第6話 戦闘開始
作戦が開始しされた。
まず先行部隊C、Dが突撃を仕掛け、敵を撹乱させる。
そしてその取りこぼした残りを後攻部隊であるE 、F、 Gの3部隊が取りこぼすわけがないのだが。
『E、F、G部隊、突入しろ!』
C部隊の隊長の命令に、浩一は「了解」と答える。
C、Dの先行部隊が突入してから約15分、無線を介して先行部隊が言ってくるのは驚きの声だった。
聞いてみると大麻の栽培所の関係者にしてはかなり良い武器を持っているらしい。
緊張が蔓延る中、E、F、G部隊は突入し、工場の外を素早く走り内部を目指す。
外に人の気配は無し、そう思っていたが、目の前に入り口が見えてきたと同時に連続した銃声が鳴り響く。
「敵だ!」
違う隊の誰かがそう叫び、そして銃撃戦が開始する。
先行部隊が言っていた通り、敵の武装があまりにも良い物すぎる。見たところ、アメリカの特殊部隊が採用した武器を全員が装備している。
しかも敵はかなりの技量を持っている。
身体能力、射撃能力ともに特殊部隊並みだ。
当然そんな相手には流石のGASUでも苦戦を強いられる。
「クソッ! 流石にヤバいスポンサーがいるだけあるな。しんどいぞ」
「あら、アンドリュー。貴方って弱音を吐くような大男だったかしら」
葵はアンドリューに少し煽りぎみで言う。
アンドリューは「勘弁してくれ」と苦笑いしながら言うが、無理もない。
相手の数はE、F、Gの3部隊よりも圧倒的に多く、何よりも個々の技量が高い。
しんどくなるのは当然だ。
そんな中、ここにいる全部隊に聞こえる程の大きな声が響き渡る。
「EとFはそのまま中に入れ! ここは俺達でどうにかする!」
葵達E、F部隊にそう叫んだのはG部隊の隊長だった。
彼は負傷した兵を守りながら敵を撃ち倒していた。
「そんなことできるわけがない!」
浩一は発砲しながらそれを拒否する。
それはE部隊も同じ意見であった。
しかしG部隊の隊長は言う。
「甘ったれんな! 俺らは早くここの制圧して、少しでも生き残って任務を完了しなきゃなんだ! ここで全滅してさらに中の先行部隊が外の奴らに蜂の巣にされたらどうする⁉︎ いいから早く行け!」
浩一はその言葉を聞き銃弾の雨の中、苦悩する。
今動く脳細胞をフルに動かし、十数秒、その答えを出す。
「クッ、すまない、ここは頼むぞ! E部隊は行くぞ!」
その浩一の命令に理恵が反対する。
「隊長、貴方は仲間を見捨てる気ですか⁉︎」
「理恵ちゃん、分かってくれ! 今彼らの思いを無駄にするわけにはいかないんだ!」
「だからって」
彼女の気持ちは、皆んな分かっていた。
だが分かっているとしても、葵は理恵に叱咤する。
「理恵、冷静になりなさい! これは命令で、今は戦場よ! そんなこと、言ってられない!」
「……クッ」
理恵は歯を食いしばり、そして無理矢理諦め手反論を止めた。
浩一は敵の勢いが鎮まる少しの隙に、E部隊の隊長と相談し、G部隊にここを任せることに意見が一致した。
「すまない。G部隊、ここは任せる!」
「ああ、任せろ!」
浩一はG部隊の隊長にそう言うと、E、F部隊はG部隊を置いて先へと向かった。
工場の中に入ると、E、F部隊は分かれて別々に行動を開始した。
理由としては、中の情報が少ない以上、1つに固まっているわけにもいかないからだ。固まっていた方が良いのかもしれないが、場合によっては全滅してしまう可能性がある。
そして工場の奥へと向かう道中には幾つもの死体があった。
それは仲間のものもあれば、敵のものもあったが、数は圧倒的に後者の方が多かった。
「この死体の数……そうか、中の奴らは囮か」
動きもしない屍を眺めながら、光一は呟く。
「中に誘き出して、それを外の部隊が制圧。単純な手だけど、それを個の技量で補っているようね」
それに続いて葵が言う。
「だが、この死体の数だと全滅はしていないはずだ」
浩一は無線を介してC、D部隊との連絡を試みる。
しかしいくら連絡を送っても声は帰ってこなかった。
「……通信遮断か」
「これはまた厄介なことをしてくれるな」
