作戦開始
森の中は静まり返っている。鳥のさえずり一つ聞こえず、ただ冒険者達が歩く音のみが聞こえる。
「全く何の気配もしない……」
銃を抱えて先頭を歩くアルフォンスがそう呟く。先ほどの通信では、奴にもっとも近いのはこの隊だと言っていただけに、少し困惑している様子だ。
「まさか、ここにはもう居ない……」
「いや、多分それはない」
エリーゼの言葉にオスカーはそう返す。
「どうしてわかるんです?」
そう言ってエリーゼは聞き返す。
「うーむ……強いて言うなら、勘って奴だな」
オスカーは少し考えて、そう答える。だがエリーゼを始め、オスカーの事を少しでも知っている冒険者達は、このオスカーの『勘』が良く当たる事を知っていた。とりわけ、灰の獣の事に関しては……。もっとも、皆がその勘に頼って居るわけではない。現に捜索中、幾つもの目新しい灰の獣の爪痕などの痕跡が発見されていたからだ。彼らは、着実に灰の獣に近づいている。
「一旦停止……エリーゼ、オスカーさん。これって」
左手を挙げて冒険者達を停め、アルフォンスは二人を呼び、一本の大木を指差した。
「当たり……だな」
そこには一際大きな爪痕が残っていた。まだ新しい。つい数分前といった所だろうか。
「灰の獣発見! すぐそこだ!」
突然木の上から周囲を観察していた冒険者の一人がそう声を上げる。
「俺が奴を脅かしてこっちに誘導する。その後お前達が奴を挑発して村まで引っ張れ。俺は後ろから追い立てる」
「了解」
「はい」
オスカーはそう言って灰の獣の居るであろう茂みの向こうへと進んでいったのであった。
「居たな……」
茂みから顔を覗かせたオスカーは、まもなく開けた場所に灰の獣を発見した。小さな広場になっているそこで灰の獣は逃げ遅れたのであろう、うり坊を補食していた。
オスカーは丁度自分が来た方向と対角になる灰の獣の向こう側に陣取るために、音を立てないように広場を迂回していった。
その間灰の獣は周囲を全く警戒すること無く、うり坊を補食し終え、前足や口周りについた血を丁寧に拭っている。
「よし……」
オスカーは迂回し終え、拳銃に弾を込める。オスカーから見て灰の獣は頭を右に向け、横向きになっている。ここからなら、弱点の目を狙える。上手く狙えばもしかしたら目玉を一つ潰せるかも知れない。そう思いながらオスカーは銃口を灰の獣の右上の方の目に向け、引き金を引いた。
「グオォォォォオ!!!」
銃撃を受けた灰の獣はそう叫び、立ち上がる。銃弾は紙一重で目玉を外したらしい。オスカーは銃弾が目の上の皮膚に当たって地面に落ちていくのを目視で確認した。
灰の獣は銃撃された方向を睨み付ける。オスカーはゆっくりと立ち上がるるそして新たな銃弾を込めながら灰の獣の方へと歩みだしていく。その姿を見た灰の獣はゆっくりと後退り、忌々しげに唸ると、オスカーから逃れるように踵を返して走り去って行った。
「作戦成功……だな。流石は我が弟子だ」
灰の獣の後を追おうとしていたオスカーは、後ろから突如として声を掛けられた。男の声だ。
「誰が弟子だボレスワフ。第一俺は……」
「そんなことより、追わなくて良いのか?」
そう言われてオスカーは少し舌打ちをして、
「良いか? あんたはゆっくり来い。あんただけに旨い所を持ってかれたくねぇ」
「わかったわかった。弟子の成長を、優しく見守ってやるよ」
オスカーは声の主の言葉を聞かなかった事にして走り出す。その後ろ姿を見て男は
「それにしても、大きくなったなぁギルベアト。いや、オスカーか」
と声を漏らしたのだった。




