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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、帰郷する
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娘と楓

「おばーちゃんただいまー!」

「ただいまー。あれ? お母さん留守かしら?」


 アリオルストダムに続く家の勝手口から、ヘレナ達は帰ってきた。マリアは今家に居ないようだ。家の様子もオスカー達と共に灰の獣(グラウ)退治に行ったときのままといった感じだ。どうやらマリアはここ数日家を空けているらしかった。


「まぁ良いわ。それじゃヘレナちゃん、お昼作るからちょっと待っててね~」

「はーい!」


 アンナはそう言って、奥にある厨房に入っていった。それを見送ったあと、椅子に座って少しの間はルドルフと遊んでいたヘレナだったが、「あっ!」と何かを思いだし、席を立って、


「アンナちゃん! 私ちょっとお庭で遊んでくる!」


 と厨房に向かって声をかけた。


「はいはーい! ご飯出来たら呼ぶわねー!」


 ヘレナの声にアンナはそう返した。それを聞いてヘレナはルドルフを連れて家を飛び出し、庭の花園に繰り出した。



「えーっと、どこだったかなぁ……あ! あったあった!」


 その後、しばらく何かを探してキョロキョロしていたヘレナだったが、何かを見つけ、そちらに駆け寄る。それは、古い石の柱の様な物だった。かなり小さく、そして風化しかけており、見つけるのは至難の技だろう。


「ルドルフ、じゅんびはいい? 行くよ!」


 頭の上に居るルドルフに声をかけ、ヘレナは石の柱に触れた。すると、辺りが明るく光り、ヘレナを優しく包み込んだ。


 ヘレナが目を開けると一面に紅い楓の落ち葉が敷き詰められた林が広がった。ヘレナの前には一本の道が真っ直ぐに伸びている。まるで赤い絨毯の様だ。

 ヘレナはそれを迷い無く進んでいく。足取りは軽やかで、自然と鼻歌を歌っている。


「リアお姉ちゃん! ただいまー!」


 一本道をしばらく歩いたヘレナは、少し開けた場所に出る。円形に広場があり、その中心には立派な楓の木が一本、堂々と天に向かって伸びている。ヘレナはその木にむかってそう声をかけると、


「おー! ヘレナちゃん! おかえりなさい!」


 木の裏側からそう言った若い女性の声がした。そして、そのままその声の主は姿を現す。まるで楓の葉のように紅い髪は腰辺りまで伸び、少し癖がある。服装は絹のローブの様なものに身を包んでおり、履き物はなく、素足のままだ。瞳を見れば色は夏の楓の様な、緑色をしている。どうやらドリアードと呼ばれる木の精霊らしい。そんな彼女は、右手にやけに分厚い本を持っている。


「おっきくなったねぇ……それに、前よりもっと可愛くなっちゃってる! やっぱり素材が良いのかしらねぇ……流石ギルの娘ちゃんだわ」


 リアと呼ばれた女性はヘレナの周りをぐるぐると周り見、そんな感想を述べる。誉められたヘレナは嬉しそうだ。


「こっちにはいつ帰ってきてたの?」

「うーん……何日か前に帰ってきてたんだけど、いそがしくてなかなかこれなかったの」

「あら! こんな可愛い娘ちゃんに忙しい思いさせるなんて、あいつも罪な奴ねぇ……今度会ったらとっちめてやる!」

「あはは……」


 そうしてその後は他愛もない雑談を少しの間続けていたのだが、不意にリアがこんなことを聞いてきた。


「ギルは、お父さんは……最近どう?」


 そうやってヘレナに聞くリアの瞳は、少し不安の色が見てとれた。


「おとーさんは最近もすごいよ! この前なんか、一人で悪い人とかグラウをやっつけたんだから! そうそう、おとーさんって昔グラウの角を折ったこともあるんだって!」


 ヘレナはそんなリアの不安そうな様子に全く気づかず、いや、気づいているからこそ、とても明るく自身の父親について語る。


「そっか……ギルはそんなことしてたのか……」


 その話を聞いてリアは静かに瞼を閉じると、少し上を見上げる。その目尻は、光を受けて少し輝いていた。



「さて、それじゃヘレナちゃんに少し昔話をしてあげようじゃないか!」


 少し経ってリアはそう言って持っていた本を開ける。少し新しい物らしい。表紙には『エルフリーデ叙事詩』と書かれている。勇者一行の叙勲から出陣、度重なる勝利、王都エルフェブルク建設、そして勇者の半身の如く活躍した兄弟子ギルベアド・クルーガーの裏切りまでに立ち会った一行の吟遊詩人、アレッサンドロ・アリギエーリの記した本だ。


「やったー!」


 英雄譚が大好きなヘレナは大喜びでその場に座り、話を聞く態勢をとる。


「それじゃあ、今日は勇者エルフリーデ最後の戦い。反乱を起こしたギルベアド・クルーガーとの決戦、烏門の戦いについて語ろうか」


 そう言ってリアは、静かに語り出したのだった。





 大きな門だ。そして、豪華だ。門の一番上には大きな烏の紋章が印されており、烏門と呼ばれる理由となっている。空は暗く、月のない新月だ。だが、門の周りはやけに明るい。そして、門の外側では、二つの集団が睨み合っている。門から遠い方の集団は皆黒い外套を身に付けており数は千人程で、先頭にも黒い外套を纏った男が立っているが、門に近い方は統一感のない防具を着けておりその先頭には炎の様に赤く、長い髪で、白いマントを見にまとった可憐な少女が立っている。数はほぼ同数と見て良いだろう。


「ギル兄、皆」

「覚悟は決まった。エル、さらばだ」


 先頭に立つ二人が静かに言葉を交わす。鋭い視線は真っ直ぐ交わり、緊張が走る。


 しばらくその状態のままが続いている。

 両軍が持つかがり火がパチリと弾ける。その瞬間、先頭の二人は素早く剣を抜き互いに走り、迫る。

 カンと剣が当たり、火花が散る。その様子を見て他の両軍も互いに迫り、間も無く全軍で戦闘が始まった。

 来年もどうぞよろしくお願いいたします!

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