討ち入り
「おとーさん!」
「ヘレナ! ちゃんと稽古出来たか?」
「うん!」
夕方になり、オスカーがヘレナを迎えに行くと、ヘレナは先程まで疲れて地面に寝そべっていたのが嘘かのように勢い良く飛び起きる、そのままオスカーの胸に飛び込んだ。
「今日はありがとう、ウィンセント」
「いえいえ、兄貴の娘さんなんですから当然です。それにしても、やっぱり良い腕ですね。飲み込みも早いし。うちの倅も旅させようかなぁ」
「はっはっは」
そうして二人は馬車に乗り込み、家に帰ったのだった。
そして、約束の時がやって来た。
「……行くのか?」
「ああ。公爵サマから出勤要請が出たからな」
「全く……お前のことだからから万一は無いと思ってるが、気を付けるんだぞ」
「おう」
「あと、血の臭いは落として帰って来るんだぞ。僕の研究に支障が出たら嫌だからな」
「わかった……あぁ、そうだ。忘れるところだった」
「どうした?」
「こいつの正体を確かめてくれ」
オスカーはポーチから琥珀色の石をマリアに渡す。
「これは……! はぁ、全く……親子そろってしょうもない。わかった、任せとけ」
「頼んだ。それじゃ、行ってくる」
「ああ。行ってこい」
オスカーは扉を開き、町へと繰り出していった。
「はぁ……二千年たって作り主の手元に戻ってくるなんて。僕はお前のこと忘れたかったんだがな……」
○
「団長、こんばんは」
「待ってたぞ、団長」
宮殿に到着したオスカーを、リサとモンセフがそう出迎える。
「二人とも、今日はいきなりですまんな。ジャクリーヌ女伯は?」
「公爵執務室です」
「ありがとう」
オスカーはその場を離れて公爵執務室に向かう。
既に宮殿の中には武装した近衛兵が何人も見受けられた。そしてその全てが近衛兵だとわからないよう、普段の隊服ではなく、背に赤いバツ印を描いた白いローブに顔まですっぽりと身を包んでいる。頭にはシュタイナーの着けていたあの白い布を被っている。
「シュタイナー先生!」
「ギルベアド様、公爵閣下は既にご出立なされました。ジャクリーヌ様は中でございます」
「ありがとうございます。ジャクリーヌ様! ギルベアドが参りました!」
オスカーは扉を叩き、中にいるジャクリーヌにそう声をかける。すると間も無く扉が力強く開き、中から本人が飛び出してきた。
「来たか! シュタイナー! 近衛兵に連絡急げ! 五人一組で所定の敵拠点に配置しろ! ギルベアドは私と共にこい。作戦を確かめる!」
「承知致しました!」
「はい!」
「ギルベアド、この町には五つの拠点がある。それぞれの拠点に二班十人を配置する。お前たち三名は一班五名と共に最大拠点を落とす」
「残る一班は女伯と共に予備戦力として市内に潜伏して、苦戦している所に増援に入る……と」
「うむ! 外部との連絡の為にお前たちにはこれを渡しておく」
ジャクリーヌはオスカーに三つの通信用水晶を渡した。小さく角張った水晶だ。携帯用に加工しているのだろう。
「他の隊員には既に配布済みだ。万一の事は無いとは思うが、何かあったら連絡するように」
「はい!」
話していると、二人は宮殿の裏手へと到着していた。そこには既にリサとモンセフ、そして五人の近衛兵が完全武装して待っていた。
「現地に到着したら、一度連絡をくれ。作戦は同時に開始する」
「はい!」
「それでは、ご武運を!」
一同は、ジャクリーヌに敬礼をすると、宮殿を後にした。
「……やはり夜は寒いですね」
「……ああ、寒いな。ヘレナが風邪を引かんか、心配だ」
「ふふっ……流石、子煩悩だな」
北風が強く吹き付ける。目前には復活派の拠点の入り口が見える。
『作戦開始!! 殲滅せよ!!』
水晶からジャクリーヌの声が響く。
オスカーはゆっくりと剣を引き抜いた。




