のっぽのトルケル
「おりゃー!」
ズバッ!!
「凄いぞヘレナ! これで最初のとあわせて四頭目だ!」
「やったー!」
ヘレナは昼からの依頼でも大活躍をし、その日の冒険者達の中で一番の討伐数を挙げた。
「初依頼で四頭討伐なんて……あの娘凄いな……」
日が傾き始めた頃、村に戻ったヘレナ達に他の冒険者達は一斉に注目する。
「ありゃ父親を超えるな」
「ああ。強いし顔も整ってるし、うちの倅の嫁に欲しいくらいだ」
そんな冒険者達の会話を聞きながら、オスカーは心の中で自慢げに羨ましいだろうと胸を張る。だがそれと同時に嫁にはやらんぞとこっそり釘を刺しておく。勿論これも心の中で。
「ヘレナさん凄いですね……! 初めてとは思えません! こちらをどうぞお納めください。報酬となります」
「ありがとうございます!」
既に名前を覚えられてしまった修道女から、ヘレナは報酬金の銀貨を渡された。しかし見てみると二枚多く、四枚手渡された。
「これは……」
「その一枚は特別報酬となります。あの大きな個体を初依頼で倒されたその功績と、村への被害が出る前に対処してくださった事への村全体からの感謝です。どうぞそちらもお受け取りください」
オスカーの問いに修道女はにこやかにそう答える。
「それじゃあ有り難く頂こうか」
「うん! おねーさんありがとうございます!」
二人はそう言って礼をすると、教会をあとにした。何でも村に宿を用意してくれているらしい。今日はそこに泊まり、明日の早朝、村を発つ予定だ。オスカー達は用意された宿に向かい、一日を終えた。そして……
『緊急警報発令! 本日アイゼンブルク領内にて大規模なリュウアナイの群れを確認! 冒険者は速やかにワイバーン襲来に備えよ! 繰り返す――』
オスカー達はギルドから支給された通信用水晶から、その警報を聞き、すぐに準備を整えると足早に村を発ち、一旦街に向かった。
「人、いっぱいだね」
「今朝の警報を聞いて皆急いで来たんだろうな。でもこれじゃ街に入れそうに無いなぁ……」
付近に到着したオスカー達の目に飛び込んで来たのは、冒険者達でごった返す街の姿だった。大きな通りにも入れる隙間がない程人が殺到している。そんな光景すらも、ワイバーン狩りの風物詩だ。
どうしたもんかとオスカー達が悩んでいると、そんな彼らに声をかける者がいた。
「おい、お前さん達、オスカーとヘレナじゃねぇのかい?」
しわがれた男の声だ。酒の飲みすぎなのだろうか、声はかすれている。聞き覚えのある声だ。
その声に驚き、振り返ったオスカー達は、声の主にこう返した。
「おー! トルケル! 久し振りだな!」
「トルケルおじいちゃん!」
彼らの視線の先には、ヘレナ二人分程の巨体の老人がそびえ立っていた。巨人族だろう。右手には杖の代わりにしているのか、自身の体のさらに一・五倍程度の大きさの槍を持ち、毛皮で作られた薄いコートに袖を通した、鍔の広い円錐形の帽子を目深に被った隻眼の男だ。顎からは白く長い髭を胸辺りまで伸ばし、首からは大きな遠眼鏡を掛けている。顔がかなり赤い。この様子だとまた麦酒をたらふく飲んだのだろう。
彼の後ろには数名の冒険者の取り巻き達がいた。皆顔を見るだけで名前がわかる程の手練れ達だ。オスカーよりもよっぽど歴の長い冒険者も居る。
「やっぱりそうじゃったか! 久し振りじゃのぉ!」
トルケルと呼ばれた巨躯の男はそう言って槍を背中に掛けると、ヘレナを抱き上げ、肩車をする。
「おじいちゃん、ちょっとはずかしい……」
「良いじゃねぇか! ヘレナはこれからデッカくなるんだからのぉ!」
少し恥ずかしがっているヘレナに、トルケルはそう言ってガッハッハッと笑いかける。
「トルケルもやっぱりワイバーン狩りに?」
「おう勿論じゃ! その様子だとお主らもか?」
「うん! ねぇ聞いておじいちゃん! わたしぼうけんしゃになったの!」
「おぉー! こりゃめでたいのぉ! それじゃあ今からワイバーンを狩って、その肉で祝わなくてはの!」
トルケルは酒が入っているからなのか、はたまた可愛い孫娘のような少女が冒険者になったからなのか、あるいは両方なのか、かなり上機嫌でヘレナを馬車に戻す。
「シュバルツも元気そうで良いのぉ。……それで、二人は何しとるんじゃ?」
トルケルはシュバルツの頭をなで、そう聞いてくる。
「ワイバーンが来るところを確認しようと思ってたんだが……」
オスカーはそう言って正面の渋滞した大通りを見る。トルケルはガッハッハッと大笑いをし、
「そりゃ無理じゃわな! どれ、ついてこい。ワシがワイバーンが来やすい所まで案内してやろう」
そう言ってトルケルは踵を返して、街に背を向けて上機嫌で歩いて行く。オスカー達もそれにしたがって、彼の後を追った。
「この辺りじゃの」
トルケルはそう言って立ち止まり、オスカー達の方を振り返る。
そこは周囲を山々に囲まれた広い盆地であり、気流の影響か緩やかな風が常に吹き抜け、草原はそれにより波打つ。中心辺りには川幅の広い河川が流れ、そこで大型の鳥類が狩りをしている。
「あそこをよく見てみよ」
トルケルはそう言って遠眼鏡をオスカーに渡す。オスカーは言われた通りに眼鏡を覗いて、トルケルが指差す川の方を見る。
「……リュウアナイか」
「そうじゃ。ここは風の集まる地点な上、広い川があるからの。リュウアナイがよくここで狩りをする。ワイバーンはそれを目当てにここに来るのじゃ。殆どの輩はここを知らんから、邪魔されることもあるまいて」
オスカーは遠眼鏡をヘレナに渡す。ヘレナはしばらくどれかわからないようで、うーんと唸っていたが、オスカーが教えてやると「あっ!」と声をあげた。上手く見つけられたようだ。
リュウアナイは灰褐色の羽毛を持った大きな鳥だ。コウノトリのような大きさと見掛けに、真っ黒な長い尾羽根と黄色く曲がった先端の嘴、鶏の様な赤いトサカを持ち、声はオカリナの様に美しい。
「ワシは個々で二人と狩る。お主らは別のところでやっとってくれ」
トルケルは取り巻き達にそう告げた。取り巻き達は各々返事をすると、素早く他の所へ行ってしまった。他の狩り場もあるのだろうか。
「良かったのか?」
「大体毎年こんなもんじゃからのぉ。まぁええじゃろ」
オスカー達がそんな会話をしていると、遠眼鏡を掛けていたヘレナの周囲が突然青白く光り始めた。周囲の石ころや、遠眼鏡までも宙を舞っている。今までと違うところは、ヘレナの意識がしっかりと有ることだ。
「どうしたヘレナ?」
「わかんない。でも、近いぞーってせいれいさんたちが……」
ヘレナがそう言ったその時、三人を強い突風が襲う。
「ヘレナ!」
「来たぞぉ!」
オスカーはヘレナを抱き締めて庇い、トルケルは帽子を押えて空を見上げる。そこには……
「ギャオォォォォォォオン!!」
深緑の鱗を持つ巨大なワイバーンが翼を広げ、降り立とうとしていた。
次回、ワイバーン狩り




