直前
「ねぇねぇおとーさん!」
会議が終わってすぐ、ヘレナが声をかけてきた。
「ん? どうした?」
「ボレスワフおじさんが来るってほんと?」
「ああ、残念ながらな……」
そう言って苦笑するオスカーを余所にヘレナは大喜びしている。
オスカーとボレスワフの関係は、まだオスカーがマリアと共に暮らしていた頃にまで遡る。その頃既にSランクだったボレスワフと、駆け出し冒険者のオスカーは、二人で度々クエストに行っては、実践練習と称してワイバーンなどの危険な魔物を相手し、その度に二人揃ってマリアに雷を落とされていた。一人前になった今では突然旅の途中に現れてはその都度お節介を焼き、去っていく嵐のような男として、オスカーは少し迷惑に思っているのだが、それでも心の奥では父親の様に尊敬している、偉大な人物だ。
「それじゃ、エドヴァルドの言うことを良く聞いていい子にして待ってるんだぞ?」
「うん! 行ってらっしゃーい!」
オスカーは見送る娘の声を背に、扉を開けたのだった。
「エリーゼ! 来たぞ!」
「オスカーさん! まだ全員集まってませんので大丈夫です!」
そう言って手を振るエリーゼの隣には、白いフードを深く被った若い男、『山猫』のアルフォンスが火縄銃を肩に掛け、寄り添う様に立っていた。
「ほらアルフ、この人が私の命の恩人のオスカーさん! 私にとってはお父さんみたいな存在よ!」
「竜狩りの父親なんて、恐縮だな」
そう笑う二人を見てアルフォンスはオスカーの方へ歩み寄り、
「お、お義父さん! 娘さんを俺にください!」
そう言って顔を赤くしながら、オスカーに頭を下げるアルフォンスに、
「ちょっ! アルフ何突然そんな……もぉー!」
と抗議の声をあげながらこちらも顔を赤くし、ポカスカとアルフォンスを叩くエリーゼと、自分の口走った言葉に後になって恥ずかしくなって固まるアルフォンスを見て、オスカーは少し微笑む。口下手だが、悪い男では無さそうだ。
「エリーゼ、良い人に出会ったな」
オスカーはそう言って祝福する。
「オスカーさん……!」
「でも、大切な娘をよく分からない男に渡すのは少し不安だな」
オスカーはニヤリと笑うと
「アルフォンス殿、その実力見させてください。」
「はい!」
オスカーの提案に、姿勢を正してそう返事をするアルフォンスと、少しもじもじしながら恥ずかしそうにするエリーゼ。オスカーはこの二人なら……と微笑ましくその姿を見守るのだった。
○
――ラゴタ村近郊、約二ローム(約五km)地点――
「ヘレナ、オスカー、待ってろよ」
そう言って、ボロボロになった袖の無い毛皮のコートと腰布を風にたなびかせ、両腕に魔方陣の刺青をした、魔族の男が岩山の上から飛び降り、駆け出していく。灰の獣との決戦は、近い。
次回こそ、決戦




