表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

小さな言葉の刃

作者: 哀

愛について、即興で考えました。

 愛――それは人の心、感情の名称。

 恋愛・友愛・親愛…愛にも種類がある。その中には、ふれてはならない愛もある。

 これは、そんな愛のひとつ。


「愛してるよ」

 その言葉に吐き気を覚える。きっと、自分は頭がおかしいのだと女は思った。

 愛を囁かれること、それはとても幸せなはずなのに。胸元からこみ上げる気持ち悪さに眉を顰める。

 目の前には一人の男。伸ばされた手は女の頬を撫でていた。


 気持ち悪い。


 心の奥にそんな感情を押し込めて、女は引き攣った笑みを浮かべる。

 顰めた眉をなんとか吊り上げて務めて明るくふるまって。

「わたしも、愛してるよ」

 嘘で塗り固めた女を、男は愛おしそうに細めた目で見つめた。


 気持ち悪い気持ち悪い。


 どろりとした何かが胸の中に広がる。

 まるで心臓が引き裂かれるような、ねっとりとした血の塊でもあふれるかのような。

 愛を囁きあうのは、とてもとても、幸せなはずなのに。

 嘘なんて、ついていない、はずなのに。


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


 そっと、男が女を抱きしめる。その腕からはこらえきれない愛おしさがにじむ。

 とても優しく、愛しく、哀しい。

 愛おしいしぐさも、その目も。男自身も。女は確かに好きだった。

 嗚呼それなのに、それなのに。

「愛してる」


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…!


 背筋をぞわぞわと駆け上がる嫌悪感に似た気持ち悪さ。

 女は自分が嫌で嫌で仕方なくなる。

 その言葉を聞くだけで、まるでナイフを突き立てられるような苦しみを抱く。

 愛、愛、アイ――…


「アイしてる」

―気持ち悪い―


 ぬるりとした感触。ひやりとした刺すような冷たさの直後、一気に熱くなる。

 ゆっくりと目を見開く。苦しい。痛い。イタイ。

 血の気が失せていく。ジワリとにじむ涙が視界をぼかした。


「…あ…」


 ずるりと体が沈む。体に力が入らない。

 こみ上げていた気持ち悪さがともに失せていき、代わりにこみあげてきたのは。


「アイしてる」


 確かな愛おしさだった。

 じっとりと足元を濡らす赤いアカイ血。

 ずるりと抜け落ちキラリと光ったのは、銀色のナイフ。

 嗚呼、アイしてる。


「あいしてる」


 女が幸せそうに囁く。真っ赤に染まった両手で男を抱きしめる。

 男の血が、女を包む。

 突き立てられた愛の刃を、深く刺し込んだ。溢れたそれはアイだった。


――アナタに突き立てられた愛の言葉を、ワタシはアイの刃で返す。

  アナタが発するたびにあんなにも突き刺さった言葉を、今なら正しく言えるよ。


「あいしてるよ」

 こたえるように、血の雫がぽたりと音を立てた。



 その愛は、狂愛は、命を奪う。

アイについて、考えましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