第7話 協力者
工場内には、重々しい銃声が鳴り響いていた。
その近くで聞こえるのは、血が飛び散る音。最悪の音だが、F部隊の彼らにとってはもう聴き慣れてしまっていた音だった。
学生時代、人によっては幼少期の頃からGASUの部隊として訓練を受けさせられていた彼らは、そういった人としての精神面の強化もされていたのでこれくらいでは動じない。
しかし元から精神力の弱い者だと人殺しの耐性は得られても、状況では混乱してしまうこともある。例を上げると先程の理恵だろう。
だがそんな理恵でも人殺しは普通にできてしまう。その証拠に、彼女が今一番殺している。
「理恵、貴方大丈夫なの?」
銃撃戦が終了すると、葵は理恵を心配する。
すると理恵は苦笑いをしながら答える。
「うん、大丈夫だよ……ただやっぱり私、こういう大人数でする任務嫌い。味方が消えていけばいく程、怒りが込み上げてきちゃうから……」
理恵の顔は苦笑いから普通の笑みに変わる。
「そう……無理はしないで」
彼女は精神的にやられてきてしまっている、葵はそう思ったが、それは理恵だけではない。
浩一もアンドリューも負傷したわけでもないのに床に膝をついている。
「……葵ちゃんは、昔からだったけど、精神力、強すぎ」
浩一は頭を片手で抱えながら言う。
「そうでもないわ。今もかなりきてるわ」
「とは思えないくらい涼しい顔だな」
「そんなこと……」
もしかしたら1番壊れているのは葵なのかもしれない。
「とにかく先に進む。皆んな行くぞ」
浩一はそう言い先に進もうとすると、それに3人は続いていく。
歩きながら、葵は無線を使い通信をするが、応答はしなかった。今度はE部隊との連絡もできなくなった。
「……ダメだわ」
「詰んだな」
アンドリューの言う通り、今彼らは詰みの状態に陥ろうとしている。
せめて何か情報があれば、そう思っていると、
ブーン、ブーン
浩一のスマートフォンが小刻みに震え出した。
「何っ」
「通信遮断されたこの空間に電話だと?」
浩一はその電話に恐る恐る出る。
ここで考えられる電話の主は、他の部隊の誰かしかいない。
浩一はスマートフォンによる通話を皆に聴こえるようスピーカーにする。
『こちらG部隊、この電話はF部隊のか⁉︎』
その言葉に、その場にいた全員が驚く。
何故なら彼らは死んでしまったのだと思っていたからだ。
「そ、そうだ。これは今、全員が聞いている。それでG部隊、君らの隊は生き残っているのか?」
『ああ。辛うじてだが、全員が生存している』
それを聞き、その場にいた全員がよかったと安堵するが、次に耳を疑うようなことを口にした。
『実は、外部からの一般人の増援が来たんだ。白髪の少年がたった1人で外にいた数十人の敵を全滅させたんだ』
それに真っ先に反応したのが、葵だった。
「ちょっと待って。今、白髪って言った?」
『ああ、そうだが』
葵はまさかと思った。
あの男が、冨崎 春翔が、まさか……と。
「葵、心当たりがあるのか?」
「え、ええ、少し」
アンドリューの質問に戸惑いながら答える。
「それで、君達はどうして僕らに連絡することができたの? 通信遮断で連絡が」
すると今度は違う声が入ってきた。
『ああ、それはこっちから説明するとしよう』
女の声だった。
それを聞いた瞬間、浩一は「誰だっ!」と叫ぶ。
叫んだ理由としては、G部隊にいるのは全員性別が男だからだ。
『協力者だよ協力者。電波をこいつの電話を介して送ってるのさ』
「そ、そんなことどうやって」
『お前らのスマホ、それはECMシステム下で管理されている。確かにその中はジャミングがかかっているが、それはECMシステムの前では軽い電波障害にしかならない。そりゃ、国がかなりの予算を注ぎ込んだからな、当然さ。さぁて、今の状況を説明しよう』
「ちょっと待ってくれ」
それを、アンドリューが止めた。
「あんたのこと、信用しても良いんだな? 騙したりしていたら」
『信用されてないな。一応お前らの元上司だったんだがなぁ……まぁいい、聞きたくなきゃ聞くな。こっちは勝手に喋らせてもらうぞ。まず中の監視カメラの情報だが、これはシステムの管理下に入ってはいないものだから確認不可、お前達以外の隊にも連絡を試みてみたんだが応答無し』
