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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、多忙になる
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烏の望み

「うわー……すっごい量だねぇ……」

「母さん何買ってきたんだ……」


 二人が家に帰ると、家のすぐ玄関先に大量の大きな木箱が置いてあった。

 二人が馬車を降りてそこに駆け寄ると、


「おお! 丁度良いところに帰ってきてくれた! すまんが手伝ってくれ!」


 と言う声と共に木箱の陰からマリアがひょっこりと顔を出す。


「こんなに大量の荷物どうした?」

「この前あった魔法市で買ってきた! なかなか良いものがあってな、僕も久々に奮発してしまった」


 魔法市とは、その名の通り魔道具を販売する市の事だ。年に一度各地の会場で魔道具ギルドが主宰しており、高価な魔道具を安値で販売したり、新作の魔道具を取引している。但し、参加出来るのは魔道具ギルドに加入している者か、ギルドに出資している者だけとなる。


「何処に置くんだ?」


 オスカーが聞く。


「置き場の目処が立つまでリアに預かってもらう。ヘレナも帰ってきて早々で申し訳ないんだが、リアにその事伝えてもらって良いかな?」

「うん! 行ってくるねー!」

「頼んだ!」

「気を付けるんだぞー!」


 そうしてリアの元へ駆け出していくヘレナを見送ってオスカーはマリアの手伝いを開始した。


「アンナは?」

「先に小さいものだけ地下の実験室に運んでもらってる。残すはこの五つの巨大な魔道具だけだ! こいつがあればきっとお前達の助けにもなる筈だ!」

「左様ですか……」


 と言いながらオスカー達は大きな木箱を解体していった。



 結局、二人が木箱を解体し終えた頃には辺りは暗くなり始め、ヘレナとアンナも戻ってきていた。


「ようやくか……」

「ご苦労! さーて、こいつをどうするか……」


 マリアの目は夕暮れの薄暗さを掻き消さんとするかのごとく、キラキラと輝いている。そんな母親をオスカーとアンナは花園に座り込んでヘロヘロになって見つめる。


「おとーさん! アンナちゃん! お疲れさま!」


 そんな疲れはてた二人の兄妹の元にヘレナは満面の笑みで駆け寄り、水の入ったカップを手渡す。


「ありがとう……流石ヘレナ、出来た娘だ!」

「ヘレナちゃんありがとう! 頂くわ!」


 そう言って二人は中の水を一息に飲み干した。


「んで? 結局この装置は何なんだ?」


 水を飲み干したオスカーがマリアに聞く。


「こいつが何かって? よくぞ聞いてくれた! こいつはな、『魔力蒸留器具』だ! まだ殆ど市場に出回ってない貴重な品でな、僕が出資してる魔道具職人が特別に市場価値の半値で売ってくれた!」

「じょーりゅーって何?」

「一つの物から不純物を取り出して、純度を高めることだな」

「へぇー!」


 

 この後オスカーとアンナは夕飯の後この蒸留器具をリアの居る場所の前まで運ぶ事になったのだった。





「ギル、やっぱり行っちゃうのか?」


 楓の木々の立ち並ぶ森の広場に、二人の男女が立ち尽くしている。一人は楓の葉と同じような髪の色をした若い女性で、絹のローブを一枚身に纏っている。もう一人はそれとは対照的な真っ黒のローブを身に纏った若い男性だ。


「ああ、皆が待ってるからな」


「約束しろ、ギル。必ず帰ってくるって」


「約束するよ、リア。俺が帰ったら、その時は……俺と……







































                結婚してくれ」


 温かな春風が、木々の間を縫って二人の間を吹き抜けた。





 オスカーはこの日、いつもより早く目が覚めた。横ではまだヘレナが寝息を立てている。窓の外はまだ暗い。

 オスカーはヘレナを起こさないように静かに剣を一振だけ持って、外套と手袋を着けて外に出た。


 季節は既に冬に切り替わり、比較的温暖なネードルスラントもかなり寒くなってきた。

 オスカーはそんな冷涼な空気を吸い込み、吐き出し、剣を構える。そして、何年、何十年と続けてきた素振りをする。

 剣を振る度にビュンビュンと風を切る音がなり、足を踏み出す度にザッザッと花を踏む音がする。

 かつて、まだオスカーがギルベアドだった頃と何ら変わらない事をして、だが、自らがオスカーでもギルベアドでも無いものと自覚してただ素振りを行う。


(ギルベアドは死んだ。約束を果たすために多くの者を殺し、自らの手を血で汚して戦った。だが、約束は果たされなかった。血と泥で汚れた俺を待っていたのは静かにそびえる一本の楓の木だけだった。リアは目の前に現れなかった。その時、ギルベアドは死んだのだ。勇者に背き、剣を向け、勝負を挑むその前に既にギルベアドは死んでいたのだ)


 風が強くなる。北風は辺りの木々をざわめかせ、花を揺らす。


(俺はオスカーとして生きる事にした。かつての名を捨てて、新しい名で世を忍び、自分を兄と慕う者(エルフリーデ)の為に、争いの無い世を作るために。栄光の影として千人もの部下を道ずれにして……この十年が最後の好機だ。これを逃せば次順番が回ってくるまでにどれ程掛かるか……それまでこの体が保ってくれるか……幸いにもヘレナは強くなっている。爺様の推薦で名のある剣術家に弟子入りさせて貰えるらしい。この冬が開けるまでにヘレナは更に強くなる。きっと、俺よりも強くなる。そうして、強くなっていずれは俺を……

























                殺せるだろう)


 風が強く吹いている。空には暗い雲がそろそろ迫ってきている。今日は雪が降るらしい。

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