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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、東を望む
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願い星すら貫く槍

「――昨日を超える(ギルヴァレント)


 辺りが激しい光に包まれる。

 その光が弱まり、オスカーは目を開ける。そこにいたホーエンハイムは、甲冑の隙間や関節部位からドス黒い粒子を放ち、低い姿勢で構える。


「では、行きます……!」


 ホーエンハイムはオスカーに肉薄する。オスカー以上の速さだ。瞬く間にオスカーの眼前に躍り出、籠手に仕込んだ鉤爪を振るう。オスカーはそれを剣で防ぐ。その力に腕が、骨が軋む。刃が欠ける。思い切り踏ん張らなければ吹き飛ばされてしまいそうだ。


「ぐっ……レト・イルクレア!」


 オスカーは唱える。彼の足元から三本の棘がホーエンハイムに伸びる。だが、ホーエンハイムはそれを避けない。棘は太ももに、脇腹に、あばらに突き刺さる。傷口から粘度の高い、真っ黒な液体がヌルリと溢れる。おおよそ人の血液とは思えない。


「今の私に、人間用の小細工は通じません。ご理解下さい。」


 次にホーエンハイムから、左腕が飛んでくる。オスカーは右手を受け止めるだけで両手をふさがれ、精一杯だ。


「ぐっ……!」


 ホーエンハイムの腕が、オスカーの右胸に下から突き刺さり、貫通する。傷口からは少量の血液と、黒い粒子が出る。


「おや、貴方もこちら側でしたか? 我々、共通点が多いですね」

「黙れ……!」


 二人は膠着する。化け物になった男(ホーエンハイム)と、化け物じみた男(オスカー)は、互いににらみ合い、機会を窺う。


「……(らち)があきませんね。少々強引な手を、使わせて貰いましょう。」


 動いたのはホーエンハイムだ。二の腕辺りまで左腕を刺しこみ、強引に心臓を狙う。それと共に右腕の力が緩む。……オスカーは、これを待っていた。


「レトナ・クリシュケル!!」


 オスカーは一瞬の隙をつき、懐から赤い星を取り出す。そしてそれを、ホーエンハイムの首に押し当てる。


「なんと……!」

「くたばれぇぇぇぇえ!!!!」


 赤い星から鋭い氷柱(つらら)が三ツ又に裂けて伸び、ホーエンハイムの首を貫く。首が枝分かれに引っ掛かり、伸び続ける氷柱に引っ張られる。オスカーは左腕を切り落とす。三ツ又の氷柱は天井に突き刺さり、止まる。ホーエンハイムは、胴体ごと宙吊りになった。


「グガガギギィ……グガガギ……グゴ……」


 宙吊りになったホーエンハイムは、何やら言葉のようなものを発する。切り落とされた腕からはやはり黒い液体がぼとぼとと、塊になって地面に落ちていた。


「魔法は、口か……両手で、魔力を操る。口も、手も、封じられた……今、貴様、は……赤い星、の、力で……修復など、出来ない……!」


 オスカーは地面に座り込むと、息を切らしながら言い放つ。片肺を潰されたのだ。早く処置しなくては命に関わる。


「レト、頼む……」

『任せとけー!』


 オスカーはそう呟き、影の中からのレトの返事を聞くと、大の字になって地面に倒れこむ。


 まもなく、オスカーの周りを黒い陰の腕達が囲いこむ。ゆらゆらと左右に揺れる、縦に伸びた腕は、ある時ピタリと動きを止め、オスカーの傷口に吸い込まれるように殺到する。

 腕はその後すぐに消え失せた。気づいた頃には傷は元のようにふさがり、息苦しさも消えていた。あとは、とどめを刺すだけだ。


「ホーエンハイム、終わりだ……!」


 オスカーは懐から短剣を取り出す。特徴的な刃紋をした、片刃の珍しい短剣だ。

 オスカーは一歩ずつ近づく。そして、影で足場を作り、ホーエンハイムと高さを合わせた。




 そのときふと、ホーエンハイムが笑ったような気がした。






































































































 オスカーは、何をされたかわからなかった。一瞬、視界が光に覆われ、気づけば体が宙に放り出されていた。左腕の感覚が無い。消し飛んだのだろうか? それだけではない。左耳が燃えるように熱い。


 そんな、宙を舞うオスカーの眼前には、くだけ散る氷柱と、がばりと胸骨が開き、巨大な球状の赤い星をその中で煌めかせた、ホーエンハイムの姿があった。



 ドン



「ガッ……くそ……がぁ!!」


 オスカーは地面に落ちる。ふと左を見る。腕は肩口から下が完全に消し飛んでいた。左耳も熱い。耳はまだ欠落したことがなかったので、痛覚が正常に動いているらしい。


 ドサリ


「が、が……んん、あー、あー。あっ、戻りましたね。まさか貴方がジルを持っているとは思いもよりませんでした。トリストラントに渡したと思ったんですがね。まぁ細かいことは抜きにしましょう。これで形勢は再びこちらに傾きました。貴方がジルを持っている事と、貴方が陰の精霊と契約し、体を精霊の力で補っていることは予想外でしたが、概ね予定どおりです。」

「何故……だ……!」

「何故、と? あぁ、先程のあれですか。あれは『願い星すら貫く槍(ガルヴ・ラグトナ)。完全復元出来た唯一の純粋な古代魔法です。言葉も、手も必要としない、魔力と触媒、刻印のみで発動する強力な分解魔法です。名前に関しては、残念ながら失伝していましたので私がつけ直しました。」


 ホーエンハイムはオスカーにじりじりと歩み寄る。


「何故……だ……」

「だから言っているでしょう……。」

「何故……だ……」

「……ん?」


 オスカーは、虚ろな目で、うわ言のようにそう呟く。


「何故……だ……何故……だ……何故……だ……何故だ……何故だ……何故だ、何故だ、何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!」


 オスカーは思い切り立ち上がり、欠落した左腕をホーエンハイムに向ける。すると傷口から、三本の陰の腕が伸びる。


「何っ!!」


 腕は目にも止まらぬ速さでホーエンハイムの右腕と、胸骨を二本掴む。そしてそのままへし折る。


「ぐっ……! その様な力を残していましたか。だが、今の貴方はあまりに危険すぎる。……貴方をどうしても殺さなくてはならない理由が出来てしまった。」


 両腕を失ったホーエンハイムはそう呟くと、再び胸の内の赤い星を煌めかせた。

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