「はぁ、結局詰みか」
『いや、そうでもない。この工場内のことを調べてみたんだが、システム内にこんなものがあった。今からそれを各々のスマホに送ろう』
すると、葵達のスマートフォンが震える。
それを皆確認すると、そこには一通の画像が送られてきていた。
「これは……」
なんとそれはこの工場内の見取図であった。
『便利だろうECMシステムってものは。とりあえずそれ使って行動してくれ。前進するも後退するも君ら次第だ』
その時だった。
電話の中に新たな声が入ってきた。
『ちょっとその電話貸してくれるか?』
『あ、ああ』
G部隊の人と、そこにいるもう1人の誰かが電話変わった。
そして変わった電話相手は、協力者に聞く。
『おい晴……情報提供者H、この工場内に他のデータがシステムに保存されたりしていないのか? こいつらに聞いた話だと、今狙っているのは情報らしい。それで警察と連携したんだと』
その声は、葵にとって聞き覚えのある声だった。
『いやないな。だがシステム管理下のPCは必ずあるはずだ。ただ滅多に通信をしていないからデータが残っていない。つまり、PCを通信接続することができればシステムで情報を手に入れることができる』
電話先にいる声の主は『分かった』と言うと、浩一に問いかける。
『F部隊の隊長、いるか?』
「な、なんだ?」
『あんたが指示してくれ。今G部隊の隊長はダメージのあまりダウン中だ。今頼れるのはあんたしかいない』
「え? そ、そうだなぁ……」
浩一は暫く考えると、1つの案を導き出した。
「よし、なら俺達F部隊が図を頼りに奥に進み敵を叩く。 G部隊の生き残りはPCルームへ行ってPCの通信を接続してくれ」
『了解だ。 G部隊と情報提供者H、それでいいな……こっちはいいそうだ。G部隊には俺もついて行く』
『こっちもそれでいいぞ』
「よし、なら行動を開始しよう」
そうして、浩一が通話を切ろうとした瞬間、葵が口を開く。
「春翔君、でしょ?」
浩一は通話を切ろうとした指を止める。
電話の奥にいる男は答えた。
『ああ、お前が勝手に死のうとするからだ。とにかく今は任務に集中だ。文句なら後日聞いてやる』
そう言うと、春翔は通話を切った。
葵はそれを聞くと、不思議と嬉しくなり、微笑んだ。
「どうしたの?」
突然笑みを浮かべた葵を理恵は心配する。
「……ごめんなさい。戦場で笑うなんて、私も壊れちゃったようね」
葵はそう言うと、微笑みを消し、真剣な顔になる。
「行くわよ。早くこの任務を終わらせる」
「ああ、当然だよ」
その後、彼らF部隊は先へと進む。
その道中には、あまり死体など見受けられなかった上に、敵が出てくることがなかった。
流石に彼らは不審に思った。
先程のように急に出てくることもなさそうで、人の気配も、物音一つしない。まるで嵐の前の静けさのようだった。
さらに歩き続けてみたものの、とうとう突き当たりのような巨大な空間の扉の前に来てしまった。
「おい、ここで終わるぞ。どんな空間なんだ?」
「倉庫って書いてあるけど、そういえばこの工場2階もなかったっけ?」
「それは今G部隊がPCルームに向かっているから、何かあったら連絡があるはずなんだけど」
浩一は電話をしてG部隊と連絡をとってみるが、特に気になったことなどなかったらしい。
「となると、ここが」
「ああ、大麻の栽培場所だ」
全員に緊張が走る。
そして葵な頭に単純な疑問が横切った。
「待って、そうなると、CとD、E部隊は? どうなったの?」
「ッ? まさか全員この中に? ま、またまた葵ったら、そんなわけないでしょ」
この道中、彼らはC、D、E部隊に会っていない。そうなると、この中にいるとしか考えられないのだ。
死体なんて一部しか見ていないのだ、逆にそれ以外考えられるのだろうか?
アンドリューは扉のドアノブに手を掛ける。
そして「行くぞ」と声を掛け、扉を開けた。
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