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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、強くなる
76/176

東へ

 かつて、世界を席巻し、現在の天主教世界の基礎を作った稀代の大帝国が存在した。名はローシェン。建国直後からの拡大戦争の結果、東西に領土を広げたその帝国は、一人の皇帝で統治する事に限界を迎え、東西に分かれ、それぞれ異なる運命を辿ることになる。

 西に残された『西ローシェン帝国』は、分割後北方異民族侵入に耐えきれず間も無く瓦解。以降数百年の間、神聖ローシエント帝国の成立まで西方世界は混乱に包まれることとなった。

 一方の東方世界では、『東ローシェン帝国』に軍事的才能に富んだ皇帝や将軍が多かったこともあり次々に攻め来る敵を返り討ちにし、領土を拡張。その結果彼の国を盟主と仰いだ東部の天主教国家、『専制公国』達による緩やかな共同体が作られ、長きに渡る平穏さを保っていた。騎竜民族テュコニエ人が成立させた国家『ターコニアス帝国』との戦争が、始まるまでは……


挿絵(By みてみん)

〈紫が陥落直前の東ローシェン帝国領〉









「ねぇおとーさん」

「どうした?」

「あのお手紙、もやしちゃってよかったの?」

「……ああ」

「そっか……」


 オスカー達が館を出る頃には、空はすっかり明るくなっていた。


「眠かったら寝てても良いんだぞ?」

「ふわぁ……だいじょうぶ。それより、これからどうするの?」


 ヘレナは小さくあくびをすると、そうオスカーに聞く。


「遅くとも、明日にはここを出たい。ここを出た後はシュバルツブルクのフリードリヒの所に行くつもりだ。それも終わったら今度はエルフェブルクに向かう」

「フリードリヒおじさんの所って言ったら……」

「そう、ヘートヴィヒ姫にも会えるぞ」

「やったー!」


 ヘレナは少し前の、陰りを見せた顔とはうってかわって、底抜けの明るい表情で、そう喜んだ。

 そうして馬車は、ハイジの小屋へと、戻っていった。




 ――翌朝



 空は朝からねずみ色の雲で覆われている。もしかすると雨が降るかも知れない。


 一応今もワイバーン狩りは続いているので、ヘレナとオスカーはその参加資格を放棄と言う形になってしまうが、仕方ない。手続きについては、コンラートが行ってくれるらしい。


「もう行ってしまうのですね」

「まぁ、勇者様からのお達しならしょうがないか」


 ハイジとヴィルは、小屋の外に出て二人を見送る。


「そうそう、ヘレナちゃん。約束してたこれ」


 ハイジは、そう言ってヘレナの剣を、本人に渡す。鞘ごと布で巻かれており、中が見えない。


「めくってもいい?」

「もちろん」


 ヘレナは、ハイジに伺いを立てると、ゆっくりと布をめくり、そして目を真ん丸にさせてハイジと、ヴィルと、オスカーを見回す。何故なら……


「昨日二人で徹夜して仕上げたんだ。鞘にワイバーンの鱗を着けるだけだったから、大したことは無かったけどね」

「この辺りにはね、ワイバーンの鱗を持ってると、武運に恵まれるって古い言い伝えがあるの。ヘレナちゃんなら、きっと立派な冒険者になれる。だから、それのお代は今は受け取らない。ヘレナちゃんがお兄ちゃんよりも有名になったら、そのときはきっちりお金を貰うわ。約束ね?」


 ハイジとヴィルはそう言ってヘレナに優しく微笑む。

 子の居ない二人にとってヘレナは、短い間だったが可愛らしい我が子の様に思えたのかもしれない。二人の微笑みは、我が子の門出を祝う優しい両親の様に、オスカーには映った。


「……ありがとう! ぜったい、ぜーったいすっごいぼうけんしゃになって、帰ってくるから! 待っててね! 約束だよ!」


 ヘレナはそんな二人の優しさを、しっかりと受け止め、二人に大声で、そう宣言する。目尻には少し涙が浮かんでいる。



 馬車は次の国へ向けて走り出す。

 次行く国、シュバルツブルク=プロイシア王国は、オスカーにとって、そしてヘレナにとっても馴染みの深い国だ。

 ヘレナは旧友との久々の再会への期待を、オスカーは言葉に出来ない漠然とした不安を胸に、馬車に揺られ、前に進む。空は未だ晴れない。









「父さん! お帰り!」


 少年がそう叫び、目の前の人物に駆け寄る。


「ジークムント、ただいま。わざわざ迎えに来てくれたのですか?」


 その人物は、安心感の有る低い声で、出迎えた少年に礼を言う。

 中世の騎士のような甲冑を身に纏ったその人物は、その上から更に黒いローブを着込み、大きな身の丈を屈めて、少年と視線を合わせている。


「うん! でもみんなも来たいって言ってたんだ。だけど、そんなにおおぜいで行ったら父さんのめいわくになるからって、それでおれが代表でむかえにきたんだ!」

「そうだったのですか……迷惑になるわけ無いのですけどね。皆、可愛い私の子供達ですから……。さて、それでは帰りましょうか。まだ外は冷えますからね」


 甲冑の人物は、そう言って少年の頭を撫でる。少年は、満面の笑みで「うん!」と答えると、手を繋ぎ、二人で歩き始めた。空は、雪でも降りそうなほど、重い雲で覆われていた。

 次回から、新しい章に突入します! どうぞよろしくお願い致します!

 

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