作戦会議 後編
「――もう行くの?」
「ああ、行ってくる。一刻も早く奴らを止めないと大変なことになるからな」
二人の男女が、小さな家の小さな玄関でそう言葉を交わす。どちらも髪は黒く、男の方は額に大きな角が生え、瞳は紅い。女の方は東洋人だろうか。オリーブ色の肌をしている。瞳はこの辺りでは珍しい黒色だ。
「そう……でも約束して? 必ず無事に帰ってくるって。無茶しないって」
そう言って心配そうな表情をした女は三歳ぐらいの、褐色肌で白い髪をした男の子の手を繋ぎ、もう片方の腕で一歳になるであろう黒髪で薄いオリーブ色をした赤ん坊を抱えている。
「ああ、約束する。こいつらが大きくなったときボロボロだったら笑われちまうもんな」
男は少し笑うと、二人の子どもの頭を撫でた。
「ちち、はやくかえってこい。やくそく」
褐色肌の男の子はそう言うと、小指を差し出した。東洋ではそうやって約束事をするらしい。
「ああ、なるべく早く帰ってくる。やくそくだ」
男はそう言ってしゃがみ、自分の小指を男の子の小指と結んで約束した後、ゆっくりと立ち上がると、
「それじゃ、手短に世界救ってくるわ!」
そう言って家族に笑い掛け、扉を開いたのだった。
○
エドヴァルドは一枚の紙を取り出し、机に広げる。
「これは、魔族語か」
魔族語――読んで字のごとく魔族が主に使用する言語だ。しかし、魔王征伐の影響で魔族語の使用を法皇庁に制限されたため、現在では魔王征伐に参加していた一部の人物を含めても、理解できる人間は限られている。オスカーは魔王征伐の時、魔族との交渉を担当していたため、これを読むのに別段支障はない。
「えーっと何々……」
オスカーが紙に書いてある文字を読もうとしていたその時、
「『暫し待て。我馳せ参じん』」
横から別の男が紙を声に出して読んだ。驚いてオスカーがそちらを見るとそこにいたのは、昨晩の東洋人だった。
「読めるのか? 東洋人のお前が何故?」
「前に魔族の人らに世話になったもんでねぇ。それより、ここのところ、何て書いてあるんですかぁ? 見たところ、差出人みたいですがぁ」
そう言って紙の端の方を指差す。そこには確かに何か名前のようなものが、サインのように流して書かれてある。
「どれどれ……げっ!」
それを読んだオスカーはつい驚いて声がでた。エドヴァルドはそれを見てニヤリと笑う。
「エドヴァルドてめぇ、知ってたな!」
「さぁ? 何のことやらさっぱりわからんな」
そう言ってオスカーの非難をエドヴァルドはかわす。
「んで、誰からの手紙だ?」
グスタフが催促するようにそうオスカーに聞く。
「『偉大なる特級ランク冒険者、ボレスワフ様』だとよ。あのおっさん、わざわざこんなところまで出張って来やがって……一発ぶん殴ってる!」
特級ランク冒険者、ボレスワフ。その名を聞いて他の冒険者達は、一人で何故かイライラしているオスカーを余所に、歓喜の声をあげた。
「あの『戦慄』のボレスワフが来たとなったら、灰の獣なんざこわかねぇ!」
「ああ! 今日が野郎の命日だ!」
そう言って喜ぶ冒険者達に、「ごほん」とエドヴァルドが咳払いをする。それを聞いて冒険者達は次第に静かに元の場所に戻り、エドヴァルドの話を待った。
「諸君が喜んで居るところ申し訳ないが、奴は今すぐ来るわけではない。奴が来るまでの間、我々は灰の獣を足止めしなくてはならない。これより部隊を五つに分ける。今この村にいる冒険者は増援も含めて百人と少し。部隊長は竜狩りの、『不屈』のアルノルト、『山猫』のアルフォンスと、『森薙』のグスタフ、『白雪姫』のアンナ。私、『隻眼』のエドヴァルドの部隊はここで各隊に司令を行う。『流星』のエリーゼはアルフォンスの部隊の副長を頼む。それぞれの配属はここにいる全員に渡した名簿に載せた。各自確認するよう、他の冒険者達にも伝えてくれ」
エドヴァルドはそう言って説明する。
「四部隊全てが結成次第、それぞれ四方に広がり、灰の獣を捜索。発見次第距離をとって通信用水晶で場所を報告。そのまま村に誘きだせ。その間他の部隊は隠れて灰の獣の退路を塞げ。村の防衛は私の部隊と最初に発見した部隊が行う。万一灰の獣が村から撤退する素振りを見せたら背後に隠れていた他の三部隊で行く手を塞げ。もし負傷者がでた場合は各隊に配属した回復魔法を使えるものが手当てをし、追い付かなければ一時撤退、裏から回って村へ入れ。その他問題は各部隊長が逐次対応。我が部隊も支援を行う。何か質問は?」
エドヴァルドの立案した作戦に冒険者達は無言の賛同をした。
「よろしい。それではこれより作戦に移る。各自散開!」
その号令に冒険者達は一挙に立ち上がり、建物を後にした。
次回、交戦




