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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、多忙になる
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ヤーコブ老

 少し冷たい風が辺りに吹く。木枯らし……と呼ぶにはまだ足りないがそれでも充分に冷たく、冬の訪れを感じさせられる。幸いなことに、天気は良好だ。


 オスカー達は今、アリオルストダム郊外にあるマリアの家のある森から少し離れたところにある冒険団、『荒野に咲く花(エリカ)』の拠点へと向かっている。


「おとーさん! まだ?」


 馬車の荷台からヘレナが話しかけてくる。ヘレナの頭の上には相変わらずルドルフが座り込んでいる。そしてヘレナの首からは、昨日オスカーから貰った腕輪が、紐を通してぶら下がっている。朝、家を出るときにアンナにつけてもらったのだ。太陽の光りに反射した腕輪の精霊石がキラキラと輝く。


「もう少しの筈なんだが……お、見えた見えた」


 そう言ってオスカーは正面を指差す。するとそこには、


「うわー! おっきなお城!」


 立派な城が一つ、この地域の主であるか様にそびえ立っている。

 小高い丘の上に築かれた古い石レンガ造りのその城には、本体の右にくすんだ赤色をした円錐形の屋根をもった高い塔が天に伸び、城の大きさをより印象付けさせる。城の作り自体はかなり古い物だが、その壁やら屋根にはツタ一本生えておらず相当丁寧に整備していることがうかがえる。


(几帳面なグスタフらしいな)


 オスカーはそう思いながら馬車の速度を少し下げ、ゆっくりと城に近づく。


「あ、おとーさん! あそこに人がいるよ!」


 今度はヘレナが前を指差す。オスカーがそちらを見ると、確かに道の横にある岩に腰かける人物がいた。真っ白な絹のローブに赤いベルトをし、傍らには長い槍を置いている。


「本当だ。あの服装……荒野に咲く花の団員だな」


 荒野に咲く花の団員は、真っ白な絹のローブを纏い、それを腰の辺りにつける赤いベルトで留めた服装で普段は統一されている。もっとも、グスタフやアンナ、アドルフの様にローブを纏わない者も居るがそれはかなりの実力者であり、ローブを纏わずともどこの団員かわかるからである。


「おい、あんた荒野に咲く花の団員だろ? こんなところで何してる?」


 オスカーはその人物の前で馬車を停め、御者台から降りて話しかける。すると、


「その声は……!? もしや、ギル坊か!!」


 その人物はオスカーの声を聞いた途端に立ち上がり、フードを勢いよく外してオスカーの両肩を掴む。しわがれた低い声に、よく焼けた肌と深い顔の皺。髪と髭は長く白い。そしてその頭の上には犬を思わせる2つの耳がピコピコと動いている。


「あんたもしかしてヤーコブの爺様か!! 久し振りだなぁー! 元気だったか?」


 オスカーもその男の声と顔を見てようやく旧知の人物だと気付き、彼の肩を掴む。


「元気だったか? じゃないわい! お前が勇者殿を裏切った末切り捨てられたと知らされて、お前は死んだものと思っていたのに……はぁ……はぁ……」


 興奮した様子のヤーコブ老は深く呼吸をする。


「爺様あんまり興奮すんな、もう歳なんだから」

「ああ……すまんすまん。それにしても、よう生きておったなぁ……。ん? 馬車のなかに誰かおるのか?」

「あぁ、俺の娘だ。ヘレナ、出てきてもいいぞ!」

「娘!? お前、見ない内に娘まで出来たのか!」

「おう、自慢の娘だ!」


 そうして二人が話している内にヘレナが馬車から降りてきて、オスカーの横に並ぶ。


「こんにちは! ヘレナ・シュミットです! としは十才です!」


 そう言ってヘレナはお辞儀をしたあと、にっこりと笑う。


「おおー! ようできた娘さんだのぉ……わしゃヤーコブじゃ。ヤーコブ・フント。よろしくのぉ、ヘレナちゃん」


 ヤーコブもにこりと笑みを浮かべて、ヘレナの頭をなでる。なでられてヘレナは嬉しそうだ。


「そういえば爺様、こんなところで何してたんだ?」


 オスカーが聞くとヤーコブ老は大きな欠伸を一つして、


「昼寝じゃよ」


 とあっさり答えた。


「はぁ? なんでまたこんなところで?」

「城の中よりもこっちの方が日当たりが良くてのぉ。わしの様な老いぼれがうたた寝するにはちょうど良いのじゃよ」


 そう言ってまた一つ大きな欠伸をした。


「それで、お前は何しにここに来た?」

「久々に帰ったもんだから、顔を見せとこうかと思ってな。皆元気か?」

「ああ。お前さんが連れてった奴ら以外は皆息災じゃ。目立った死人もここ最近でとらんでな。むしろ増える一方じゃ」


 言い終わった後でヤーコブ老はふぉっふぉっふぉっと笑った。


「なら良かった。どうだ爺様、俺の馬車にのって城まで戻るか?」

「そうじゃのぉ……よろしく頼む。最近足腰が悪くてな、行きはよいよいなんじゃが、帰りがまたなんともなぁ……」


 と言ってまたふぉっふぉっふぉっと笑い、馬車の方へ歩いていく。ヘレナもそれを追って馬車に向かい、オスカーがその後に続く。


「おお、シュバルツ。元気にしとったか? おぉ、よしよし」


 そう言ってヤーコブ老はシュバルツに近づき、甘えるシュバルツをわしゃわしゃと撫で回した後、「よろしく頼むぞぉ」と言ってヘレナと馬車に乗り込んだ。


「出発するぞー!」


 御者台に座ったオスカーが後ろに声をかける。


「おう! わしゃ大丈夫じゃ!」

「わたしも大丈夫!」


 二人の返事を聞いてオスカーはシュバルツに合図を出し、城へと向かったのだった。

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