冒険団
「ヘレナちゃん良く寝てるわ」
ヘレナの寝室の扉を少し開けて、アンナはそう言った。その視線の先にはベッドでカーバンクルのルドルフと一緒に眠るヘレナの姿があった。その手には先程オスカーに貰った精霊石の埋め込まれた腕輪が握られている。ヘレナの腕には少し大きすぎたようだ。
「ここ数日無理させたからな……可哀想な事をしたよ」
アンナの背後にあるリビングの椅子に座ったオスカーは申し訳なさそうに言った。
「でもヘレナちゃん凄く楽しそうだったわよ? お昼食べてるときも兄さんと一緒に冒険するのが一番楽しいって言ってた」
アンナはそう言いながらそっと寝室の扉を閉じて、オスカーに向かい合うように椅子に座った。そしてテーブルの上に置いてあった紅茶をすすった。
オスカーが帰ってきてから少し経った。オスカーが帰ってきたとき、ヘレナ達は既に昼御飯を食べ終わった後だった。
その後オスカーはヘレナと一緒に遊んだり、お風呂に入ったり、夕飯を共にしたりして今に至る。その間もマリアは帰ってこなかった。
「それにしてもあんなに良い精霊石、どこで手に入れたの? 腕輪の造りだって素朴な感じだけど良くみたらとても手の込んだ造りをしてるし」
「あー、あれな。良い腕輪だろ? 古い戦友から貰ったんだ。ヘレナがおっきくなってあの腕輪付けたらきっと似合う」
そう言ってオスカーは目を閉じて何度もうんうんと頷く。その表情はかなり緩んでいた。
「兄さんも親バカねぇ……もしかしてその人って荒野に咲く花の人?」
荒野に咲く花……まだオスカーがネードルスラントに住んでいた頃にグスタフらが冒険者達と設立した『冒険団』だ。初代総長は『ギルベアド・クルーガー』であり、現在はその役にグスタフが就いている。
オスカーはグスタフらと共にその創立メンバーとして立ち会っており、今ではアンナやアドルフもここに所属している。
冒険団とは、その名の通り冒険者達の集団の事で、パーティーよりも大きな集団の事を言う。言わば冒険者達の騎士団のようなものだ。その設立の際は、冒険者ギルドに届け出る事が必須となる。
「いや、魔王征伐のときの奴だ。亜人とかじゃない。世話になるかもだから場所教えといてやるよ」
「やった!」
オスカー達の設立した荒野に咲く花は、その全員が亜人や獣人、異民族との混血児で構成されている。彼らは社会的地位が低く、虐げられておりそれは現在に至っても解決してはいない。
そんな彼らを纏めあげ、冒険団として組織したギルベアドを信奉する団員も多い。今では裏切り者と言われている彼が設立したこの組織を危険視する者も少なからず居るが、多数派ではないのはやはりSランク冒険者のグスタフやアンナの活躍が大きいのだろう。総長となったグスタフは、そんな団員の「ギルベアド信仰」を否定も肯定もしないものの、それが原因で他者に危害を加える団員を追放したり制裁を加えるなどしている事も関係しているのかも知れない。
「そういえば俺も長らく顔出してないな……ヘレナもあいつらに会わせてやりたいし、外の寒さがマシな内にちょっと顔出すかなぁ」
「皆きっと驚くと思う! なんせ兄さんは死んだと思ってるんだから」
「そりゃ良い。あいつらの驚く顔が目に浮かぶぜ」
そう言ってオスカーは自分の紅茶を飲み干したのだった。
○
「――ってことでヘレナ、近い内にそこに行こうと思うんだけど、どうかな? 俺はいつでも大丈夫なんだが」
「なら今日いきたい!」
翌朝、オスカーは早速ヘレナにその話をした。ヘレナは目をキラキラさせて話を聞き、オスカーが言い終わる前にそう言い放った。
「疲れてないのか?」
「大丈夫!」
「ならわかった、今日行こう」
「やったー! アンナちゃんもくる?」
ヘレナは目をキラキラさせてアンナを見る。アンナは少し罪悪感を覚えながらも、
「ごめんねヘレナちゃん、さっきおばーちゃんから手紙が届いて、私呼ばれちゃったから今日はそっちに行かなきゃなの。ホントにごめんね」
と誠心誠意の謝罪をした。ヘレナもそれならしょうがないと納得した様子だ。
「今日はグスタフも帰ってくる予定だから、もしかしたら向こうで会えるかもな」
「やったー!」
「それじゃ朝ごはん食べたら早速出発だな!」
「うん!」
そう言って元気に返事をしたヘレナは、勢い良く朝食を食べ始めた。




