ウィンセント・ホフマン
今回は少し短いです
「えーっと……あ! おとーさん、ここだよ!」
ヘレナがそう言って一つの家の扉を指差して飛び跳ねる。
現在オスカー達はヤーコブ老に紹介して貰った剣術家の家の前に居る。どうやらヘレナはヤーコブ老に家の場所の書かれた紙を貰っていたらしい。
場所はアリオルストダム郊外の丘の上で、マリアの家からもそう遠くない。赤い三角屋根が特徴の小さな一軒家だ。
二人が到着した頃には、既に家の裏手にある庭から剣の練習をしているであろう、木剣の当たる音がしていた。
「もう練習してるみたいだな。ちょっと覗いてみるか?」
「うん!」
そうして二人は家の裏手へと回ったのだった。
家の裏手へと近づくと、鍛練の音がはっきりと分かってくる。今鍛練をしているのはどうやら親子らしい。父親が息子に剣を教えている。
「もっと攻めるんだラインハルト! 守ってるだけじゃダメだぞ!」
「おう!」
庭に近づくに連れてオスカーはその父親の声にどこか聞き覚えがある気がしてきた。そして間も無くそれは確信に変わる。
「あっ!」
家の角から庭に立つその父親の姿を見たとき、思わずオスカーは声を上げてしまう。その父親は右目に大きな傷痕が残る、金髪の男だ。瞳は鈍い金色をしており、金の髪を後ろで一つ括りにしている。顎には無精髭が生え、左足は木製の義足で補っている。
それは、オスカーと――ギルベアドと共に戦場を駆けた戦友、ウィンセントであった。
ウィンセントもその声に気づき、少し静止した後、オスカー同様「あっ!」と声を上げ、驚く。そこを、
「隙ありっ!」
と対面していた息子に木剣で胴の革鎧を打たれ、よろめき、後ろに倒れてしまった。
「くそ! ラインハルトやりやがったな!」
「隙を見せるなってのは親父の口癖だろ?」
そう言い合う親子に、二人は連れ立って近づく。そして、
「久し振りだな、ウィンセント。元気そうで何よりだ」
「こんにちは! 娘のヘレナです!」
と言ってオスカーは倒れているウィンセントに手を貸し、ヘレナはペコリと挨拶をする。
「兄貴、お久しぶりです! 娘さんが居るとは副長から聞いてましたけど、うちの倅と同じぐらいの歳だったんですね。俺はウィンセント。ウィンセント・ホフマン、よろしく!」
ウィンセントはオスカーに手を借りて立ち上がり、二人に挨拶をする。それを見て、ウィンセントと対面していた息子の方も近づいてきて、
「俺はラインハルト・ホフマン! よろしく!」
と言ってウィンセントとオスカー達の間に割って入ると、そう挨拶をする。
「俺はオスカー・シュミットだ。君の父さんとは古い友人だった。よろしく」
「私はヘレナ・シュミット! ラインハルト君! よろしくね!」
そう言ってヘレナはにっこりとラインハルトに笑って見せる。女の子に笑い掛けられたラインハルトは少し顔を赤らめ、
「お、おう。よろしく……」
と、少し恥ずかしそうにしている。
「そういえば、どうして兄貴はまた俺の所に来たんですか?」
ウィンセントはそう言って服に着いた土を払い落としながら話を切り出した。
「それは、ヘレナから話した方が良いな」
オスカーはそう言ってヘレナの背中をポンと叩いて話すように促す。ヘレナは一度オスカーを見てコクリと頷いて見せると、一歩踏み出す。そして、
「ヤーコブさんからあなたをしょうかいしていただきました! 私を弟子にしてください!」
そう大きな声を出して紹介状を出して頭を下げたのだった。そんな成長した娘の姿にオスカーは少し微笑ましく、また少し寂しく感じたのだった。




