親友
ヘートヴィヒがヘレナと出会ったのは、ヘレナが六つの頃だ。
「ヘレナっていいます! よろしくおねがいします!」
「(なにこの子! 髪の毛つやつやだし、肌もっちもちだし、何よりかわいい!!)……こほん! わたしはヘートヴィヒよ! ヘレナちゃん、よろしくね?」
「うん! ねぇヘートヴィヒちゃん! ヘートヴィヒちゃんってほんとにおひめさまなの?」
「(か……かわいい!! すっごく目をキラキラさせてる!)本当よ! お城の中に入ったらとってもかわいい服とか一杯あるの! 一緒に来る?」
「うん! いく!」
「それじゃあ、行こー!」
「おー!」
出会った二人は年が近かったこともあり、すぐに打ち解た。
既に各地を旅をし、長い期間同年代の子供と話す機会の無かったヘレナにとって、ヘートヴィヒは最初の頼れる友人になった。
一方、宮廷暮らしで同年代の子供と触れ合う機会が少なかったヘートヴィヒも、ヘレナが身内以外で初めての心許せる存在になり、次第に友人として以上の、特別な感情を抱くことになった……。
○
「おいギ……いや、オスカー。少し二人で外を歩かんか?」
夕食を食べ終わり、ヘレナと部屋に戻ろうとしていたオスカーを、フリードリヒが呼び止める。
「……ああ。積もる話もあるしな。ヘレナ、ヘートヴィヒ姫と少し遊んでてくれるか?」
「うん! ヘートヴィヒちゃん、行こ?」
「ええ、勿論よ!」
そう言って手を繋いで歩いていく二人の背中を見送ったあと、オスカーはフリードリヒに向き直る。
「俺達も行くか」
「だな」
そう言ってオスカー達は、城の中庭に足を運んだ。
「おい、懐かしい顔が帰ってきたぞ。お前の所の団長殿だ……」
フリードリヒは少し屈んで、そう目の前の墓石に話しかける。それを見たオスカーもそれに習い、横に並んで屈み込む。
「よう、久し振りだな。元気にしてたか? こっちは色々ごたごたが有ってな……ま、そう遠くない内に再会出来そうだ」
オスカーはそう言って少し苦笑いをした後、すぐに真面目な表情をして、墓石を見つめたままフリードリヒに話を切り出した。
「……数週間前、東ローシェン帝国が崩壊した。どうも皇帝の弟にあたる、大公コンスタンティヌスが、ターコニアス帝国と内通してた様でな。軍部の穏健派を掌握して皇帝を殺害、即日皇帝の代理としてターコニアスに降伏したみたいだな」
「なんとも呆気ない幕切れだな。で? お前の事だ、この話には続きがあるんだろ?」
フリードリヒは、さほど驚いた様子もなくオスカーにそう返す。それに対してオスカーもこくりと頷いて、話を続けた。
「ああ。実はこの反乱が起きた時、密かに帝国を脱出した皇族が居た。それが先帝と愛妾との間に産まれた現帝の庶兄・レオーン公と、皇太子・ミカエル殿下だ。エルは、その件について近く会合を開く予定らしい。リード、勿論お前もその会合の招待者だ」
「……誰が来る?」
「『かつて戦場を駆け抜けた仲間達』だそうだ」
「勇者殿の情報と行動の早さには毎度驚かされるな……わかった。兄貴には俺から話を通しておこう。あの兄貴の事だ、すぐに首を縦に振ってくれるさ」
「だと良いんだがな……俺はこれからエルフェブルクに向かう。エルは共に連れ立って来ることを望んでいる。どうだ?」
その問いに対してフリードリヒは少し顔をしかめ、
「……早くても三日、順当に考えて五日は掛かる」
そう言った。事が事なだけに、他の者に覗き見られる可能性の高い通信用水晶より、時間は掛かるが秘匿性の高い手紙で送る必要があるのだ。
「五日か……長いな」
「急ぎなのはわかってる。こっちも、なるべく早く出来るよう、努力する」
ふと、近くの森から、フクロウの鳴き声がした。月明かりは、おぼろげに二人を照らしている。
○
「おとーさん達、何のお話してるんだろ?」
「さぁ……? 大人のじじょーって奴じゃないかな?」
大人達が話をしている頃、ヘレナ達はヘートヴィヒの部屋のベッドでチェスをしながら、そんな会話をしていた。
「チェック!!」
「あっ……! ヘレナちゃん凄い! 前教えてあげたときより上手になってる!」
「えへへ……おとーさんとか、他のぼうけんしゃの人達とかとれんしゅうしてたの」
「(かわいい……)流石ヘレナちゃん……でも、これはどう?」
「あっ……ヘートヴィヒちゃんやっぱり強いね! わたしじゃまだまだだよ……」
「そんなこと無いって。ヘレナちゃんも、もっと練習したら、きっと私なんかすーぐ追い越されちゃうもん」
「本当?」
「うん! 本当!」
「ありがとう! わたしがんばる! だから、これからも教えてね?」
「(かわいい……!!)勿論! でもその代わり、私にも剣の振り方とか、立ち回りとか、教えて?」
「うん! いっしょにがんばろー!」
「おー!(やった! ヘレナちゃんと一緒に鍛練できる!)」
結局その日ヘレナはヘートヴィヒに勝つことは出来ずに終わった。そして……
「ふわぁ……ねむたくなってきちゃった……」
「へ、ヘレナのちゃん!?」
「おとーさん達おそいし、いっしょにねちゃう?」
「でででで、でも……(嘘嘘嘘! ま、まだ心の準備が……)」
「ふわぁぁー……おやすみなさぃ……」
夜が更けていたことと、長旅の疲れからかヘレナは、ヘートヴィヒのベッドでそのままこてんと眠ってしまった。
この後ヘートヴィヒが、ヘレナの隣で眠れぬ夜を過ごしたことはまた別のお話である。




