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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、強くなる
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地底マスと合金

「運び終わったぞー!」

「おとーさんすっごーい! おつかれさま!」


 オスカーは小屋の倉庫に取り敢えずミスリル塊を置くと、そう言って居間に戻ってきた。

 居間ではハイジが突っ立ったまま顎に手を当て、難しい顔をして考え事をしている様だ。視線の先には机に置かれた丸太程の大きさに切り取られたミスリル鋼がある。ミスリルは窓から差し込む西日に当てられ、光り輝いている。


「ハイジおねーちゃんさっきからずっと考えごとしてるの」


 ヘレナは心配そうにそう言う。そんなヘレナの頭にオスカーは手を乗せてやると、


「大丈夫。あいつは考え事するとテコでも動かないんだ。そうだ! 先に夕飯を作ろう! ハイジー! 台所と食材借りるぞ」


 オスカーはそう言ってヘレナと連れだって台所に向かった。当のハイジは二度まばたきをして、オスカーに答えた。どうやら了承してくれたらしい。考え事をしているときのハイジ特有の返答だ。


「おお、かなり食材余ってる。こっちには地底マスの塩漬けもあるな。丁度人数分だ。野菜もそこそこある。今日は地底マスのシチューだな」

「やったー!」


 オスカーは台所の床下にある小さな貯蔵庫から幾つか食材を見繕って調理台の上に乗せた。


 地底マスの塩漬けは、この辺りの春の風物詩だ。秋頃になると産卵の為、地下河川を通って地底マスは鉱山の地底湖に姿を現す。油の乗った地底マスはそのまま秋に食べてしまっても良いが、食料の少ない冬の貴重な保存食として塩漬けにするのだ。そして冬になり、食べ物がいよいよ無くなったぞと言うときに、保存していた地底マスの塩漬けを出してきて食べる。しかし近年は連合ギルドによって食料が安定して供給されるようになったため、何事もなく冬を越せる事が多くなってきた。その為塩漬けも冬の貴重な保存食としてではなく、冬を越せた後に待っている春への楽しみとして、姿を変えたのだ。


「このままだと塩味が強すぎるな……お父さんはささっと塩を洗うから、ヘレナは野菜を切っててくれ」

「わかった!」


 オスカーは少量の水を容器に入れ、その中でマスに付いた塩を落としていく。あまり時間をかけると旨味が抜けてしまうので、素早く綺麗に落としてしまう。

 一方のヘレナは、九才の誕生日にオスカーから貰った小さな包丁を片手に、ニンジンなどの野菜をスパスパと切っていく。どれも一口で食べられる大きさに切り分けており、料理なれしていることがうかがえる。


「出来たー!」

「よし! こっちも終わったぞ。次は――」


 こうして二人は和気あいあいとシチュー作りにいそしんだ。




(ミスリルは魔力との結合度が高い……掛け合わせる? 試してみる価値は有りそうね。どれぐらいの大きさに……それは本人に聞けば良いか……どんな形にしようかしら……)

「おーい、出来たぞー!」


 ハイジがまだ考え事をしていると、オスカーがそう台所から声をかける。


「まだ考え事してたのか……机片付けるぞー」


 窓の外は既に暗く、月明かりが淡く地面を照らしている。

 オスカーは机のミスリル鋼を机からどかし、ハイジの背中の方に持っていき、床に置く。ハイジはそれに合わせて体を方向転換させて突っ立っている。


「ヘレナー! あとはおとーさんがやるから、座っててくれ!」

「はーい!」


 オスカーは台所のヘレナと入れ替わり、今度は机に大きな鍋を持ってきた。地底マスのシチューだ。

 鍋からは旨そうな匂いが湯気と共に立ち上っている。


「……!!」

「お、気づいたか。飯にしよう」


 シチューの匂いで思考の沼から出てきたハイジは勢いよく振り返る。


「わぁ……これ二人で作ったの?」

「うん! 召し上がれ!」


 三人は席につき、皿にシチューを入れて口に運ぶ。地底マスの独特の旨味と程よい塩気が口に広がる。

 三人は幸福な一夜を過ごしたのだった。









「さて! それじゃ作るわよ!」


 一夜明け、オスカーとヘレナが目を覚ますとそこには既に『ツナギ』に着替えたハイジの姿があった。頬や服がススで少し汚れている。もう工房では準備が終わっている様だ。


「まず、これを見て頂戴」


 ハイジが差し出したのは、一つの金属の塊の様な物だった。淡い紫色の乗った銀色をしており、僅かに紫色に発光している。表面は滑らかで、他の金属に無い特有の光沢がある。


「うわぁ……きれい……」


 ヘレナは目をキラキラ輝かせて、食い入るようにそれを見つめている。


「これがミスリルと灰の獣(グラウ)の角を掛け合わせた、ミスリル魔鋼よ。こんな風に、ミスリルって魔力を持った鉱石とか結晶と一緒に熱して、合金を作ることが出来るの。角の持つ力もそのまま受け継がれてるから、元の角だけより強度も段違いよ」

「こりゃ凄いな……流石だな」

「でしょ? もっと褒めてくれたって良いのよ?」

「はいはい……それで、ここからは?」


 オスカーは魅入られたかのように、その合金を見つめるヘレナの肩をぽんぽんと軽く叩きながら、ハイジにそう聞く。肩を叩かれたヘレナはハッとして辺りをキョロキョロと見渡している。どうやらこの合金は魅了の力も継承してしまったようだ。


「ヘレナちゃんがどれぐらいの大きさの剣を扱うかによって変わってくるんだけど、普段どんなのを使ってるの?」


 ハイジのその問いに対し、ヘレナはパッと表情を明るくすると、


「今もってくるね!」


 と言って、馬車の方へ駆け出していったのだった。

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