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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、強くなる
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凱旋

「トルケル、薬を頼む! ヘレナは俺が助け出す!」


 オスカーは、そう言い終わる前に足を踏み出し、墜落するワイバーンの真下を目指し、駆け抜けた。風でオスカーの顔からフードが外れる。太陽はほぼ真上まで昇っている。目や肌や耳が焼けるように痛む。口からは血がこぼれる。だが、その痛みもオスカーにとっては些末な事だ。可愛い娘の為ならば、命を捧げてる事も(いと)わない。そんな覚悟の色が、オスカーの瞳には宿っていた。


 幸いなのはこの場に居るのがトルケルだけであることと、ワイバーンが予想以上に巨大な事だ。それらのお陰で何ら心配すること無く、オスカーはヘレナを助けることに専念できる。


 ワイバーンの真下に潜り込んだオスカーは天を仰ぎ、両手を伸ばす。ヘレナを口の中に入れたワイバーンは地面に大きな影を落とし、地面に、そしてオスカーに迫る。



「レト・バルクルーム!!」


 オスカーは大声でそう叫ぶ。地面に落ちた影が一層濃くなり、地面に滴るワイバーンの物か、オスカーの物かわからない血溜まりは、影に塗り潰された。

 周囲にはいつの間にか黒い粒子の様なものが漂い、オスカーの足下には巨大な目玉と、無数の黒い手が現れた。

 無数の腕は次々に影から姿を現し、すぐにワイバーンに向かって延びる。そしてワイバーンを手のひらで下から優しく支えた。

 腕が一本また一本と増える度に墜落する速度は削がれ、緩やかに地面に近づいていく。そして遂にワイバーンは、地面に優しく着陸したのだった。


「ヘレナ!」


 ワイバーンを地面に降ろしたオスカーは、フードを被り直すのも忘れてヘレナの居るであろう、口あたりに駆け寄る。


「おい、ヘレナ!」


 たどり着いたオスカーは、口からはみ出していたヘレナの足が見えないことに気付き、もう一度そう呼ぶ。すると、


「おとーさん!」


 そんな元気な返事が返って来ると同時に、ワイバーンの口がもぞもぞと動きついには「しゅぽん!」と勢いよくヘレナが口から顔を覗かせた。その表情や声から、大きな怪我の心配は無さそうだ。だが、視界が(にじ)むオスカーには、その表情ははっきり見えなかった。


 オスカーは何も言わずにヘレナを口から引きずり出すと、そのまま思い切り抱き締めた。


「心配したぞ、ヘレナ……本当に、本当に……」


 オスカーがそう声を出したのは、しばらく経った後だった。気付けば太陽は分厚い雲に隠され、日射しは遮られている。オスカーはキョトンとしているヘレナをその後少しの間、抱き締め続けたのだった。








「あの嬢ちゃんが、あんなにでかいワイバーンを倒したのか……」

「いくら『大烏』の娘御とは言え、信じられんな……」

「だが『神槍』のトルケルが言ってるんだ。特級ランクが言うからには、そんなんだろうよ」


 トルケルが呼んだギルドの荷車にワイバーンを乗せ、オスカー達は町へ凱旋した。周囲の喧騒の中には、少し前に聞き覚えの有るような台詞も聞こえてきたが、あえて聞こえないフリをする。

 凱旋の列には、ヘレナとオスカーの他、駆け付けたギルドの職員と、護衛の竜狩りが三名連なっている。ギルドに討伐の証言をしたトルケルは、ギルドの職員に報告だけすると、自分の取り巻き達の居るであろう狩場にさっさと向かってしまった。特級ランクの冒険者故に、忙しいのだろう。


「おとーさん、これだけおっきいワイバーンなら、ステーキいっぱい食べれるね!」

「ああ! でもまた熟成ステーキを食べたいなら、ちょっと待たないとなぁ……」

「ええー! あのステーキすぐに食べれないの!?」

「ワイバーンの血には毒が入ってるからな。塩漬けにして毒が抜けきるまで……二、三年我慢だな」

「なら、じゅくせいし終わったら、いっしょにまた食べよ?」

「……ああ。そうだな。そうしよう……」

「やったー!」


 そう言って、狭い歩幅でどこか遠い目で答えたオスカーをよそに、シュバルツに跨がったヘレナは両手を振り上げて大喜びする。


「おとーさん? どうしたの?」


 シュバルツに乗ったヘレナは、足取りの重いオスカーを振り返り、心配する。しかしオスカーは、


「大丈夫、何でもない。シュバルツ、俺も乗せてくれ」


 と言って笑って返し、自分もシュバルツに跨がる。

 列はそのままギルド前の大広場へと入っていった。



 大広場には、ワイバーンの解体を行う大きな台や、大きさを測る設備等が取り付けられている。どうやら昨夜の内に受付の場所は移動させたようだ。そしてそれらの施設の中心には、ビロードで出来た赤い絨毯と垂れ幕にかこまれた、御立ち台が設置されていた。

 祭りの期間、その日初めてワイバーンを狩った者や、集落をワイバーンから守り返り討ちにした者等がここに立ち、特別報酬として、ギルドとアイゼンブルク政府から直接金貨数枚を渡される。そして、そのアイゼンブルク政府の代表こそ、


「げっ……コンラート!」

「久しいな、元弟よ」


 彼の名はコンラート・レーム。現アイゼンブルク共和国総統にして、オスカーの実兄である。

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