幕間 新しき賢者と黒衣の男そのニ(10000PV突破記念)
本編のキリが良いところでPV記念です!
三つに渡った記念企画の最終段を、どうぞお楽しみください!
冒険者ギルドは、今や王侯貴族の権益すら脅かしかねないほどにまで成長した巨大組織となった。
その成長の要因は大きく分けて二つ。
一つは二十年前に勃発した第四次東方戦争により、多くの王侯騎士が東部に流入し、それにより悪化した魔物や山賊による治安を取り戻し、市民からの信頼を得たこと。
そしてもう一つは、十年前に起きた大戦争『四年戦争』において、勇者義勇軍として参加し、多大な戦果を挙げたこと。
そんな十年前、勇者軍に加わった総勢一万五千余の冒険者達の先頭に、後世『新しき賢者』と呼ばれる男が、立っていた。
○
「――ここは私の左翼が軸になって、斜線陣を引くべきだと思うんだけど、ギル兄どう?」
「うーん、ここ最近うちの隊の損耗が激しいからなぁ……どうしたもんか」
パチパチと、松明の弾ける音がする夜戦陣地の中で、そんな軍議の声が響く。
「……あー! 私考えるの嫌い! ねぇ、カールはどう思う?」
軍議の途中、突然中心にいた赤髪の少女が話を振る。振られた先には、丸眼鏡を掛けた線の細い男が、目を丸くさせて驚いている。
「ぼ、僕!? えぇー……」
そう言って、カールと呼ばれた困った顔をして頬を掻く。
「カール頼む! 俺達じゃもう思い付かん!」
少女と積極的に軍議に参加していた黒衣の男が、そう言って手を合わせてカールに頼みこむ。それを見て陣営の他の者達も、一緒になってカールに手を合わせる。カールは引くに引けなくなった。
「えぇー…………わかったよ……うーん」
カールは苦笑いしながら渋々前に出て、地図を見る。
「…………これまでは、ギルの隊から突出して相手を突き破って来た」
「だな」
「だったら相手は必ず、ギルの隊を警戒してそこの戦力を厚くしてるんじゃないかな……?」
カールはそう言って自軍右翼と、相手の左翼を指差す。
「だから相手の意表を突いて、エル率いる左翼の『聖勇騎士団』から前に出てみたらどうかな……?」
「「おぉー!」」
幕内から歓声が上がる。
「さっすがカール! 賢者の異名は伊達じゃねぇぜ!」
ギルと呼ばれた男はそう言ってカールの肩に手を回してニッカリ笑う。
「ちょ……ギルぅ……」
カールは恥ずかしそうに頬を赤らめて、小さく抗議の声を挙げるが、どうやら聴こえていないようだ。
「エル! お前もそれで良いか?」
「もちろん! うちの隊もギル兄の所に憧れてる人多かったから、丁度良かった! カール、ありがとね!」
こうして、その日の軍議は終わったのだった。
○
「いやぁー! 勝った勝った! 大勝利だ!」
「奴らまんまと策にかかったな!」
「流石は『新しき賢者』様だな!」
翌日早朝から行われた戦闘は、カールの策が見事に当たり、相手魔族軍は壊滅。
戦闘は半日とかからずに終わり、類を見ないほどの完勝となった。
「カール! お前の策のお陰で俺たちは大勝利だ! ありがとう!」
「うん……」
カールとギルベアドは、大勝利を喜ぶ兵達の声を聞きながら、眼前に広がる戦場の跡を見ていた。
「ねぇ、ギル」
「どした?」
「……この光景を作り出したのは、僕なんだよね?」
カールはそう、悲しみともなんとも言えないような声で、そう言った。
ギルベアドは、静かにそんなカールの肩に手を置き、こう返した。
「……戦場で当初の策がそのまま形になって大勝利、なんてのは殆ど無い。実際、エルの部隊の正面には予想よりも多くの敵が居たし、両翼には野戦築城もしていた。その上後方からは敵の増援が一万も着々と迫る。その中でもエルは騎士団を率い、防塁のある正面より少し外側に逸れて回り込んで、陣営を突き崩した。……それにそもそも、策を求めたのは俺達だ。策を採用したのも俺達だ。そしてこの結果を生んだのも、俺達だ。お前だけに責任を背負い込ませはしない」
ギルベアドはそう言ってカールを見つめ、
「カール、ありがとな。俺達を策で救ってくれて」
そう言ってまたニッカリと笑った。
西日に照らされたその笑みを、カールはきっと忘れる事はないだろう。
○
――現在、法皇庁奥院・賢者の部屋
様々な薬品の匂いが漂うその部屋には、肩にフェニックスを乗せた白衣の男と、本棚に乱雑につまれた大量の蔵書と、匂いの元の薬品や薬草達があった。
男は、羽根ペンで羊皮紙に何か文字を綴っている。どうやらこの辺りの国の文字では無いようだ。
男はしきりに何度も液をつけ、文字を綴りを繰り返す。
女性の様に長く伸びた髪は、手入れがされていないのか、ボサボサで艶もない。だが、不思議と不潔ではなかった。
「――出来た」
男はそう呟いて羊皮紙を広げ、見直す。
「……うん、大丈夫だ」
男は満足そうな笑みを浮かべ、掛けていた丸眼鏡を外す。
「ロッソ、これをエルフェブルクの勇者に。頼んだよ?」
男はそう言って手紙を丸め、フェニックスの足にくくりつける。
フェニックスはすぐに飛び立ち、見えなくなった。男はそれを、少し悲しげな笑みを浮かべて見送ると、机に置いてあった二つの瓶に目をやる。一つには、紫色の帽子のような花の咲いた植物が入っており、もう一つには、魚の肝のような物が入っていた。
「ギル…………許されることなら、最期にもう一度だけ君に会いたかった」
男は二つをそれぞれすり鉢と乳棒で砕き、小さくする。
「…………まだ死にたくないだなんて、そんなこと言っちゃ駄目だよな」
男は薬包紙にそれらを移す。
「ギルベアド・クルーガー。さようなら……」
男は二つを一気に飲み下す。その直後、背後の扉が開き、弟子の一人が入ってくる。
「師匠、フェルリッツのホーエンハイム殿が亡くなられたようです。何でも、殺害されたとか……」
「それはいけない。すぐに猊下をお呼びしてくれるかい?」
「わかりました。直ちにお呼びします」
弟子はすぐに立ち去り、足早に廊下を駆けていく。カールはその背を見ながら、自身も自室を後にしたのだった。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします!




