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富崎春翔のおかしな青春  作者: ザラニン
第1章 転入編
2/9

第2話 帰り道

 学校生活初日、春翔は無事に学校での授業を終え、帰路についていた。

 帰りの道は夕方なので赤く染まっていた。

 暗くなる前にさっさと帰ろうと思った春翔は、最短ルートの大通りを歩いていた。

 通りにはいかにも陽キャ臭漂わせる男女の集団が沢山いた。

 ある集団はゲームセンターへ、ある集団は大型ショッピングモールへ、またある集団は他の店へと、それを見た春翔は同年齢の人の流れを興味深そうに見ていると、とある集団が目に止まった。


「……あれは……」


 彼の目に映ったのは、建物と建物の少し広い隙間で仁王立ちをしている昼休みに屋上に呼び出してきた例の女子生徒の後ろ姿だった。

 それに付属して、5人の男が皆眉間にシワを寄せた顔で女子生徒を見ている。

 まさか女番長とでも言うのかと思いながらその現場に近づく。

 近づいていきながら何故そのようになっているのかを段々と理解していった。

 なんと、男達の手にはカムフラージュされていると思われる()()が握られていたのだ。

 春翔は建物の壁に背を付け、隠れながら隙間の中の会話を聞く。


「言い訳しても無駄よ。貴方達を検査すれば、大麻を使用していたことが分かるわ。とにかく抵抗はやめて警察に出頭することをお勧めするわ」


 女子生徒の声だ。


「は? 何言ってんだ?」


「テメェが黙っていりゃいい話だろ」


「この現場を見て、私が何も言わないとお思い? ちゃんと報告するわ」


 凄いことになっているなと思いながら、春翔は頭だけ顔を出し、隙間を覗く。

 その時、


「このクソ女が!」


 5人の内の1人が女子生徒に掴みかかった。

 しかし彼女はそれを体を捌きながら回避した。


「あらあら、頭だけじゃなくて体も鈍っているのかしら? もしそうなのだとしたら、もう手遅れかもね」


「チッ、こいつ!」


 他の4人も、彼女に掴み掛かろうと、いや殴ろうとする。

 だがそれをも彼女は足を引っ掛けたりしながら避ける。

 良い動きだと思いながら春翔はそれを見守る。

 別に増援で行ってもいいのだが、この狭い場所だと邪魔になりかねないと判断した春翔は一応いつでも出られるようスタンバイした。

 その後も彼女は男どもを相手にし、柔道技なども使いながら無力化していった。

 最後には彼女の周りはダウンした男どもが地面に倒れていた。

 そして彼女はスマホを取り出し、警察に電話をする。

 俺が出るまでもなかったなと春翔は思っていると、


「チッ……このアマがぁ!」


 倒れていた内の1人が立ち上がり、ポケットナイフを手に持って女子生徒へと向かっていく。


「なっ」


 不意だった。

 彼女にとっては戦いの素人、いわゆる雑魚、そんな相手に本気など出してはいなかった。

 だがそれ故に油断してしまっていた。


 まずいな。


 春翔は建物の影から駆け出す。

 そして彼女の前に立ち、向かってくる男の車線上に立ち塞がる。

 避けられる距離じゃない、そう判断し、()()()()()()()()()()()()()()()

 肉が裂かれる音と共に鋭い痛みが生じるが、


「フンッ」


 走りながら刺してきた男の勢いを殺さずに、男の体を抱え、女子生徒の横に薙ぎ倒した。

 春翔は腹部を確認する。

 刺さっているナイフは、刃の半分くらいのところまで春翔の腹部に入り込んでおり、ナイフを血が伝っている。

 これくらいなら刺させるまでもなかったなと思いながら、そのナイフを抜く。

 抜くのと同時に痛みが再び出てくるが、()()()()()()()()


「あ、貴方、何してるの!」


 そう言うと、彼女は近づき春翔の血が染み付いているシャツの裂けた隙間から彼の傷を見る。


「早く処置をしないと……え?」


 しかし刺されて出血していたはずの腹部からは、()()()()()()()()()()()()()



☆☆☆



 その後、駆けつけた警察に男5人を預けた春翔は女子生徒に近くのカフェへと連行された。

 当然、血の付いた春翔のことが気にならないなんてことはなく、注文を受ける店員は気味悪がっていた。

 そんな春翔はカフェなのにもかかわらず強炭酸のコーラを注文した。


「貴方、ここどこか分かってる?」


「カフェだ」


「そう、カフェよ。なのに貴方はなんでコーラを注文したの?」


「炭酸だからだ」


「ああそう」


 少し呆れ気味の彼女はすぐに話に入った。


「とにかく話に入るわ。私の名前は有原 葵(ありはら あおい)。訳あって、大麻や違法薬物を栽培している所を探している対テロ特殊部隊【GASU(ゲイス)】の者よ。勿論この事は他言無用で」


