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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、強くなる
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ハイジの工房

 腹ごしらえを済ませたオスカー達は、冒険者ギルドをあとにした。先程受付でヘレナの分と一緒にワイバーン狩りの参加名簿に名前を書いて貰ったので、祭りの参加資格を得るためにもう一度長い列に並ばなくても良いのだ。

 この時期に冒険者を始める者は決して少なくない。その為、期間中アイゼンブルク全体で冒険者ギルドに名を連ねた者はそのついでにそのまま受付で参加資格を与えられる。長い列に並ぶ時間を極力減らし、初心者は来る門出に備える時間に充てられる。いわゆる初心者救済措置だ。


「よし、それじゃ今からヘレナの剣と防具を作りに行こうな。近くに腕の立つ鍛冶屋の知り合いが居るんだ」

「やったー! 楽しみ!」


 二人は停めていた馬車まで戻ると、シュバルツと共に都市部から少し離れた郊外へと向かった。



 アイゼンブルクはその名前から険しい山々と岩肌に囲まれた過酷な国だと思われがちだが、実際はそうではない。アイゼンブルク山脈と呼ばれる高地に位置しているので確かに周辺諸国よりは標高が高く、また魔鉱石やミスリル、良質な鉄鉱石の産出する鉱山も多数存在する。しかしそんな山々は比較的なだらかな物が多く、また大河ラーヌの恩恵もありその緩やかな山々の間には肥沃な平野部が広がる。都市から離れた郊外には草原もあり、平地と高地を利用した酪農や混合農業も発達している。

 しかし、豊かであるが故に魔物や他国からの招かれざる客との争いが絶えなかった。そんな土地だからこそ、外敵から家族や友人を守るために強力な自警団が結成され、彼らを支援するための機構が作られた。それこそが後にネードルスラントに拠点を移し、世界を股にかけて拡大する巨大組織、連合ギルド会社の起源である。



 オスカーの知り合いという鍛冶屋は、都市から少し離れた郊外の小さな赤いうろこ屋根の小屋にひっそりと住んでいた。屋根からは赤レンガの煙突が突き出ており、先端からは煙が出ている。小屋のすぐ右手には流れの緩やかな小川が都市部へと延びており、裏手にはそこそこの高さのある岩山がそびえている。


「着いたぞ! 久しぶりだからちょっと緊張するな……」

「おおー、ここに住んでるの?」

「そう。良い小屋だろ?」

「うん! とってもかわいい小屋だね!」


 扉の前までやって来て緊張するオスカーとは対照に、ヘレナはとても楽しげだ。


「それじゃ、行くぞ?」

「うん! 早く会いたい!」


 唾をごくりと飲んだオスカーは、ヘレナと手を繋いでいない空いた左手で目の前の木製の扉をコンコンと叩く。


「はーい、今開けまーす!」


 小屋の中からはそんな女性の声が聞こえてきた。しばらくしてとたとたと小走りで奥から扉の方へ向かってくる足音が聞こえる。


「お待たせしましたー! ハイジの工房へようこそ! ……って、お兄ちゃん!? え? え?」


 開かれた扉の向こう側には、褐色の肌に宝石のように赤い瞳と白い髪をした若い女性の姿があった。頬や作業着はススがつき、そこだけ黒く汚れている。右手には鉄を鍛える為の(つち)を持っていることから、彼女がオスカーの言う『腕の立つ鍛冶屋の知り合い』らしい。

 ハイジと名乗る女性は驚いて右手に持つ鎚を手から離してしまう。手から離れた鎚はそのまま吸い込まれるように彼女の足の甲へ落ちた。


「あァー! 足がァー! 痛ったァー! 折れたァー!」


 足の甲に鎚を落としたハイジは大声をあげて足を抱え、オスカー達の目の前で人目も憚らずにのた打ち回っている。周囲にオスカー達以外の人が居なかったのと、足に丈夫な革製の靴を履いていたことは、幸いだった。


