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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、東を望む
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虚飾《ヴァナグローリア》

 レトを伴ったオスカーは、剣を引き抜きヘレナを探す。

 目標はこの施設の最奥部、人間の反応が多く出た所だ。オスカーの現在地からはかなり遠いが、ヘレナの為に、オスカーは歩みを止めるわけにはいかない。



「この先へは行かせません」

「排除します」


 道中、道の脇や曲がり角、横の部屋から多くのホーエンハイムの部下達が、暗闇を利用してオスカーの前進を食い止める為に現れる。だがオスカーは夜目が効く。彼は難なくそれを破り、(ほふ)り、レトに食わせていく。捜索は、順調に進んでいるように思えた。しかし……







 …………既に地下に入ってから三十分ほどが経った。しかし、一向に目標との距離が縮まらない事に、オスカーは気づいた。


「レト、止まれ」


 オスカーは足を止め、レトにもそう言った。


「どうしたー?」

「一向に距離が縮まらん。三十分は歩いたのにな」

「そう言えばそうだなー……なんでだー?」

「わからん。わからんが、誰の仕業かは予想がつく。……出てこい。大方、俺達の事を近くで見ていたんだろ?」


 オスカーはそう言って辺りを見渡し、銃を取り出し、素早く弾を込め、天井に発砲する。銃声が辺りに轟いた。


 そのとき、突然背後から、正面から、左から、右から、足下から、二人を囲うように拍手が聞こえてきた。金属同士を打ち鳴らしたような、耳障りな音だ。



「…………お見事です。まさかこれにも気付かれてしまうとは。流石ですね。」


 そしてその男は、暗闇の中二人の目の前に、天井から降り立った。




「レト・イルクレア!!」


 ホーエンハイムの姿が視界に入った瞬間、オスカーはそう唱え、レトはオスカーの影に引っ込む。鋭い陰の棘は、ホーエンハイムの首を正確に狙う。だが、


「容赦無いですねぇ……。」


 ホーエンハイムは無数に延びる棘を一掴みにし、へし折る。


「まだだ……!」


 オスカーはその隙にホーエンハイムの懐に走り込む。切っ先は、甲冑の中の彼の首だ。


 ――キィン!


 凄まじい金属音が響き、オスカーの剣からは火花が散る。ホーエンハイムは、へし折った棘でオスカーの剣を防いだ。


「ぐっ……!」


 オスカーは素早く後ろに飛び退き、ホーエンハイムと距離を取る。


「ホーエンハイム……!」

「良く今の状況が、私に作られたものだとわかりましたね。流石です。」

「『有り得ないを有り得るにする』のが、加護持ちだ」

「素晴らしいですね。貴殿方の居るこの空間は、私が作った『結界』の内側になります。最初に貴方の精霊が、私の部下を補食した直後に張らせて頂きました。」


 そう言ってホーエンハイムは指で壁を突く。すると突然、世界が崩れるように結界が壊れていく。

 気付けば辺りは、円形の広間になっていた。


「それも加護の力か」


 オスカーは切っ先をホーエンハイムに向けたまま、そう聞く。しかしホーエンハイムは、


「いえ、これは加護では在りませんよ。」


 と、真っ向から否定し続けた。


「十ある加護の内、常に人間達の間で継承される八つの加護、栄光(ホド)基礎(イェソド)勝利(ネツァク)峻厳(ゲプラー)(ティファレト)慈悲(ケセド)理解(ビナー)、そして知恵(コクマー)。これらは継承される毎に、人々の持つ『罪』と深く結び付いていきました。」


 ホーエンハイムは両手を広げてオスカーを見、話を続ける。


「栄光は憂鬱(トリスティティア)に、基礎は暴食(グラー)に、勝利は憤怒(イーラ)に、峻厳は傲慢(スペルビア)に、美は色欲(ルクスリア)に、理解は怠惰(アーケディア)に、知恵は強欲(アワリティア)に。……そして慈悲は、虚飾(ヴァナグローリア)と結び付き、皮肉にも継承した者に更なる力を与えました。」


 オスカーはホーエンハイムの隙を探ろうと、左右交互に回り込む動きをみせる。しかしホーエンハイムはそれに全く釣られず、微動だにしないまま話を続ける。


「先程の空間は、この虚飾の力によるものです。結界を張り、偽りの光景をみせることで、私は貴方をここに誘導しました。ここなら、貴方のヘレナちゃんへの思いを、覚悟を、意思を、決意を、慈しみを、愛を、確かめられる。さぁ、戦いましょう。そして思う存分、話し合いましょう。貴方の心の内を、私は知りたい。」


 ホーエンハイムが手を下げる。その瞬間、オスカーはホーエンハイムの左前から一気に距離を詰め肉薄し、魔法を唱える。


「レト・バルクルーム!!」


 駆け抜けるオスカーの背後から、無数の陰の腕が延び、ホーエンハイムを捉える。


ガドラバルゴ(破滅の慈悲)


 ホーエンハイムは、頭上から迫る無数の腕を見、左手をかざしてそう唱える。

 陰の腕達は、不可視の何かに貫かれ黒い粒子を散らせて消え失せる。そこを、オスカーが下から切り上げる。


「ぐっ……、お見事……。」


 ホーエンハイムは咄嗟に左手を引っ込め、空いていた右腕で斬撃を防ぐ。剣と籠手は互いにぶつかり合い、火花が散る。二人はその場で拮抗した。


「そこを……退け!」


 オスカーは剣に一層力を入れ、足を踏み出す。


「籠手ごと押し切るお積もりですか……。豪快ですね。とはいえ、こちら側が何もできないのも事実……。いやはや、困りましたね。」


 そう言うホーエンハイムは、オスカーに肉薄されたことで対応策を失った。

 今ここで魔法を打てば、自身も巻き込まれる。足で蹴ろうにも振り上げたときに押し倒される。後ろに下がるのも、体勢を崩しかねない。そして一層力を入れるオスカー相手に、右腕だけではそろそろ限界が近い。

 ホーエンハイムは左手も合わせ、腕で罰印を描く様に防御の体勢を取る。そのとき、オスカーが更に動いた。


「レト・イルクレア!!」


 広間の至るところから、陰の棘が延びる。無数の鋭い棘はホーエンハイムを囲うように、一直線に迫る。


「これで、終わりだ……!」


 オスカーはそう言って、腕に力を込めて強引に後ろに飛び退く。


「……成る程、素晴らしい……。」


 その直後、無数の陰の棘がホーエンハイムを飲み込む。殺到する棘のせいで、辺りに煙が舞う。オスカーは、勝利を確信した。だが――





















































































「――いやはや、危ないところでした。流石は英雄ですね。」



挿絵(By みてみん)



 煙が晴れた広間。その男は涼しげな声でそう言った。

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