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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、多忙になる
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出立の日

「――こういう訳だ。だから、今後一切法皇と復活派の関係についての捜査は行わないこととする。良いな?」

「……わかった。皆にもその事伝えておこう。だが……」

「まさかヤドヴィガ姉様が生きていたなんて……」


 ジャクリーヌ達と別れた後、オスカーは二人に捜査の打ち切りとその理由、そしてヤドヴィガが生きていた事を告げた。二人とも驚きを隠せない様子だったが、偽の空間を作り出すなどと言う芸当が出来る者は限られている。信じるしか無いのだろう。


「……とはいえ、やはり部隊は全滅。ヤドヴィガ以外は皆死んでしまった。あいつが唯一の生き残りだ。今は、あいつを信じよう」


 オスカーはそう嘘をつく。もし仮に法皇側の人間が監視していたとしても、話の要所要所に嘘を混ぜることで、真実を隠す。昔からオスカーが良くやる手段だ。


「団長はいつここから動く?」

「東国からの使節団が来る前にここを離れる。春の訪れと共に取り敢えずはアイゼンブルクにでも行くつもりだ」

「アイゼンブルク……団長の故郷ですね」

「ああ。あそこには馴染みの職人がいる。ヘレナにもそろそろ本格的な装備を作ってやりたいしな」

「ヘレナちゃんも十一歳。冒険者を始めるには丁度良い年齢だな」

「ああ……いつまでも小さなままだと思ってたんだが、子供の成長は早いな。じきに俺なんか抜かされてしまう」

「団長さんも、すっかり一人の父親ですね」


 空がより一層明るくなり始めた。日が登ってきたらしい。オスカー達は解散し、各々持ち場へと戻った。






「おとーさん!」


 オスカーは、家に帰るなり早々ヘレナからの飛び付きを食らってしまった。


「うわっ! と……ヘレナ、怒ってる?」


 オスカーは飛び付いてきたヘレナを上手く抱き留め、恐る恐るそう聞く。


「もちろん! 心配したんだからね! おとーさん帰ってこなかったらどうしようって!」


 ヘレナはそう言って頬をぷっくり膨らませてご立腹の様だ。


「ヘレナごめん! 出来るだけ今日みたいに何も伝えずに出ていくようなことしないから、許してくれー!」

「やくそくだよ? どこかに行くときはぜったいだまって置いていかないでね?」

「わかった! 約束する!」

「うん! やくそく!」


 そう言ってオスカーは思いっ切りヘレナを抱き締めてやる。可愛い我が子を心細くさせてしまった事への、せめてもの償いだ。

 ヘレナの方も、大好きなおとーさんが帰ってきた事への安心と、二度と何も告げずに一人置いて何処かへ行く事はしないと約束したことで機嫌を直し、こちらも力一杯に抱き返す。

 その姿を台所で朝食を作っているマリアは横目で微笑ましそうに見つめ、テーブルの上ではカーバンクルのルドルフが胡座をかいてうんうんと何度も頷く。


「馬鹿息子も帰ってきた事だし、朝飯にしようか。ヘレナ、アンナを起こしてきてくれ」

「はーい! ルドルフ、行こ!」


 すっかり機嫌を直したヘレナはそう元気に返事をすると、未だに夢の中のアンナを起こしに、ルドルフと共に寝室に向かった。


「ただいま、母さん」

「全く……ヘレナを泣かせたら承知しなかった所だ。あの子にとって親が突然居なくなると言うことがどれだけ心細いことか、お前が一番良く知っているだろう?」

「返す言葉も無いな……」

「これからは気を付けることだ。あぁそれと、ほら。こいつを返す」


 マリアは配膳を終えるとそう言ってオスカーに雫型の琥珀のような宝石、『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』を返した。


「何かわかった?」


 オスカーはそれを懐にしまうと、そう聞く。マリアは一瞬沈黙した後、


「いや、全くだ。さっぱり解らん」


 と、どこか遠くを見るような目でそう返した。オスカーも何かを察してそれ以上深く詮索しなかった。再び二人の間に沈黙が流れる。だが、


「アンナちゃん起こしてきたよー!」

「おはよー……母さん、兄さん」


 ヘレナのその元気な声と、昨夜の事を全く知らないアンナの登場で沈黙は破られ、賑やかな空気が家に戻ってきた。朝食のスープの良い薫りが、辺りにふわりと漂った。







 ――数ヵ月後、出立の日



 年を越し、ネードルスラントの春の収穫祭も終わり、オスカーとヘレナは出立の日を迎えた。計画ではこの後街道を北東に進み、アイゼンブルクに向かう。その後はシュバルツブルクに居る知人を訪ねる予定だ。

