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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、東を望む
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廊下を抜けて

 ヘレナは前後を警戒しながら、廊下を突き進む。

 薄暗い廊下には部屋がなく、もし誰かに出くわしても、隠れる場所がない。


「長いね……ヘレナちゃん大丈夫?」


 歩き続けてしばらく経ち、シルフィードが心配そうにヘレナに聞く。


「だいじょうぶ。でも、ここがどこかわからないと……」


 ヘレナはそう返すが、浮かない顔をしている。不安なのだ。


「そうだね……一旦休憩する?」

「ううん、まだ歩かなくちゃ」


 シルフィードの申し出を断ると、ヘレナは歩調を少し早めていく。額には汗をかいており、焦りが見れる。


「ヘレナちゃん、焦りは禁物だよ? 戦場で焦って死んでいった人を僕は大勢見てきた。ヘレナちゃんに何かあったら、僕はオスカーに顔向け出来ない。今は休もう?」


 シルフィードにそう言われて、ヘレナはようやく立ち止まった。


「シルフィード、もしここから出られなかったらどうしよ……?」


 ヘレナはそう言って後ろにいるシルフィードの方を振り返る。その目は、涙で潤んでいた。いくらわいバーンを倒したとはいえ、ヘレナはまだまだ子供なのだ。大好きな父親と引き離されて、不安になって焦るのも、涙を流すのも無理はない。


「大丈夫、きっと出られる! オスカーとも合流できるさ!」


 シルフィードはヘレナを勇気づけるために、そう明るく振る舞った。


「ほんと?」

「勿論! 僕を誰だと思ってるんだい? 君のおとーさんの相棒だぜ?」

「……ありがとう、シルフィード」

「どういたしまして、可愛らしいお嬢様。休憩したら、また歩こう」

「うん!」


 ヘレナは、やっと笑顔を取り戻した。









 ヘレナ達は、その場に座り込んで休憩している。ヘレナはかなり歩き詰めていたらしく、壁にもたれ掛かってうとうとし始めてしまった。


「眠っちゃっても大丈夫だよ。僕とルドルフが周りを見てるから」

「キー!」


 ヘレナはコクりと頷くと、そのまま目を閉じて眠りに入ろうとした。だが、


「――! シルフィード、だれか来る!」


 目を閉じた瞬間、加護が発動した。ヘレナの耳もとで、加護がささやく。


――誰かが向かっている。


 と。


「どっち!」

「わたしたちが来た方! 人数は二人! 大人とこども!」


 そう話していると、次第にカツカツと廊下を歩く足音が聞こえてきた。一行はそちらを振り向き、身構える。薄暗い廊下だ。かなり近づくまで相手をはっきり認識できない。だが、それは向こうも同じはずだ。


 音はどんどんと近づいてくる。


「ヘレナちゃん、逃げるかい?」

「……ううん。にげきれないと思う。それに、わたしたちに何をしようとしてるのか、知りたいし……」


 音はみるみる近づいてくる。


「ヘレナちゃん。何があっても、必ず僕が守るからね」

「ありがとう」


 音は、ヘレナのすぐ目の前で止まった。そこには、一人の大人がいた。小鳥を模した仮面を被った、大男だ。ヘレナは、彼を知っている。


「……仮面のおじさん?」

「ヘレナちゃん、こんなところに居ましたか。部屋に居なかったので探しましたよ」


 彼は、大雨に見舞われたヘレナとヘートヴィヒを小屋に匿い、城まで連れてきてくれた恩人だ。


「ここはどこですか?」

「警戒しなくても大丈夫。ここは小夜啼鳥の館(ケルッスス)の本部地下です。夜中に急に意識を失った貴女を、我々がここ運びました。容態は安定していますね。……そうだ、ここにはヘレナちゃんと歳の近い子供達が大勢います。良ければ来てくれませんか?」

「気を失ってたんですか?」

「ええ。夜中に突然。お父君は大層動揺なさっていました。ヘレナちゃんの容態が回復したのがわかりましたので、すぐに遣いを出してお迎えに来てもらいましょう」


 仮面の男は物腰柔らかく、そう言った。


「では、良ければこちらへ……」

「ヘレナちゃん、どうする?」

「……行ってみよう」


 ヘレナは少し気味の悪さを覚えながらも、仮面の男の後ろに着いて歩いていった。しかし、その気味の悪さの正体に気づくことは出来なかった。


 ――加護の反応には、大人と子供の二つが出ていたというのに、ヘレナの前には一人の男のみが現れたことに、誰も気付かなかったのである。



 一行は仮面の男に着いていく。

 しばらく歩くと、開けた場所に出た。かなり明るい部屋だ。円形の大きな部屋で、遊具や玩具が置かれ、その部屋を囲うように幾つもの扉が壁に着いている。

 その円形広場には、男の話通り多くの子供がいた。

 ヘレナと同年代の子供が大多数を占めるが、少し歳が上の子や、赤ん坊の様な子も多い。

 その中の一人、ヘレナと同い年のように見える少年が、近づいてきた。


「はじめまして! 君、名前は?」


 少年の瞳は、希望に満ちていた。

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