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嘘つきは恋人のはじまり  作者: JUN
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若様の憂鬱

「これを出しておくくらい、俺がしておく。いいよ」

 言うと、同じ委員のその女子は、頭をピョコンと下げて、

「ありがとうございます!」

と言い、真秀はクラス分のノートをまとめて持つと、教室を出た。

 そして、数メートル程進んだところで足を止める。

(ついでにカバンも持って来ればそのまま帰れるな)

 思い付いて、カバンを取りに行こうと教室へ戻りかける。

 が、中から聞こえて来た声に足が止まった。

「きゃああ。黒瀬君とお話しちゃった!」

「私、何で美化委員なんかになっちゃったんだろう。いいなあ」

 今の女子とその友人だ。

 それに、男子の声が続く。

「いいよな、黒瀬は。あぁあ!敵わねえよな」

「黒瀬家若様だもんなあ」

 真秀はそっと嘆息した。

 子供の頃から、それは聞きなれた言葉だった。公園でも幼稚園でも小学校でも、仲良くなったと思っても、大人が出て来ると、途端に離される。そして次に会うと、遠巻きにされるか、変に子分のように振る舞いたがるかだ。

 なので、真秀には友人と呼べる同年代の人間がいない。唯一そうと言えなくもなかったのが、年に1度会うだけの利子だが、あれを友人と認めるのは、面倒臭くて真秀も嫌だった。

(カバンは後にするか)

 今入るのは何となく気まずい。

 回れ右しようとして、真秀は彼に気付いた。

 教室の前方の扉の前で、ムスッとした顔をしてクラスメイトの1人が立っていた。

(話した事無いけど、確か成宮だったか)

 制服を軽く着崩して、髪を肩まで伸ばしている。明るくて、軽い印象があった。

 その成宮はドアを開けると中に入りながら、

「別に家は関係ないだろう?顔と頭と運動能力だけでも、お前ら勝ってる要素あったっけ」

「なっ、成宮!」

「あはは、それは言えてる」

 中から声が聞こえて来る。

 そして成宮は出て来ると、真秀に向かって、

「おお、黒瀬」

と声を張り上げた。

「ば――ああ、おう!」

 真秀は何気なさそうに言って、後方のドアを開けた。

 中にいた男子が、ややぎょっとした顔をする。

「く、黒瀬。職員室は」

「カバンを持って行って、そのまま帰ろうと思って戻って来た」

「そ、そうか」

 真秀は机からカバンを取り上げて、悠々と教室を出た。

 歩いていると、なぜかずっと成宮が横について歩いて来る。

「何だ」

「別に」

「……」

「彼女、いるんだろ」

「ああ」

「許婚者がいるって、どんな感じ?」

「最初はまあ、押し付けられるのは嫌だと思ったよ。それで、まあ、家出した」

「はあ?」

「そうしたら向こうも同じで、偶然会って、お互い偽名で1晩過ごして、こいつと付き合いたいと思ったら、当の許婚者だったんだ」

 成宮はポカンと口を開けて真秀を見ていたが、面白そうに笑った。

「お坊ちゃんだと思っていたのに、やるな。

 で、どこまで行った?」

「公園から山の牧場まで行ってまた公園へ――」

「違う!キスとか、その先とか――」

 全部言う事は出来なかった。なぜなら、動揺した真秀が、ノートを取り落として廊下にぶちまけたからだ。

「ああ、何やって」

「キ、キスなんて、まだ」

 ゴールデンウイークに、ベランダで川田氏と3人並んで月を見上げた日の事が頭に甦る。

「ああ、川田さん、やっぱり見てたのか?それで牽制したのか?どうしよう。

 でも、霙は嫌そうでもなかったし。

 まずい。ヘタレって思われてるのか!?」

 考え込む真秀に、成宮は

「大丈夫か?でも、黒瀬って面白いヤツだったんだな」

と吹き出した。

「え?言われた事ないな」

「もっと早く声かければよかったなあ。ああ、失敗した」

 成宮はゲラゲラ笑って、ノートを半分持つと一緒に職員室へ行き、そして、一緒に途中まで下校した。

 帰宅してから、真秀は気が付いた。

「友達?こっちで唯一の友達ができたのか、俺」

 レインが飛びついて来たので、無意識に撫でながら、真秀は呆然としていた。







お読みいただきありがとうございました。御感想、評価など頂ければ幸いです。

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