父よ子よ
「おとーさんっ!!!!」
ヘレナの声が、広間に響く。
――オスカーの意識は、覚醒した。
「……!」
オスカーは、迫るホーエンハイムの手首を摑んだ。
「……お目覚めですか?」
「可愛い娘の声が聞こえたもんでね。最高の目覚めだ! レト・イルクレア!」
オスカーはそう叫ぶ。足元から黒い棘が伸びる。
「そうでなくては……!」
ホーエンハイムはオスカーの腹を蹴り後退する。棘は虚空を貫く。
「おとーさん!」
「ヘレナ! 大丈夫か?」
「うん! おとーさん、今そっちに――」
「俺は大丈夫だ! おとーさん、久々にヘレナに格好いいとこ見せたくなっちまったからな!」
そう言ってオスカーは、左腕の陰の腕を編み込み、ねじり、元の一本の腕に修復する。
一方のホーエンハイムも、体の傷や欠損をみるみるうちにもとに戻していく。どうやら胸腔の中の赤い星の力らしい。
「我が子の声援を得て力を取り戻す。素晴らしい……!」
「愛娘に良いとこ見せたいのは、父親の性だ。行くぞ!」
オスカーはそう言って、トリストラントから受け継いだ赤い星を投げる。
「ラ・シーナ!!」
オスカーが唱える。赤い星は、ホーエンハイムの目線のすぐ前で力強く光り輝く。
「ぐっ……!」
ホーエンハイムは顔をそらし、腕で覆う。
オスカーは肉薄する。星は未だ光り続ける。皮膚を炙るような痛みが走る。オスカーは足を止めない。
「ガーゴ・ダルルク。」
素早くその場に屈んだホーエンハイムは、そう唱え、右腕を地面につける。そこから土の壁が、オスカーに向かってせりだす。
「くそっ!!」
「一筋縄では行かせませんよ。」
オスカーは後ろに飛び退いて壁を避ける。オスカーは、進路と視界を遮られた。
「おとーさん右にっ!!」
「……!」
ヘレナがそう叫ぶ。オスカーはすぐに右に飛び退く。
ゴォン!!
直後、オスカーが居たところの壁が大きく崩た。ホーエンハイムはそこから腕を伸ばして現れる。
「父娘の絆で、命拾いですか。素晴らしい!」
ホーエンハイムはそう言って、瓦礫を蹴散らしながらオスカーに肉薄する。オスカーは後ろに飛び退き、距離をとる。しかし、
「なっ!?」
視界が揺らぐ。円筒状の何かを踏んだ。ホーエンハイムの腕だ。オスカーはバランスを崩して後ろに倒れる。
「おとーさんっ!!」
「終わりです、オスカー・シュミットォォ!!!!」
ホーエンハイムが腕を伸ばし迫る。速い。術を唱える暇すらない。……そのときだった。広間に、一人の少年の声が響いた。
「父さんっ!!!!」
ホーエンハイムの動きが一瞬、ピクリと止まる。その瞬間を、オスカーは見逃さなかった。
「レト・イルクレアァァァァァァァァァァア!!!!!!」
オスカーは叫ぶ。地面から無数の棘が伸びる。棘はホーエンハイムの胸腔、最高傑作と謳った巨大な赤い星を貫く。
パリンと、水晶が砕けるような音と共に、赤い星は割れ、砕け散る。ホーエンハイムはその場に倒れた。
「おとーさんっ!!」
「ヘレナ!! 良かった……無事で本当に良かった……!」
ヘレナがオスカーに駆け寄る。オスカーはそんなヘレナを力強く抱き締める。二人の目尻には、輝くものが浮かんでいた。
「父さんっ!!」
そんな二人の脇を、一人の少年が駆けていく。少年は、倒れるホーエンハイムの横で膝をつき、手を取る。
「ジーク……ムント。怪我は……?」
「ぼくのことは良いから! 父さんっ!!」
「君は優しいですね……きっと、良い大人になれます…………あぁそうだ、オスカー様……。」
仰向けに倒れるホーエンハイムは、オスカーにそう声をかける。
「……何だ?」
「願い星すら貫く槍を、お教えしましょう……貴方なら、きっと……。」
ホーエンハイムは、自身の着ていた黒いコートを指差す。が、
「要らん」
それをオスカーは一蹴する。ホーエンハイムは、力なく笑った。
「貴方らしい……ですね…………。私の、赤い星は…………ね、実の……娘なんです………………。」
「…………」
「私は…………どう、しても……生きて、欲しかった………………子供は、魔力が……多い、ですから…………娘は…………特別、多かった…………ですがね……。」
ホーエンハイムは、語り続ける。
「灰の獣…………は、まだ暴れて…………いますね……あれ、は…………私が、作りました…………猊下の、支援です…………」
「灰の獣を……?」
そう聞き返したオスカーの言葉は、もはや届いていないようだった。
「あの娘、には…………悪い、事を…………しました…………。実験に…………使って………………許されない……オス、カー……様。」
「なんだ?」
「あの娘を………………頼………………――――」
ホーエンハイムは力尽きた。少年の慟哭が、広間の静寂を貫いた。