「おねーさん大丈夫?」


 目の前でのた打ち回る初対面の人物に対し、ヘレナは心配そうに駆け寄ってそう手を差し伸べる。一方のオスカーは先程の緊張はどこへやら、呆れた表情で「お前は変わらんなぁ……」と呟いている。


「あはは……もう大丈夫よ、ありがとね。って! そんなことよりお兄ちゃん! 久しぶりじゃない! どうしたのいきなり! 聞きたいことも色々あるし……まぁとりあえず上がって上がって!」


 ハイジはヘレナの手をとって立ち上がると、そう言ってオスカー達を迎え入れたのだった。









「――へぇ……そんなことがあったのねぇ」

「そうそう。そんで今はヘレナと一緒にいろんな所を巡って旅してんだ」


 ハイジの小屋に上がったオスカー達は、用意された椅子に座って今まで起こったことを話した。


「こっちもこっちで大変だったんだからね? お兄ちゃんが勇者様に斬られたって話が広がったと思ったら、法皇庁から聖騎士団がやって来て色々聞かれて……ってそういえばまだヘレナちゃんには話してなかったわね」


 ハイジはそう言って話しについていけずにぽかんとしてオスカーの膝の上に座っているヘレナに向き直る。


「私はハイジ……もといアーデルハイト。お兄ちゃんとは同じ教会で暮らした家族みたいなものよ。お兄ちゃんの持ってるその短銃は私が作ったの。すごいでしょ?」


 そう言ってハイジはアイゼンブルクのなだらかな平原のような胸を張る。が、頭に巻いていた薄緑色のバンダナがずり落ちて目にかかったので、今一格好がつかない。


「このじゅうっておねーさんが作ったの? すごいすごい!」


 しかし優しいヘレナには彼女の凄さが充分に伝わったようだ。目をキラキラさせて前のめりになってハイジを褒め称える。


「でしょでしょ? お兄ちゃんの度重なる窮地を救ったのは私と言っても過言じゃないのよ」


 そう言ってまたハイジは胸を張り、ヘレナもそれをすごいすごいと褒め称える。当のオスカーは物言いたげな表情だが、盛り上がっている二人の邪魔をするのも悪いと思ってか、喉まででかかった「過言だろ」の一言を呑み込んだ。この短銃に幾度も命を救われているのは事実なので、ハイジが言っていることは満更嘘ではないのがまたオスカーを悩ませる。


「それで? 今日お兄ちゃんがやって来たのは何か作って欲しいからなんでしょ?」

「ご名答。今日はハイジの体を流れる優秀なドワーフの血と、ハイジの高い才能を借りに来た」

「うんうん! それで、何を作って欲しいの?」


 自分の出自と才能を誉められてハイジの鼻は段々と高くなっていく。そんなハイジにオスカーは古い布でくるまれた、だいたい肘から指先までの長さの太い木の棒の様な物を手渡す。それを手に取ったハイジは一気に先程までの余裕の表情を引っ込め、眉間にシワを寄せている。


「お兄ちゃん、これって……」


 ドワーフは魔力を持つ鉱物や魔力が固まって出来た結晶の『声』が聞こえる。ハイジの父親はドワーフなのでその力を僅かながらに継承しているのだろう。彼女には手に取ったそれが何なのか、大方理解できたらしい。ハイジは心配そうな顔をしてオスカーを見る。


「ああ、そうだ。開けてみろ」


 オスカーはそう言って静かに頷く。ハイジも「わかった」と返してゆっくりと、くるまれている布を取り払う。そこにあったのは、深い紫色をした鋭く、太い水晶のような物だった。


灰の獣(グラウ)の角……」


 ハイジはそれを確認してそう呟く。ヘレナも、その角をまるで引き込まれるかのように、食い入るようにじっと見つめている。


「こいつからヘレナの剣を作って欲しい。金ならここにたんまりある。どうだ、出来るか?」


 オスカーは前のめりになって角を見つめるヘレナを抱え直して、ハイジに問う。ハイジはゆっくりと顔をあげると、引きつった笑みを見せて、


「……やってやろうじゃないのよ。誰にも作れない業物、作ってやろうじゃないの!」


 そう高らかに宣言したのだった。

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