 今から出れば、アイゼンブルク恒例の『ワイバーン狩り』に間に合うはずだ。ヘレナの冒険者としての門出には、丁度良いだろう。


「もう行くのか」

「ああ。ワイバーン狩りに参加させてやりたいしな」

「ヘレナちゃんが居なくなっちゃうと、また寂しくなるわ」

「アンナちゃん、また帰って来るから大丈夫だよ!」

「オスカー、ヘレナ。達者でな。何時でも帰ってこい。アイゼンブルクにも荒野に咲く花(エリカ)の拠点がある。何かあったらそこを頼れ」

「グスタフ、ありがとう。また会おう」

「グスタフおじさん! 次会ったらまた色んな事教えてね?」

「おう! 任せとけ」

「オスカーさん! 俺、絶対に貴方の様な冒険者に成長します!」

「ルドルフ殿、期待しています!」


 出立にはマリアやアンナはもちろん、グスタフやアドルフまで駆け付けてくれた。それだけでなく、『荒野に咲く花』にいつの間に出来ていたヘレナを応援する冒険者達の集まりに参加している屈強な冒険者達も、その場に集まって口々に別れを惜しんだ。ヘレナの人気もここまで来ると少し恐ろしさを感じる。

 惜しむらくはエリーゼ達やテオドールが来られなかった事だ。竜狩り部隊のエリーゼは任務で残念ながら来られなかったが、ギルドを通じて手紙が届いた。アルフォンスとの結婚式には必ず呼ぶとの事らしい。テオドールも仕事が立て込んでいるらしい。こちらは手紙の代わりに一通の請求書が届いた。あの時の治療はタダでは無かったのか……

 そしてもう一組、彼らとの別れに駆け付けた者達がいた……


「ヘレナちゃん、短い間だったけど、君は本当に成長した。また会うときを楽しみにしてるよ。兄貴、久しぶりに兄貴に会えて本当に良かった。どうぞお達者で」

「ウィンセント先生! 短い間でしたが、ありがとうございました!」

「ウィンセント。俺もお前に会えて良かったよ。お前達こそ、達者でな」

「はい! ほら、ラインハルト。ヘレナちゃんに言いたいことあるんだろ?」


 そう言ってウィンセントは、一緒にやって来た息子の背を押す。ラインハルトは顔から火が出そうなほど、真っ赤だ。


「えーっと……ヘレナ! 俺、強くなる! 今よりもっと練習して、いつかお前より強くなって見せる! だから、その……そのときは! お、俺と……俺といっしょに暮らしてくれ!」


 ラインハルトは大声でそう言って手を差し出す。顔は先程よりも更に真っ赤だ。

 当のヘレナも、その言葉で頬を赤く染め、目を丸くして驚いている。


「ウィンセント、これって……」

「うちの(せがれ)なりのプロポーズって奴ですね」

「プロ……! そうか……ヘレナがプロポーズを……そうか……」


 その父親の方は娘とは逆に顔を真っ白にして、虚ろな目をしている。幾分か老けたかも知れない。


「あーもう兄さんったら! ヘレナちゃん、恥ずかしがる事無いのよ。貴女の思うままに答えたら良いのよ?」

「うん……」


 プロポーズされたヘレナも頬を真っ赤にしながら、意を決して答える。


「ライ! わたしももっと強くなる! だから、次あったとき……手合わせしよう! どれぐらい後になるかはわからないけど……ぜったいだよ!」


 ヘレナはそう言って差し出された手をしっかりと握る。

 それを見ていた大人達は(若干一名を除いて)大いに盛り上がり、二人を祝福した。シュバルツとルドルフも鳴き声を上げて喜んでいる様だ。オスカーはもはや、立って居られなかった。




 二人を乗せた馬車が軽快な音を経てて石畳の上を走っていく。今回の出立はいつにも増して、賑やかなものとなったのだった。

 これにてネードルスラント編は終了! 次回からはアイゼンブルク・北方諸国編となりますので、どうぞよろしくお願い致します!

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