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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、多忙になる
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地下と訓練場

 二人は真っ暗な階段を、オスカーの下級光魔法(ラ・シーナ)で照らしながら降りていく。


「もう痛く無いのか?」


 グスタフがオスカーに聞く。


「いや、慣れた」


 オスカーはあっさりとそう返す。



 二人は長い階段を降りる。下にはまだ着きそうにない。


「……復活派はこの十年で急成長した。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ」


 突然オスカーがそう話し始める。


「魔王征伐――四年戦争なんて呼ばれたあの戦争は、終わってみれば人々に大きな利益を産み出した。開戦直後主な戦場となり大きく荒れに荒れた東部諸国は、勇者エルフリーデによって安寧を取り戻し、統一された大国として大戦以前の繁栄を大きく上回る成長を遂げた。そして勇者の出現は、度重なる紛争や宗教対立、果ては汚職等の腐敗でその信頼を地の底まで落としていた主流派教会と、その長たる法皇イノケンティウス八世の権威を回復させ、発言力を高めた。そもそも、四年戦争の開戦によって、それまで二十年もの間続いていた主流派教会側と新説派連合側の二十年戦争が中断され、西部や中部には久々の戦争のない時代に戻った。そしてやはりエルの活躍で戦後宗教対立の原因が取っ払われ、世界は平穏を取り戻した」


「だが、裏では割りを食ってる奴らが大勢いた……か」

「ああ。繁栄の裏で魔族達は急速な衰退を見せた。その衰退は奴らに自らの民族の滅亡を意識させるには、充分だったろうな。相次ぐ差別、魔族にのみ課される重税。エルも自国で保護政策を取って各地から魔族を故郷に戻し、優遇する策を取っているが……あいつの死後それを維持できるのかは、不安な所だ。それに、今だその策は不十分、不満を持つものも大勢いる。国内で反乱が起きないのはやはり勇者としての威光に依るものが大きい」

「だから奴らは自らを選ばれし民族と称して復活派を作り、今は亡き魔王を新しき救世主として崇め、神の復活を旗印に暴れまわってる」

「……だが、今になって分からなくなってきた」

「何が?」

「法皇の存在さ。俺の部下が、アルノルトが殺されたろ? 最期に奴は『魔王じゃなかった。法皇だった』と言った」

「魔族殺しが趣味みてぇなあの法皇が一枚噛んでるって言いたいのか?」

「分からん。分からんが、これから分かる」


 そう言って二人は階段を最後まで降りきり、部屋に明かりをつけた。

 部屋はかなり広く、百名程度なら入れそうだ。その真ん中には大きな机が一つ置かれてあり、その上に様々な書類が積み上げられている。


「すごい量だな。これだけ集めるのにかなり苦労したろ?」

「ああ。こいつを集めるのに団員総動員して取り掛かった。活用してくれ」

「ああ。毎度すまんな」


 そう言うとオスカーは早速その書類に目を通し始めたのだった。





「そうじゃヘレナちゃん。剣は得意かの?」


 ヘレナに城内を案内していたヤーコブ老がそう聞く。


「うん! 最近はあんまりだけど、たまにおとーさんに教えて貰ってるから得意だよ!」


 ヘレナはそう言って笑みを浮かべる。


「どうじゃ、ワシと手合わせしてみるか?」

「うん!」


 ヘレナはヤーコブ老にそう大きく頷いてにっこりと笑う。そうして二人は訓練場へと向かった。



「ここじゃ」

「うわぁー! おっきいね!」


 訓練場に着いたヘレナは、その大きさに驚いた。円形になっている広場が真ん中にあり、その奥には小さな森と、小山が作られ、様々な場所を想定した訓練が可能になっているらしい。

 訓練場には既に数十名の団員が訓練を行っている。皆一流の冒険者なのだろう。洗練された剣技で相手に切り付け、それを無駄のない動きで躱して攻撃をする。軍隊顔負けの技術である。


「それじゃあ、ここらでやろうかの」


 ヤーコブ老はそう言うと冒険者達からは少し離れた所で、大きな円を描く。


「この円の外に出るか、体に一撃当てられたら負けにしよう。武器はそこから選らんどくれ」


 円を描き終わったヤーコブ老は模擬武器の置いてある所を指差す。


「はーい!」


 そう言ってヘレナは模擬武器を選ぶ。それは大人が使うのならば普通ぐらいの長さの、これと言って特徴のない剣であった。だが、十歳のヘレナには少々大きすぎるかも知れない。武器を選んだヘレナは、その隣に置いてある練習用の革製の鎧を身に付け、ヤーコブ老の元へ戻った。


「それでいいのかの?」

「うん!」

「そうかそうか。それでは、始めるとするかの」


 ヤーコブ老はそう言って先に用意していた模擬槍を構える。その穂先をしっかりとヘレナに向け、顎を引いて上目遣いで狙いを定める。その目はまさに猟犬の様だ。

 一方のヘレナは前に剣を構え、肩幅程に足を開き、静かに相手の動きを待つ。その構えはオスカーに似るものを感じる。ヤーコブ老はそんなよく似た父娘を微笑ましく思いつつ、まっすぐヘレナを見据える。


 しばらく時間が経った。気づけば周りには訓練中だった他の冒険者達が見物していた。

 すると突然、ヤーコブ老がヘレナに肉薄し槍を突き出した。手加減こそしてはいるが、充分早い。ヘレナは眉間に迫る槍を充分惹き付ける。そして寸でのところで左前方に避けた。


「何っ!?」


 ヤーコブ老はオスカーならばここで槍を上に弾き、蹴るなりする。だからヘレナも同じようにしてくるだろうと予想していた。だが、その予想は見事に外れ、目の前に躍り出た少女に全く対応出来ず、ただ驚愕し、自身の衰えと浅はかさを反省した。やはり歳と言うのも有るのだろうし、少女だからと侮っていたのも有るのだろう。


「てやぁ!」


 ヘレナはヤーコブ老の胴に剣を横薙ぎに振るう。


 パァン!!


 ヤーコブ老の革鎧とヘレナの模擬剣が当たり、大きな音が響き渡る。回りで見物していた団員達は驚いて、目を丸く見開いている。


「手合わせありがとうございました!」


 最後にヘレナは、後ろを振り返ってヤーコブ老にお礼を言う。弱冠十歳の少女に負けたヤーコブ老は、しかし清々しい顔をしている。


「ヘレナちゃんは強いのぉ……ワシではとても歯が立たんわい」


 そう言ってヤーコブ老は笑い、


「ワシの知り合いに剣術の達人が居ってな、ヘレナちゃんなら弟子入りを認めてくれると思うんじゃが……どうじゃ?」


 と提案する。


「ほんとに!」

「あぁ、ほんとじゃ。オスカーと良く相談すると良い」


 そう言ってヤーコブ老はヘレナの頭を撫でたのだった。

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