大雨
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雨の降りしきる中を、三人はフリードリヒの部下の案内で洪水の起きそうな地点に向かった。
「こちらです!」
「案内ご苦労! すまんが避難誘導に向かってくれ!」
「はっ!」
増水した川は土色に濁り、濁流となって今にも堤防を越えんとしている。付近の人々は寄り集まってその堤防を土嚢で補強しようとしているのが見える。その時だった、
「いかん、崩れるぞ!」
「逃げろ! 高台に上がれ!」
遂に水は堤防を越え、積まれた土嚢を崩し、川から溢れだした。
「俺は避難誘導の指示に向かう。お前は先生に付いててくれ」
「わかった!」
「殿下、お気を付けて。」
フリードリヒは、言うや否や走り出し、部下や逃げる民に指示を出していく。
「それでは、我々も行きましょうか。オスカー様、流木などの対応をお願いします。お恥ずかしながら私、今は丸腰なものでして。」
「露払いはお任せください」
「頼もしい限りです。」
ホーエンハイムは、オスカーを伴い決壊した堤防に向かって歩いていく。水は既にすねまで上がってきている。
「では、やってしまいましょう。」
決壊した地点の正面でホーエンハイムは立ち止まると、そう言ってコートの内ポケットから小さなガラス瓶を取り出した。中には、赤く輝く小さな石が一つ入っている。
「アーデルハイト、宜しくお願いしますね。」
ホーエンハイムは小瓶に向かってそう呟くと、栓を外し、小石を取り出す。どうやら魔石の類いの物らしい。
「ガーゴ・ダルルク。」
右手に赤い魔石をのせたホーエンハイムが静かにそう唱える。その瞬間、尋常では無い程の黄色い粒子が現れ、ホーエンハイムを囲い込む。その姿はまるで、蝋燭の炎に群がる、蛾の群れの様にオスカーには見えた。
渦巻く粒子は、ホーエンハイムの右手に集まり、大きな玉となる。そしてそれをホーエンハイムは優しく堤防の方へ押し出す。押し出された玉は堤防に向かい、交わる。すると、
「こいつは……」
轟音と共に大地から土の壁がせり出し、町に向かって流れる水をせき止めてしまった。濁流は元の川の流れに戻り、それを見た民衆は皆歓声を上げて喜んでいる。
「アーデルハイト、ご苦労様でした。ゆっくり休んでください……。」
ホーエンハイムはそう悲しげに呟き、右手にあった赤い石を見つめる。石はどんどんとその輝きを失い、最後には粉々に砕け散ってしまった。
「ホーエンハイム先生、今のは……」
「あぁ、オスカー様。あれは『赤い星』と我々が呼んでいる、言わば人工の魔石です。物によって使用回数がまちまちなのが玉に傷ですが、これさえあれば基本どんな魔法でも放つ事が出来ます。」
オスカー達がそう話していると、気付けば雨は止み、雲が晴れてきた。
「おやおや。先程まであんなに大降りの雨だったと言うのに……。不思議なことですね。」
ホーエンハイムは、そうしみじみと呟いた。
「では、オスカー様。フリードリヒ殿下の元へ戻って、指示を仰ぎましょう。」
「ですね」
二人はそう言って、フリードリヒの元へ向かった。
○
「あ! ヘートヴィヒちゃん見て! 雨上がってるよ!」
「本当だ! ん? ねぇヘレナちゃん! あそこ、虹が掛かってる!」
「うわぁ、綺麗……」
「うん……(でもヘレナちゃんのほうがもっと……)」
二人は、ホーエンハイムの部下の小屋の窓から、雨の上がった空を見上げていた。すると、
「お二方、雨も止みましたので今の内にお城の方へ向かいましょう。お父君達も大層心配して居られる事でしょうし」
窓を見上げる二人の背後から、中年程度の男の声が聞こえた。鳥の様な仮面を着け、白い法衣の様な物に身を包んだ、ガタイのいい男だ。
「はい!」
「わかりました。本日は私どもを助けてくださり、まことにありがとうございます」
元気に返事をしたヘレナと、腰を折って深々と頭を下げたヘートヴィヒは、男の案内で外に停めてある馬車の荷台に乗り、そのまま城へと向かった。その後……
「ホーエンハイム師に伝えよ。第十の加護、『セクメト』を見つけた。加護を持っているのは『大烏』、オスカー・シュミットの娘だと……」
「はっ……」
小屋のすぐ外で、先程の男が別の男にそう耳打ちする。
「教会の方にこの事は……」
「言わんでいい。師はきっと、彼の父娘を試そうとするだろうからな」
「承知致しました」
遠雷の鳴る音が聞こえた。遠くの空は、未だ晴れない。




