ああー…まじかー…
初投稿です。
「それでは、本日もご指導ありがとうございました」
幼い頃より積み重ねてきた王妃教育も、残すところあと僅か。
今日はおさらいも兼ねての王妃様とのお茶会。
膝を折り、退室の挨拶のカーテシーをした瞬間だった。
ごぼっ
私の口から、真っ赤な血が。
胸元も靴も赤くなってしまったわ、なんて。
騒然となった場にそぐわぬ恍けた事を考えながら、私の体はその場に崩れた。
寒い。さむい。さむい
心の臓から凍りついていくような感覚に襲われながら、私の脳内は
焼けるように熱い。
膨大な量の情報が溢れかえっていた。
誰かの悲鳴、抱き起こす腕、呼びかけられる声全てがどこか遠い。
それは所謂前世の記憶、というものだとどこか他人事のように理解した。
―――ああ。
私の名前はリューココリーネ・セルグシュタット。
恋と魔法の乙女ゲーム[君にフェアリーテイルの花束を]の悪役令嬢の一人だ。
といっても、よくあるヒロインに嫌がらせをしてくる類の悪役令嬢ではない。
何故なら、ゲーム開始時には既に故人なのだから。
果たしてそれは『悪役令嬢』と言えるのか。
甚だ疑問ではあるが、周囲の多くの心に傷を残して事ある毎に引っ掻くのだ。
本人がいなくとも、ヒロインと攻略キャラクター達との間に立ち塞がる壁となっている。
あとは公式がそう定義していたので、そうなんだろうというくらい。
彼女は、呪いにも似た不治の病に侵されていた。
治まらない微熱と、ふいにやってくる突然の魔力放出。
魔法の存在するこの世界において、魔力はそのまま生命力と同義。
魔力枯渇は、そのまま死に直結する。
王太子の婚約者に選ばれた要因の一つでもある彼女の持つ圧倒的な魔力量のおかげで、
幸いなことに今まで生き長らえた。
そして不幸なことに。
そのせいで、発見が遅くなった。
もはや何もかもが手遅れ。
彼女は助からない。
それは
国一番の名医である宮廷医師の診断だった。
目の前にいた王妃も
駆けつけた婚約者の王太子も
彼女を慕う侍女や衛兵も。
皆が悲嘆に暮れた。
彼女に残された時間はあと僅か。
この状態での馬車移動は命に係わると判断され、王太子妃の部屋として用意されていた部屋を急遽整えられる。
寝仕度を終え、部屋の端に控える侍女や護衛からはだいぶ離れた天蓋付きベッドでひとり。
「ああー…まじかー…」
大の字で横になり、ぼやいた。
まじです