ジークムント・フォン・ホーエンハイム
「はじめまして! 君、名前は?」
「ヘレナです。よろしくお願いします……」
鈍い金色の髪を後ろで三編みにした、蒼い瞳のその少年の問いに、ヘレナはそう答える。
「ヘレナか、良い名前だね! ぼくはジークムント! よろしく!」
ジークムントと名乗る少年は、そう言って手を差し出す。ヘレナは、少し警戒しながらその手を取る。どうも悪い人では無さそうだ。
「君も、父さんに連れられてきたの?」
「父さん?」
ジークムントの問いに、ヘレナは首を傾げる。オスカーの事で無いのは確かだが、誰なのだろうか。ヘレナは後ろに立つ仮面の男をちらりと見て、またジークムントに向き直った。
「あれ、違った? 父さんは、ホーエンハイムって名前なんだ。すっごいお医者さんでね、色んな所に行っては、たくさん人を助けてるんだ!」
「ホーエンハイムさんって、ぼうけんしゃのホーエンハイムさん?」
「そうそう! ぼうけんしゃもやってるんだ! よく知ってるね?」
「わたしのおとーさんもぼうけんしゃでね、おとーさんといっしょに色んな所を旅してるんだ!」
「旅してるの!? すごいすごい! ぼくは小さいころにここに来てから、ほとんどフェルリッツから出たこと無いんだ。良いなぁー……」
ジークムントはそう言ってヘレナを羨ましがる。ヘレナは少し照れながら、「えへへー……」と満更でも無さそうにする。
「ねぇヘレナ! 旅の話を聞かせて? ぼくもいつか、父さんを手伝いながらいっしょに旅するのが夢なんだ! ぼくだけじゃなくて、他のみんなも同じなんだ。だめかな?」
「ううん! そんなこと無いよ! えっとね、まずは何から話そうかなぁ……」
ヘレナはそう言って子供達の輪のなかに自然と入り込み、旅の話をし始めた。
ガタガタ揺れる馬車で舌を噛まずに話す方法や、精霊と仲良くする方法、果てはヒョウモンイノシシやワイバーンの倒し方まで話し、子供達はその話に大いに盛り上がった。
「良いなー!」
「すごいすごい!」
「ぼくもやってみたいなぁー!」
「わたしもわたしも!」
「怖くないの?」
ヘレナは子供達からの期待に応えるべく、どんどん話をしていく。……勿論、オスカーの正体や、自分が加護を持っていることは伏せているが。
その度に反応したり、質問をくれる子供達と、ヘレナは確実に距離を縮めていった。彼らとなら、きっと良い友人になれる。ヘレナはそう思った。
ヘレナはしばらく旅の話をし、それが終わると今度は子供達が自分の身の上話をし始めた。
紛争地帯に産まれ、彷徨っていたところをホーエンハイムに助けられたという子もいれば、生まれつき足が不自由で、捨てられそうになった所をホーエンハイムに引き取って貰ったと言う子、貧民街でごみ漁りをしていたところをたまたまホーエンハイムらに見つけて貰い、仲間共々引き取られた子もいた。そしてみんなが言い終わると、最後にジークムントが口を開けた。
「最後はぼくだね。ぼくはここからずーっと北の、ノルヴァントのひんみんがいで産まれたんだ。とっても寒い所で、いつもこごえてた。朝起きたら、となりでねてた友達がそのままこおって死んじゃってた事も何回もあった。……ぼくは、好きな子がいたんだ。ソニアって子だった。とってもかわいい子だった。でもあるとき、ソニアは金持ちにさらわれちゃったんだ。ぼくたちはみんなでソニアを助けようとしたんだけど、だめだった。そんなとき、父さん達がやって来たんだ。ぼくがソニアのことを話したら、父さんはすぐにとりもどしてくれるって言ったんだ。そしてぼくたちに、あったかい食べ物とねどこをくれた。父さんは、ソニアを連れもどしたら、みんなでいっしょにくらそうって言ってくれたんだ……」
ジークムントはそこで少し話を区切った。話を聞いていた子が、そんなジークムントに聞く。
「それで、ソニアはどうなったの?」
ジークムントは顔を曇らせて、話を続けた。
「……だめだった。父さんが行ったときにはもう殺されてたんだ。その金持ちは人殺しがしゅみで有名な家だった。ひんみんは、人じゃないから殺してもだれも文句言わないから……。父さんは、ぼくたちに聞いた。ソニアのかたきを取りたいか? って。ぼくたちはうんって言った。そしたら父さんは、ぼくたちにたいまつとたんとうをくれた。これでかたきをうってこいって。それで、かたきをとったら家族になろうって言ってくれた。……ぼくたちはかたきをうって、館に火をつけた。その後、ぼくたちは父さんに引き取られた。そのときから、ぼくは父さんの子どもとしてここにいるんだ」
ヘレナはなにも言えなかった。自分がオスカーと旅を楽しんでいた頃、別のところではこんなにも壮絶な人生を歩んでいる子が居たのだ。
旅に危険は付き物だ。だが、ヘレナにはオスカーがいた。Sランクに勝るとも劣らない腕利きの冒険者だ。自分は揺りかごの中で守られていただけなのだと言うことを、思い知らされた。
話を終えたそのとき、轟音と共に地面が大きく揺れた。
ヘレナは、嫌な予感を覚え、一人音のした方へ走り出す。シルフィードと、ジークムント、そして仮面の男はすぐにそれを追ったのだった。