「ど、どうするの? 外に出てG部隊と」
焦る理恵は引き返そうとするが、それを浩一は止める。
「それは無しだ。あいつらの思いは無駄にできない。つまり、俺達は先へと進むしかない」
一体何が起こっているのか把握ができず少し混乱気味なまま、F部隊は仲間C、D部隊との合流のために暗い工場内を進んでいった。
☆☆☆
一方その頃、G部隊は敵との圧倒的勢力差により押されつつあった。
こちらも同じくC、D部隊との連絡が取れず、少々混乱気味であったために苦戦を強いられた。
「おい、大丈夫か⁉︎」
G部隊の隊長は、負傷した部下の腕を首に回し、支えながら後退していた。
部下は苦しみながら悔しそうな声で「すい、ません」と謝る。
それに対し隊長は「気にするな」と励ますように言うが、部下は暗い顔を続ける。
無理もない。今G部隊5人中3人が負傷、内1人、今隊長が抱えている部下が重症、かなり最悪の状況だからだ。
隊長も強がっているつもりだが実際のところは内心諦めかけていてしまっていた。
「グアァ!」
ハンドガンを持っていた右肩が銃弾の攻撃を受ける。
赤い血が一瞬噴射するが、痛みを堪え、負傷してしまった腕を動かし、発報を続ける。
撃つ度に痛みが生じ、食いしばる奥歯がミシミシと唸るが、それでも止めない。
「隊長、俺を置いて、貴方だけでも後退して下さい……でないと、隊長まで」
「バカを言うな! 見捨てるわけないだろ! いいからお前も歩け!」
最後の言葉は、自分に対して言っているものでもある。
何故なら彼の心の中では、そうしようと思ってしまっているからであった。
そしてとうとう脚も撃ち抜かれる。
「グッ⁉︎」
歩けなくなり、地面に崩れ込む。
その途端一気に希望が消え去る。
もう無理だと確信すると、体の力が一気に抜け、死を予感する。
諦めよう……もう諦めてしまおう……何も考えずに死んでしまおう……。
そう決めた時だった。
目の前にいる敵の部隊のさらに後ろから何か音が聞こえてきた。
「これは……バイクか?」
そして次の瞬間、目の前にいた敵が後方に向けて発砲を開始した。
しかしバイクの音はどんどん近づいてくる。
G部隊の全員が困惑する。何故ならバイクが増援で来るなどということは一切聞かされていないからだ。
後ろへの発砲をする敵だったが「ウワァッ!」と悲鳴を上げながら、乱入してきたバイクに薙ぎ倒される。
「なっ」
敵の包囲網を突破してきたバイクは、地面に崩れる隊長と部下の元まで走ってくると、急ブレーキを掛け止まる。
そしてヘルメットを取り、白い髪をしたその顔を露わにする。
「……き、君は……」
隊長は唖然としながらその白髪の少年に聞く。
すると少年は跨っていたバイクから降り、答える。
「増援ってところだ。急遽割り込むこととなったクソガキさ」
「クソガキ? ……って、まさか君、一般人か⁉︎」
その問いに少年は「まぁそうだな」と、余裕そうに答える。
隊長は負傷した脚を無理矢理動かして、部下と共に立ち上がる。
「何をしているんだ! ここは危険だ、早く逃げっ、クッ」
しかし傷は思った以上に神経に響く。
隊長はあまりの痛さに膝を折る。
「そんな状態で、よくもまあそんな偉そうなことを。安心しろ。俺はあんた達よりは生き延びれるさ。もっとも、損傷程度で死ぬことはないからな」
すると少年は隊長に近づき、勝手に隊長が体に身に付けていたナイフを鞘から抜くと、軽くそれを振る。
「ここは俺1人で十分だ。あんた達は中に入って負傷者の応急処置と中の奴らに情報伝達。そしてこのナイフは、1人で戦うために必要な最低限の武器だ。借りていくぞ」
隊長から見たその顔は、自信に満ち溢れていた。
少年はクルリと隊長に背を向け、敵の集団へ向けて歩きだす。
「お、おい! 一体君は、なんなんだ?」
その問いに、少年は答える。
「だから、言っただろう? クソガキだって。そうだな、俺の特徴を有原 葵に言えば分かることだ」
そう言うと、少年は何十といる敵目掛けて駆け出した。
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