荒野に咲く花≪エリカ≫
「着いたぞー!」
そう言ってオスカーは馬車を城の門前で停める。門、と言っても市壁の様に巨大なものと言うわけではなく、格子状のものだ。それでもやはり隅々まで整備が行き届いている様だ。
「おおー! やっぱり近くで見るとおっきいね!」
「ああ! 立派な城だろ? お父さんは昔ここに居たんだ、すごいだろ?」
「うん!」
二人がそう会話をしていると、門番が近づいてきた。白いローブのお陰で耳や角は確認出来なかったが、彼もどうやら亜人か、その混血らしい。
「それじゃあ、わしは手続きしてくるぞぉ」
「あ、くれぐれも俺の正体は内密で頼む。俺が帰ってきたのが知れたら大混乱だからな」
「わかっておる、わしに任せておれ」
ヤーコブ老はそう言って馬車から降りて、門番と話をし始めた。
その後二人でしばらく話をし、ヤーコブ老は戻ってきた。
「おじいちゃんお帰りー!」
「おう、ヘレナちゃんただいまー! ギル坊! 時期に門を開けてくれるそうじゃ」
ヤーコブ老がそう言うなり、目の前の格子状の門が大きな音を起てて開いた。それを見てオスカーはシュバルツに合図を出して、前に進む。
「そうじゃ、グスタフもどうやら戻ってきておるようじゃぞ。今は執務室に籠っておるらしい」
「そういえばあいつ、総長になったんだったか……あいつに事務仕事なんて、似合わねぇなぁ」
そう言ってオスカーは大きく笑う。
城に入って間も無く、案内の者がやってきて馬車を来客用の車止めに誘導する。オスカーはそこに馬車を停め、シュバルツを馬小屋に預ける。
「それじゃあ、わしが執務室まで案内しよう。お前さんが居た頃とは場所は変えてあるからの」
「そうか。それじゃ、頼む」
ヤーコブ老はそう言うとスタスタと歩み始める。もう七十も近いだろうが、その歩みには全く老いと言うものが感じさせられない。もしかすると若者よりも速いかもしれない。
「おじいちゃんはやーい!」
「そうか? ふぉっふぉっふぉっ」
「流石の健脚だなぁ……」
ヤーコブ老に続いて一行は中庭を突っ切り、建物の中に入り、城の二階に登った。その間、外部から交渉に来たであろう者達以外のすれ違う人々は皆、獣人や亜人、混血の者達であった。
「みんな亜人さんだね」
「ああ。ここはそういう所だからな」
手を繋いで居るヘレナとそんな話をしていると、
「着いたぞぉ! ここじゃ」
そう言ってヤーコブ老が一つの扉の前で立ち止まる。その扉は他の扉となんの変わりもない造りをしている。これでは始めての者は案内されなければどれが執務室か分からないだろう。つまり、もし襲撃されても、司令部である執務室は敵の攻撃を受けづらいのだ。
「グスタフのやつ、よく考え付いたなぁ……流石は切れ者総長」
そうオスカーは舌を巻く。
ヤーコブ老は扉を二回、二回、一回、三回と区切りながら叩く。するとその扉は勝手に開き、オスカー達を招き入れた。
「ようオスカー! 久々のご帰還じゃないのか?」
中に入ってすぐ目の前にある執務席から野太い男の声がする。グスタフだ。
「グスタフおじさん!」
「ようグスタフ。たまには顔見せなくてはと思ってな」
二人はそう言って更に中に入る。ヤーコブ老は気づけばグスタフのすぐ隣の席に腰かけている。
「そういやヘレナはここ始めてだったな。ようこそ荒野に咲く花へ!」
グスタフはそう言って立ち上がり、オスカー達に歩み寄る。
「ここの奴らを見たろ? ここの奴は皆獣人や亜人や混血だ。外の世界じゃ厄介者扱いされてるような奴らで組織されてる」
「でもみんな楽しそうだった! やっぱりグスタフおじさんのお陰なのかな?」
ヘレナがそう言うと、グスタフは少し驚き、そしてすぐに大笑いしてヘレナの頭を撫でる。
「はっはっは! もしそうだったら嬉しいなぁ!」
ヘレナはグスタフに頭を撫でられて嬉しそうだ。それを見て他の二人も微笑む。
「そうだ爺様、ヘレナに中を案内してやってくれ。俺とオスカーはちょっと話があるからな」
「わかった。ヘレナちゃん、行こうか」
「うん! おとーさん達、またねー!」
ヘレナはそう言ってヤーコブ老と共に部屋を出る。それを見送ったオスカーはグスタフの方を向き直り、
「それじゃ、俺らも行くか」
「ああ、そうだな。ギルベアド」
と言って、執務室の床を軽く蹴る。するとそこから、薄暗い隠し階段が現れたのだった。




