決断
川田家は、お通夜のようになっていた。
空の妊娠そのものも驚きだが、それでどうするか決めるにも、父親である村上が行方不明だ。
川田氏は娘の妊娠に、いきなり老けたように見えた。そして、
「真秀君はそんな事はしないよな。信じているからな」
と泣きそうな顔で取りすがって来る。
川田夫人は、とにかく体が第一と決めたらしい。食事を作り、食べさせ、普段通りに振る舞っている。
「女は強いって事かな」
真秀は川田氏をくっつけながらそう呟いた。
霙は、村上への不満が募っていた。
最初はそうでもなかったのだが、空の妊娠発覚で、強硬になった。
「無責任だわ。父親なのに」
「でも、本人も知らない事だし」
「真秀、村上さんの肩を持つの?」
「そうじゃないけど」
「……そうね。ごめん。八つ当たりだわ」
「いや、無理もないよ」
「……ところで、やっぱり真秀も、そういうの、興味あるの」
「え!?いや、まあ、無い事は無い、けど」
しどろもどろになり、そして、真秀と霙もギクシャクし出す。
(ここにいるのもあと少しだといいうのに。
村上さんとやら。恨むぞ)
真秀は、あった事のない村上に、密かに恨みの念を送ったのだった。
空は自室でぐっすりと寝ると、晴れ晴れとした顔で出て来て、宣言した。
「わたし、決めた!この子、1人でも産んで育てる」
「お姉ちゃん」
「昇太がこのまま見つからなくても仕方ない。見つかって、一緒に育ててくれるって言えば、そうする」
川田氏はガックリと首をたれながら、静かに言った。
「わかった。わかったけど、空。見つかったら、答えに関わらず、1発殴るぞ」
霙も頷く。
「私も応援するね。
で、私も村上さんに、至近距離からフルオートを叩きこむから」
川田夫人は、にっこりと笑った。
「あらあら。物騒ね。警察沙汰にはならないようにしなさいね。やるならバレないようによ」
真秀は、
(俺は絶対に、こういう事にならないようにしよう)
と決心した。
ドアチャイムがなったのは、そんな時だった。
「はあい」
霙が出る。
そして、
「え!?村上さん!?どこにいたの!?お姉ちゃんが大変だったのに!」
という声と、
「え!?空に何か!?」
という声がして、ドタドタという足音がし、村上がリビングに飛び込んで来た。
やたらと薄汚れているし、無精ひげが伸びている。
「え?この人が?」
真秀は、予想と違うその風体に、皆の様子を窺った。
川田氏は唖然としたように固まり、川田夫人も口を覆って驚きを隠せないでいる。
そして空は、
「どこに行ってたの」
と涙のにじむ声で言うと、フラフラと村上に近付き、
「電話くらい出なさいよね!!」
と回し蹴りをした。
「ぐおっ」
体をくの字に折って膝を付く村上に、川田氏と川田夫人が慌てて駆け寄った。
「ちょっと、村上さん!?」
「だ、大丈夫か!?」
真秀は、眉を八の字にした霙と並んでそれを見守った。
「す、すみません。アマゾンの奥地って、電波が入らなくて。戻って来たら、電池が切れてて」
村上はそう言い、どうにか笑顔らしきものを浮かべた。
「アマゾン?」
全員の声が重なる。
「はあ」
空は腕を組んで仁王立ちになっていたが、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「わかるように、順番に説明して。
その前に、落ち着かないから座って」
「はい」
村上はちんまりとソファに腰を掛け、全員が聞く体勢になった。
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