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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、多忙になる
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「……おばあちゃん、おとーさんは?」

「ヘレナ……起きてしまったか」


 寝室から出てきたヘレナに、マリアはそう声をかける。外はまだ暗い。日の出までまだかなり時間がある。


「大丈夫、すぐに帰ってくるさ。どれ、牛乳を温めてやろう。それを飲んだらまたベッドに戻るんだぞ?」

「うん……」


 ヘレナは一応そう頷いたものの、やはり心配そうだ。自分のこと……ではなく、オスカーの事が心配なのだろう。表情は浮かない。


(ギル……可愛い孫を泣かせたら僕は承知せんぞ。早く帰ってこい……)


 マリアはそう心で呟き、牛乳を温めるのだった。





「レト・イルクレア」


 オスカーは扉を開け放つと、左手を伸ばしてそう唱える。

 扉を開けてすぐ先には開けた部屋があり、そこには数名の魔族が酒を呑み、うつらうつらとしていたのだが、瞬く間に漆黒の刃によって声を上げることすらなく体を貫かれ、物言わぬ(しかばね)と化した。壁や天井、床にはそんな彼らの血肉や臓物がぶちまけられ、真っ赤に染まっている。


「一階広間、沈黙。次行くぞ」

「はい」

「おう」


 そんな状況でもオスカーやモンセフ達は顔色ひとつ変えること無く、淡々と手当たり次第に部屋を探り、次々に教徒を屍に変えていく。


「これが、大烏……」

「東部の平原に屍の山を築いた戦士達、か……」


 近衛兵達はそんなオスカー達の姿を見て恐怖を覚えた。オスカーやモンセフのみならず、自分達よりも若い女性であるリサさえもそんな羅刹(らせつ)達と同じ様子であることに。


「一階は全て鎮圧しました」

「地下は我々がやろう。近衛さん達は二階を頼みました」

「は、はい!」


 一階を全て鎮圧したオスカーはローブや頬に返り血を浴びながらも、やはり淡々と周りに指示していく。指示された近衛兵達は少し元気を取り戻してそう返事を返した。それもそうだろう。彼らと離れられれば、もう臓物が飛び散るような凄惨な光景を見ることは無いのだから。いくら相手を殺すのでも、やはり屍の作り方次第で心の持ちようが大分変わるらしい。


「それでは、よろしくお願いしますね」


 オスカーはそう言うと、モンセフ達と階下へと姿を消した。


「……全く、俺達も嫌われたもんだな。団長」

「しょうがねぇ。近衛兵は実戦経験に乏しい上、まだまだ若い。今のうちに俺達と距離を置いて貰ってた方が、あいつらにとっても、俺達にとっても良いだろう」

「団長なりの優しさですね。流石です」

「とか言いながらリサが一番エグいんだよなぁ……」


 三人は階段の一番下まで降りた。どうやらカタコンベ(地下墓地)を利用しているらしい。壁からは所々骸骨が露出したり、そもそも骸骨を利用した彫刻のような物が設置されていたりする。地盤の緩いアリオルストダムであるが、この辺りはまだ地盤が固い方である事から、ネードルスラントでも珍しくカタコンベを作ることが出来たのだろう。


「レプン・フォルシャク」


 リサはそう唱え、角笛を吹く。すると角笛は青白く光り、口からは同様の光りがそこを中心にカタコンベの細い道に広がっていく。

 オスカー達の周りには丁度三つの道が延びている。


「正面に二十、右に十一、左に五。一番魔力が強いのは左ですね」


 角笛から口を離したリサはそう言って吹き口を手拭いで拭き取る。


「ならモンセフは右に、リサは正面。左は俺が行こう」

「承知した」

「はい」


 三人は頷くとそれぞれ別の方へと歩みだして行った。





「……シュタイナー。不安か?」

「はっはっは……ジャクリーヌ様は鋭いですな。やはりどれだけ成長しても、活躍しても、教え子の身を案じるのは師としての運命なのでしょうな」

「『黒鎧(こくがい)』のシュタイナーと呼ばれたそなたが、教え子の身を案じると言うのは、私としては少々不思議だな」

「やはり私も歳、なのでしょうね。息子と彼の年齢が近いと言うのもあるのでしょうが」

「あぁそういえば、もうじき初孫が産まれるんだったか? 安産だと良いな」

「ええ、本当に……」


 二人は重い緊張感に包まれた拠点に待機しながら朗らかにそう談笑する。それを麾下(きか)の近衛兵達はなんとも言えない表情で見守る。そんな時、


『本部! こちらゴッホ隊! 増援願います!』


 テーブルに置いてあった通信用水晶から増援要請が入った。


「わかった、すぐそちらに向かわせる。もう少し持ちこたえろ! シュタイナー、行けるか?」

「了解致しました。直ちに向かいます。ジャン、カール、行きましょう」


 シュタイナーは椅子からすぐに腰を上げ、剣を持つと部下二人を引き連れ、その場を後にして行った。


「さて……魔王軍を殺戮し尽くしたカラス共は、どんな土産を持ってくるのか、楽しみだな」


 静かになった部屋でジャクリーヌはそう含み笑いをしながら、グラスに赤ワインを注ぐ。グラスにはその不敵な笑みが映っていた。

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