩一に近づき、防弾チョッキに2発発砲した。
浩一は衝撃のあまり吐血する。
そして男は笑みを浮かべながらさらに腹部を蹴り付けた。
勢いよく吹き飛ばされた浩一は大麻が植えられている枠の壁に背中をぶつける。
「隊長!」
「な、なんなんだよあれは⁉︎ 速すぎるだろ!」
そのアンドリューの言葉を聞き、男は喜ぶ。
「ハハッ、褒めてくれてありがとね。モチベ上がるわ」
「ふざけないで! この化け物!」
「酷い言われようだなぁ。君らが弱いのがいけないんだろう? 俺にとってはこれくらい当然なんだけどな。フハハッ、でもこんなの無理か」
そして煽る。
「いいよ、なら手加減してやるよ。せいぜい楽しんで」
☆☆☆
PCルームでは、G部隊の1人の青年と春翔の2人がパソコンのパスワードを解析していた。
それで春翔は解析の間、青年の護衛をしている。
「それは?」
春翔は青年がパソコンに接続しているメモリについて質問する。
「これはパソコンのパスワードをものの数十秒で解析することができる特殊なメモリです。天文学的な数字の組み合わせを短時間でできる代わりに中が焼けるので使い捨てです」
「便利だな」
そんなことを言っているうちに解析が完了した。
完了したのと同時に青年は通信の接続を確認する。
「やっぱりされてない。ECMシステム対応機種……っぽいかな」
「H、どうだ?」
春翔はスマートフォンを取り出し、晴海に電話で聞く。
『いや、そのパソコンじゃあないな』
「分かった。他をあたる」
そう返すと、青年に「違うだと」と伝える。
そして彼らはその後も他のパソコンも接続していく。
4台目に差し掛かった時、青年は春翔に質問を投げかけた。
「あの、そういえば、貴方は一体何者なんですか?」
春翔は唐突な質問に「は?」と言ってしまう。
「深い意味は無いんです。どうして貴方はあんなにも強いのかと思いまして」
「あ、あぁそうだな……経験、か」
それと同時に解析が完了する。
青年はパソコンを弄りながらさらに聞く。
「経験って、貴方まだ17でしょう? 過去に戦場にでも行っていたんですか?」
「ああ」
「え?」
「いや、戦場じゃないな。ただ地獄であることには変わりはないような所だ。毎日おかしくなりそうなことをさせらせていた。友達、って言えるような奴もそれで……あぁ、これはどうでもよかったな。忘れてくれ」
青年は「そ、そうですか」と言うとパソコンの通信を接続する。
「どうだ?」
すると晴海の反応が変わる。
『これは……あったぞ。けど、この情報は……』
「どうした?」
『……いや、それは後だ。情報は後で送る。それよりも早くF部隊のいる倉庫に向かった方がいいぞ』
春翔は「なんでだ?」と不思議そうに聞く。
『この情報が頼りなら、恐らくこの工場内には、春翔と同じ能力を持っている奴がいる」
☆☆☆
あれから少ししか経っていないが、戦況は変わらず、最悪なままだった。
浩一は気を失い、アンドリューは腕を折られ、そして今度は理恵が肩を撃ち抜かれた。
理恵は「ウグッ!」と呻き声を上げ、膝を突く。
「理恵! クッ!」
葵は右手にナイフ、左手にハンドガンを持ち、近接格闘を仕掛ける。
しかし近距離で撃つ銃弾も避けられ、振るうナイフも捌かれ、一向にダメージが与えられなかった。
「いい動きだけどさ、それでも僕には届かない」
そう言うと、男は葵のチョッキに守られた腹部に拳を入れ、4発程連打する。
直接殴られる感覚は無いものの、衝撃は伝わる。
「クッ……デアッ!」
だが葵は戦うのを止めない。
表には出さないものの、彼女の中にも仲間をやられた怒りがあるのだ。
そしてとうとう、葵の振るったナイフが、男の顔を斜めに切り裂いた。
「ウワッ⁉︎」
男は切られたことに驚き、高速で後退する。
顔の傷を触ると、それにより手に付着した血を目の前に持っていき眺める。
「いやいや、凄いよ君。まさかこの僕が切られるなんて、思ってもみなかったよ。いやぁ〜でも惜しかったなぁ。もっと深く、それこそ脳ごと切断する勢いでいったら、もしかしたら殺せたかもしれないのにね」
すると、目を疑うことが起こった。
なんと、男の顔にあった傷が勝手に塞ぎ始めたのだ。
「え? 嘘……なんで」
「ああ、言ってなかったね。僕は見ての通り、損傷した傷が元に戻る【超再生】の能力を持っているんだ。いや、これは体質にしたって言った方がいいのかなぁ?」
葵はその能力に見覚えがあった。
何故なら春翔と同じ能力だったからだ。
初見の理恵とアンドリューも困惑する。
「な、なんなのそのチート能力……そんなの勝てるわけ」
「ば、化け物め!」
「まぁてなわけだから、君らは背伸びしても僕には勝てない。強化された僕の体は、もう誰にも止められない」
絶望する。倒す方法が無くなったのだ。
前に春翔は痛いものは痛いとは言っていたが、まずこの相手には攻撃が当たらない。
なので痛みで倒すなんてことはできない。
完全な詰みの状態である。
「それじゃあ、絶望したところで終わらせてあげようか」
そう言うと、男は近づく。
「安心して、今度は本気だ。楽に殺して、ッ⁉︎」
その瞬間、男は回避行動をとりながら、葵から見て右に後退しだした。
葵の目の前に光る銃弾が横切る。
「え?」
葵は銃弾の飛んできた左を向く。
そこにはサブマシンガンを片手で構えた白髪の少年が1人立っていた。
「葵、お前は下がってろ。遅れてもう1人来るから、そいつから救急キットを貰って手当してやってくれ」
忘れもしないその少年は、春翔だった。
「春翔……」
「巻き込まれる前に早く動け。なるべく俺もしないようにする」
気がついたら涙を流してしまっていた葵は「……分かった」と言うと、言われた通り下がった。
そして手にお互い銃を構えたまま、春翔と男は対峙する。
「ハハッ、君何? GASUの関係者、じゃないよね」
「そうだな。けどお前の敵には変わりない」
「一般人が敵かぁ。てか君、正気かい? この僕を1人で相手するなんて。見てみなよこの有様。GASU4人掛かり、それ以前に十数人程の人数を同時に相手して勝ってる僕を、君は止められるの? 勝てるの?」
「少なくとも、ダメージは与えられるだろうな」
「へぇ、それは楽しみだ。じゃあ早速」
言い終わる瞬間、男は春翔の目の前にいた。
高速で動いた男に、その場にいた殆どの者が目で追えなかった。
「楽しませてよ」
そして春翔に向けて拳を打ち込んだ。
打ち込んだ拳も速く、風を切る音が出る程だった。
しかし、その瞬間流れが変わった。
なんと、春翔はその拳をガッチリと手の平で受け止めていたのだ。
「なっ⁉︎」
「……楽しませてよ、だと? お前はもう十分遊んだだろ。何人も傷つけて、殺して、それで金稼いだろ。お前が今から受けるのは、その罰。遊びすぎた罰だ」
男はこの状況でもケラケラと笑いながら後ろに下がる。
そして少し経つと一瞬で笑みを消した。
「ふざけないでよ。たかが拳1発受けただけで、図に乗るな!」
それに対して春翔は表情を一切変えず、
「ならやってやるよ。お前はここで、殺す」
その時、春翔による一方的な戦いが始まった。
よろしければブックマーク、評価、感想をお願いします。辛口でも構いません。