使命
少年の慟哭が、広間に響く。
「おとーさん……」
ヘレナは、なんとも知れない顔でオスカーの袖をぎゅっと握りしめ、少年――ジークムントを見つめる。
「ああ……」
オスカーはヘレナの頭を撫でると、ホーエンハイムの亡骸にすがり付き泣くジークムントに歩み寄る。
「父さんっ! 父さんっ! ぼくを、置いていかないでよっ!! 父さんっ!!」
ジークムントは、そう言って泣きじゃくる。
オスカーは、そんなジークムントのすぐそばまでやって来て、目線を合わせるように屈む。
「……俺が、憎いか?」
「ッ!!!!」
ジークムントはパッと顔を上げ、涙で潤んだ瞳でオスカーを睨み付ける。明確な殺意を持った、鋭い視線だ。
「……俺が、憎いか?」
オスカーはジークムントの瞳を見つめ、もう一度聞く。
「どうして……どうして父さんを殺した!! ぼくたちは父さんに居場所を貰った!! 父さんといっしょに暮らせればそれで良かった!! なのに……なのに……どうして父さんをっ!」
ジークムントはオスカーに摑みかかる。オスカーは、それを払いのけること無く話を続けた。
「この男は、子供達を魔石に加工していた。我が子と呼んだ子供を、何のためらいもなくだ。いずれお前も、こうなっていたかもしれないぞ?」
オスカーはそう言って地面に転がる小さな赤い星を指差す。先程オスカーが投げたものだ。
「ぼくはそれでも良かった!! 他の子達もきっと同じだ! ぼくたちの居場所はここしかない! 居場所をくれた父さんのためだったら、こんな命――」
「自分の命を粗末にするもんじゃない。人は、何かの使命があってこの世に産まれ落ちる。……お前の使命は何だ? 今お前が一番やらなくてはならないことは何だ?」
オスカーは問う。その姿を、後方からヘレナが見守る。
「ぼくの使命は…………! ぼくは、お前を殺して、父さんの仇を取ってやる!! きっと強くなって、お前を殺してやる!!」
ジークムントはそう高らかに宣言する。深い憎しみと、覚悟が見て取れる。
オスカーはフッと笑うと立ち上がり、落ちている赤い星をジークムントに投げて寄越す。
「そうか……それがお前の使命か! なら良く覚えておくことだ。お前の父親を殺した男の名は、ギルベアド・クルーガー。またの名を、『大烏』オスカー・シュミット。この名前を、声を、身なりをそして、この顔を良く覚えておくことだ……!」
オスカーはフードを外して、顔をさらす。額には小さな角が二本、髪の隙間から顔を覗かせている。
「また会おう、『救い手』の息子。俺を殺しにこい」
オスカーはそう言ってジークムントの頭に手を置くと、踵を返してヘレナと共にその場を立ち去った。暗く広いその部屋には、ホーエンハイムの亡骸と、一人の少年だけが残された。
○
二人はしばらく地下を歩き、外に出る。
そこには、既に大勢のフェルリッツの兵士達が居た。その中に、オスカーは一人の男の姿を見つける。男も、オスカーの姿が見えたようだ。兵士を伴って、オスカー達に近づいてくる。
「……リード」
「良く無事だった……ここが何者かに襲撃されたと聞いて飛んできたんだが、着いた頃にはこの有り様でな。中は?」
オスカーはフリードリヒの意図を察した。どうやら兵達には事実を伝えていないらしい。
「俺も何が何だか良くわからなくてな。ヘレナを連れて一目散に逃げてきた。中では爆発が起きた。入らん方がいい」
「そうか……わかった。とにかく城に戻ろう。ヘートヴィヒが心配してる」
フリードリヒはそう言った後、兵に別命あるまでその場に待機と言い、オスカー達を連れて用意していた馬車に乗り込んだ。
「ヘレナちゃん!!」
「うわっ! っとと……ヘートヴィヒちゃん!」
「良かった……無事で本当に……良かった……!」
「ヘートヴィヒちゃん……心配かけてごめんなさい」
馬車から降りたヘレナに、ヘートヴィヒはそう言って飛び付き、抱き締めた。二人の目には、涙が浮かんでいる。
「シュバルツも無事だったか。ありがとな」
ヘレナに続いてオスカーも馬車から降り、いつの間にか城に戻っていたシュバルツの顔を撫でる。
「ひとまず中に戻って休もう。二人とも疲れたろ」
最後に出てきたフリードリヒは、オスカー達を見てそう言う。一行はフェルリッツ城に戻るのだった。
オスカーは、右手で、ヘレナの左手と繋ぐ。その逆側の手の甲には、『慈悲』の紋様が、静かに浮かんでいた……。
○
「……親父殿、まさかあんたも死んじまうとは」
オスカー達が去った広間に、男の声が響く。
その額には大きな角が二本。魔族だ。
「あんたの無念は、意思は、俺が引き継ぐ。傲慢な俺様が、全部纏めて背負い込んでやる。だから、ちょっと休んでてくれ……」
男はそう言って拳を強く握る。その手は、まるで金属のように硬化し、変色し、光沢を帯びた。
「ギルベアド・クルーガー……お前は、この『峻厳』のアウグストが、そして復活派が、必ず…………!」
男の名はアウグスト。峻厳にして、傲慢の加護を持つ、復活派の頭目である。