 途中小声になりながら、彼女の名前を聞けた。

 【GASU】とは、日本政府直属の対テロの部隊だ。

 2000年に作られた部隊で、法律の緩和でテロ活動が行われやすくなったのが理由だ。

 そして彼女はその部隊の一員……どうりで近接格闘ができる訳だ。

 春翔は注文したコーラを飲む。


「……そんな人が、こんな俺になんのようだ?」


「まず気になるのは貴方の傷よ。刺された場所の傷が一切見当たらなかった。でも確かに貴方は血を流していた、そうなると刺されていないとは考えられない。刺された貴方の顔は少し歪んでいたもの、痛かったはずだわ。刺された傷が一瞬で塞がった、なんて非現実的だけど、私はそう思うしかなかったわ」


「……」


「……また黙るのね。黙る時は、貴方が攻められているという証拠。やっぱり何かあるのね」


「……」


 図星である。

 まさかあの選択ミスがこんなことを招くとは、春翔もあの一瞬では思わなかっただろう。

 春翔は少し考えると、観念したかのように言った。


「ああ。葵の言っていることは間違いじゃない。俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()生まれながらこの体質でね、だからあんな無理もできた」


「やっぱりそうね。不思議なこともあるようだけど、だからといってあんなことをするのはオススメしないわ。だって、痛みはあるんでしょう」


「痛覚はあるからな。再生したとしても痛いものは痛い」


 再生して治ったとしても、痛みは改善されない。

 塞がった傷でも痛みはしばらく残る。

 

「それと、他にも質問があるわ」


「昼の時のはやめてくれ」


「……分かったわ。それじゃああともう1つだけ、お願いがあるの」


 そう言うと、一度葵は注文したアイスカフェラテを飲む。


「……私に協力して欲しい」


「……は?」


「栽培所を探すのは、私1人ではできない。協力者が必要なの。見たところ、貴方は強い。そんな貴方に、私は」


「勘弁してくれ」


 そう言うと、春翔はコーラを一気に飲み干す。


「俺の学校生活に、そんな面倒なことさせないでくれ。大麻の栽培所を探す? そんなの他を当たってくれ」


 そう言うと春翔は立ち上がり、カフェを出て行こうとする。

 しかし、それはとある言葉で引き止められる。


「そう、なら貴方のことをさらに調べ上げるわ。貴方が嫌と言う程ね」


「……脅しか?」


「さぁ? でもこれを断れば貴方は後悔することになるわ。栽培所を片付けない限りは、学校生活は楽しく送れないかもしれないわね」


「……」


「選ぶのは貴方よ。どちらにするのかよく考えて」


「春翔だ」


「え?」


「貴方貴方って言うな。俺は春翔だ」


 少し苛つきながら、春翔は言う。


「それってつまり」


「ああ、協力してやる。葵」


 いきなり下の名前で呼んだ春翔に、葵は、


「ありがとう、春翔君」


 と返した。



☆☆☆



 風呂から上がると丁度晴海から電話が来ていたので、炭酸水を飲みながら出ることにした。

 電話に出るとまた先日と同じように怒声が耳の中に鳴り響く。

 それを鎮めると、春翔は晴海に今日のことを伝えた。


「……ということなんだが、どう思う」


「マジかー。そんな面倒くさい女がいるとはなぁ」


 お前もな、と思ったが当然春翔は口には出さなかった。


「ああ。仕方なく協力はするが、GASUって、()()()()()()()()だろ? その情報なんで入ってこなかった?」


「仕方ないだろ。退役したんだからもうあの部隊の情報全部調べられる訳じゃねぇんだよ。寧ろ殆ど調べられねぇわ。てかそんなことよりも気になることがある」


「なんだ?」


「GASUは対テロ部隊だ。テロリスト関連で動く筈の部隊が、なんでその学校に潜入して大麻の売人を捕まえるなんて警察レベルのことをしているのかが気になって仕方がないんだ」


「まぁ確かに、日本政府が直々にだしな」


「これは裏があるな。春翔、一応なんかあったら連絡してくれ。私だって軽いハッキングくらいならできる」


「分かった。何かあった時は連絡する」


 そう言うと、春翔は電話を切った。

 服を着てさっさと寝ようと思っていると、スマホが再び震えた。

 また晴海なのかと思って見てみたら、それは晴海ではなく葵からのメールであった。

 そのメールを見た瞬間、春翔は「はぁぁ」とため息をついた。


"明日朝7時、屋上で待つ"

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