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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、強くなる
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裏手の鉱山

 ――灰の獣(グラウ)には本来、魔法による攻撃はほぼ通用しなかった。それは額から伸びる一対二本の長い角が吸収してしまうからだ。あまりにも強い魔力や、魔法を使った物理的な攻撃でもない限り、灰の獣の毛皮に魔法は届かない。その現実を一変させたのが、オスカーだ。オスカーが灰の獣の角を片方とはいえ折った事で、灰の獣は少なからず魔力の脅威に晒されることになったのだ。


「角だけとなった今でもこいつは少なくない量の魔力を吸い続けている」

「つまり、剣に仕上げれば魔法から身を守れる……お兄ちゃん考えたね。よし! それじゃ早速こいつと合わせる鉱石を掘りに行こう! お兄ちゃん、ヘレナちゃん、奥にツルハシとカナヅチ仕舞ってるから持ってきて! 私は他の用意を取ってくる!」

「よし、わかった!」

「りょーかい!」


 オスカーとヘレナはそう返事をすると、立ち上がり、小屋の奥の倉庫に向かった。









「持ってきたぞー!」

「おもたーい!」


 オスカーとヘレナはそれぞれ巨大なツルハシとカナヅチを抱えて小屋から出、入り口の外で待っているハイジの元へやってきた。


「ご苦労様!」


 戻ってきたオスカー達にそう返したハイジは、中身がまだ入っていない大きな背嚢(はいのう)を背負い、左手には灯りとしてカンテラを持っている。


「おっきいね!」

「ああ。鉱石を持って帰る用の奴か?」

「そうよ。でも普通のとは訳が違う、魔鉱石を入れる専用の背嚢よ。神父様に特注で作って貰ったの」

「流石は器用神父だなぁ」


 三人はそんな会話をしつつ、小屋の裏側へと回った。


「この裏山ってお前の鉱山だったのか……」

「ハイジおねーちゃんすごーい……」


 オスカーとヘレナは、小屋の裏側にある山がハイジの持ち物だと知って驚きの声をあげた。さほど高い山と言うわけでは無いのだが、それでも個人で鉱山を丸々ひとつ持っていると言うのは鉱山の国アイゼンブルクでも珍しい事だ。


「ま、落盤で呆気なく死んじゃった顔もみたこと無い父親の山なんだけどねぇ。手前の方は殆ど掘り尽くされてるから、かなり奥に行かないと……」


 ハイジはそう言いながら山を少し登ったところにある入り口を覗く。


「さて、それじゃ採掘開始と行きますかねーっと。私がツルハシで掘るから、お兄ちゃんは岩をカナヅチで砕いて中身確認して。ヘレナちゃんは危ないからお父さんと一緒に砕いた石の中身を確認しててね」

「了解……ってヘレナ? どうした?」


 ハイジがそう指示を出し終わる前に、ヘレナは入り口に少し入ると、右向け右をして壁に手をつき目を瞑った。辺りを青白い光が優しく包み込む。ヘレナの『寵愛』だ。

 光はしばらくすると収まり、目を開けたヘレナはにっこり笑ってオスカー達の方へ振り返り、こう言った。


「おとーさん! ハイジおねーちゃん! ここの奥、何かあるよ!」


 ヘレナはオスカー達の方を見ながら、壁を手でぺしぺしと叩く。


「えー、本当に?」

「ああ、ヘレナの寵愛は今のところ外れたこと無いから信頼して良いぞ。取り敢えず掘ってみろ」

「うーん、わかった。それじゃヘレナちゃんそこ退いててねー」

「わかった!」


 ハイジはヘレナの力について半信半疑と言った様子でそこをツルハシで掘っていく。オスカーも出てきた岩を砕いてヘレナと中身を確認する。

 異変が起こったのは間も無くの事だ。


「ん……? ヘレナちゃん凄い! 本当に何かあるみたい……」


 壁を掘っていたハイジがそう声をあげたのだ。純血のドワーフよりは力は劣るが、それでも鉱石の声を聞ける力は継承しているのだ。


「な、言ったろ?」

「でしょ? 小さなせいれいさん達が教えてくれたんだ」


 自分達の主張が正しかったことを受けて、父娘は得意げにそう言って胸を張る。


「はいはい……疑って申し訳有りませんでしたっと!」


 ハイジは一応の謝罪をしながら、思い切りツルハシを壁に振り下ろした。すると、目の前の岩の壁が全て音を立てて剥がれ落ち、空洞が現れた。その中心部に、銀色に輝く何かがあった。


「……うわぁ、すっごくおっきいね」

「ああ……でかいな……」

「……………………」


 そこには人が二人肩車してもなおあまりある程の高さと、両手を目一杯広げても三人は必要な程の太さのあるミスリル鉱石の塊があった。


「量だけじゃない、純度もかなり高いわ……これだけで白金縁付き金貨三枚は下らないわね……」

「はっ、白金縁付き金貨三枚……」


 一般的な中流階級の人間の年収が金貨一枚相当であるのに対し、さらに上の白金縁付き金貨はそれが百枚分ある計算になる。ここまで来るとまず一般人がそれを手にする機会はほぼ無いに等しく、価値も国家資産並なので主にこの硬貨は一部の豪商か、はたまた一流の王侯貴族の間でしか流通していない。つまり、一般人がどうあがいてもお目に掛かれるような代物では無いものが、今、三人の目の前にあるのだ。


「これ、どう運ぼう……」

「あー、固着してる周りの石さえ剥がしてくれたら俺が持って行こう」

「持てるの?」

「おとーさん力持ち!」


 ヘレナは何故か上機嫌でそう父親をおだてる。オスカーは明らかに表情を緩ませて、やる気満々だ。


「方法についてはもうどうだっていいわ……取り敢えず固着してる所と、今から使うところだけ取るから、後はよろしく」

「任せとけ。あ、ちなみに運ぶ姿は見ないでくれよ?」

「わかったわ……はぁ、どうして私気付かなかったんだろ……」


 ハイジは衝撃からか、それとも気付けなかった不覚さからか、ヘレナと違って明らかに気分が落ち込んでいる。取り敢えず固着している部位と、今から使う所を本体から切り離すと、ヘレナを連れてさっさと出ていってしまった。



 結局オスカーはレトの闇の力を使い、影のなかに塊を入れて運んだのだった。

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