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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、帰郷する
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事後処理

「皆々、ご苦労だった。今回(灰の獣)を撃退出来たのも、皆が村に即席の砦を建設し、奴を捜索、誘導することでここに縛りつけ、ボレスワフ殿の到着まで耐え抜いてくれたことに他ならない」


 日が傾きかけ、空が赤く焼けてきた頃、会議の為に使っている大きな建物に集まってきた冒険者達に、エドヴァルドが代表者として彼らを激励する。


「我々『竜狩り部隊』とボレスワフ殿は、明日からも引き続きこの村に滞在し、避難した村人達への対応や砦の撤去、それともう一つ、行方知れずになったアルノルト隊の捜索を行う……それに先立ち、我々と共にここに滞在してくれる者を募りたい。 数はそんなに多く無くて良い」


 エドヴァルドは他の竜狩りや、ボレスワフと並んでそう言いながら辺りを見渡す。


「おとーさん、どうする?」


 オスカーの膝の上で話を聞いていたヘレナが聞く。


「うーん……ヘレナが良いなら俺は残るかな」

「ヘレナは大丈夫! ルドルフとシルフィード達と遊んでるから」


 そう言って、服のポケットの中から緑色の小さな水晶玉を取り出して満面の笑みでオスカーに見せる。


「そう言えばまだシルフィード持ってたのか……わかった! おいエドヴァルド! 俺は残るぞ!」


 ヘレナの賛成に後押しされ、オスカーは軽く手を上げて滞在の意思を表す。


「エドヴァルド! 俺達も残るぜ」

「兄さんとヘレナちゃんが残って、私達が戻っちゃ母さんに叱られちゃうからね」


 オスカーの宣言に続いて、グスタフとアンナも滞在を決定した。

 そうすると、彼らが滞在するならばと、他の冒険者達も次々に滞在を宣言する。しまいにはここの建物に集まった冒険者のうち、半数が滞在を決定したのだった。



「んで、てめぇも滞在することにしたのか」


 会議が終わり、皆が解散した後、オスカーは砦に登って念のための見張りを行っていた。日はかなり沈み、空は紫がかっている。そんなオスカーの隣に、一人の男が砦の外に背を向け、煙管(キセル)をふかせていた。足立である。


「そんなに嫌そうな顔しないで欲しいなぁ。こっちだって家に娘一人置いてきて心配なんだぜぇ?」

「心配なら帰れ」

「それは出来ないなぁ」

「何故だ?」

「死んだカミさんとの約束だからなぁ。『困ってる人の為に生きなさい』ってなぁ」

「そうか」


 それを最後に、会話はプツリと切れてしまった。しばらくそのままで二人とも別々の方向を向いて居たのだが、突然足立がムクリと立ち上がり、オスカーの隣に並び、


『情けは人の為ならず……かぁ』


 と言った。オスカーは最初何と言っているのか理解出来なかった。少しして、ようやく足立が東洋の言葉を喋っていると気付いた。オスカーは少し考えた後、


『東洋の格言か?』


 と同じ言語で返した。足立は驚いた様子でオスカーの方を見る。


『……驚いた。あんた、俺達の言葉を喋れたんだなぁ』

『母親が東洋から連れてこられた奴隷だった。まだ生きてた頃はよく東洋の様子や言葉を教わった。その母親が死んだ後、教会に預けられて、東洋に宣教師として行ってたとか言う神父からも同じように教わったよ』

『なるほど……。世間ってのは狭いもんだなぁ』


 そう言って足立は煙管を砦の柵で軽く数回叩き、中に入っていた塵を地面に捨てる。火は既に消えていた。


『あんたの母親、生まれは何処だか言ってなかったか?』

『覚えてない。だが、言葉が同じなんだから、生まれた国は同じなんだろうな。確か、瀛州(エイシュウ)だったか?』

『それは大陸にある大国、(ギン)の呼びだなぁ。俺達は日遥(ヒヨウ)と呼んでいる。昔の事を思えば美しい、良い国になった。松崎興邦(まつざきおきくに)公が各地で戦乱を繰り広げる諸侯を統一され、新しい将軍になられてからは、国に戦乱が無くなり、人々は戦に苦しむことは無くなったぁ』

『だが、お前みたいな戦が無いとやってられねぇ人間だっている。そんな奴らを諸国に派遣してるって事か』

『それを言われると返す言葉もねぇなぁ。確かにそうだ。戦しか能の無い俺みたいな輩を海外に輸出し、各地に日遥人の町を作って用心棒にしたり、傭兵として派遣したりとかなぁ。四、五年前だったか、東洋に一大勢力を築こうとしたイスパルの太陽艦隊を撃退だってしてたなぁ。今となっちゃ、懐かしいもんだなぁ』


 見張りをしながら、東洋の話題で盛り上がっていた二人だったが、そんなとき、オスカーの目線に一つの人影が見えた。


『おい、足立だったか? 人影が見えた』

『そりゃ大変だぁ。ここは任せときな。確認はあんたに任せたぁ』


 足立がそう言い終わる前に、オスカーは砦から飛び降り、外に出る。かなり足取りが重い。負傷しているようだ。近づくに連れて、様子が詳しく見えてきた。


「アルノルトか!?」


 オスカーはその正体に気付くや否や、駆け寄る。分厚い鎧ごと身体中を剣やら槍やらで刺し貫かれ、血を流しながらもここまでたどり着いたその体力は、まさに『不屈』の名に相応しいだろう。


「ギル……ベアド、団……長……」

「あまり喋るな。今、救護を呼んでやる」


 アルノルトに肩を貸し、上に居る足立に救護を呼ぶように声をかけようとするオスカーを、アルノルトは首を横に振って静止する。そして、


「法……皇でした……魔王じゃ、ない……頼……み…………た」


 と言い残し、崩れ落ちた。


「レイナウト! レイナウト!」


 オスカーがレイナウトを抱き寄せ、声をかけたものの、ついに目覚める事はなかった。




 ――翌日、正午頃


「レイナウト、お前の死は無駄にはしない。お前の無念は、魂は、俺達と共に……貴方の魂が、どうか天空の楽園へたどり着きます様に……」


 レイナウトの死の翌日早朝、残留している冒険者は、レイナウトの血を辿って森の中へと突き進み、そこに転がっている多くの死体を目にした。その殆どがレイナウト隊に所属していた冒険者達だったが、数名、謎の者達の死体が混ざっていた。エドヴァルド達は更に調査をした結果、近くに復活派の拠点を確認した。どうやら彼らは復活派と遭遇し、殺害されたらしい。

 魔物の仕業ではなく、復活派。それも大都市アリオルストダム近郊に拠点があるとわかった以上、ここからは軍の役割だ。エドヴァルド達竜狩りや、屈指の有力者ボレスワフ以外の冒険者は、ここから先には関わらない用にとの厳命をギルド本部から通信用水晶越しに伝えられた冒険者達は、続々と村を後にしていった。


「おとーさん、行こっか」

「あぁ、そうだな」


 レイナウトの死体は村の郊外に埋葬された。丁度土の魔法を使える者が居たので、他の冒険者の骸もすぐに埋葬が完了するだろう。

 オスカー達はレイナウトの墓を後にし、馬車に乗り込み、アリオルストダムに引き返して行ったのだった。

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