作戦会議 前編
オスカー達が建物に入ってしばらくすると、続々と冒険者達が集まり始めた。中には先ほど増援として着いたであろう冒険者も見受けられた。
「それでは、作戦会議を始めようか」
十分人が集まった所で、竜狩り部隊の男の一人が話を始めた。左目に眼帯をした、壮年の男だ。『隻眼』のエドヴァルド。冒険者達の中でもかなり有名な男だ。魔王征伐のときも冒険者達で組織された三万の義勇軍を率いて各地で活躍、魔王との最後の決戦である『ヴィエルコ平原の戦い』では魔王軍に対し夜襲を仕掛け、勝利に貢献した。ケンブルクにいたゴットフリートとは古くからの戦友で、パーティーを組んでいた事もあった。
「それでは、俺から状況報告を」
グスタフが声をあげる。
「うむ、よろしく頼む」
「はい。それでは現在の状況を説明します。現状、我々は一度灰の獣と遭遇しました。しかし、遭遇後奴はすぐに森に引き返したため、直接戦闘にはなりませんでした。オスカー、今奴はどこにいる?」
グスタフがそうオスカーを呼ぶ。
「ちょっと待ってくれ。ヘレナ、わかるか?」
「うん! 任せて!」
そう言ってヘレナは前と同じように床にへたりこみ、瞳を閉じて手を胸の前で組んでまるで祈るような体勢になった。すぐに辺りは光に包まれ、床に置いていた物は浮かび上がり、ヘレナの回りには蛍のような光りが漂い始めた。その光景を見たことがない冒険者達は驚きの声をあげ、後ずさった。
「うーん……村からちょっと離れて、ぐるぐる村の回りを回ってるみたい」
しばらくすると、瞳を開けたヘレナがそう言いながら立ち上がった。浮かんでいた物はもとの場所に戻り、光りも消えていた。
「だそうだ。増援部隊は幸運だったな」
とオスカーは言って、「ありがとうヘレナ」とヘレナの頭の撫でる。ヘレナは嬉しそうだ。
「流石は『寵愛』持ち、だな」
「言うなエドヴァルド。今時寵愛持ちの冒険者なんて珍しくもないだろ」
エドヴァルドの言葉にオスカーはそう返す。
寵愛――場所や強さによっては加護や祝福と呼ばれることもある、一種の人智を越えた力だ。魔法とは違い、魔力によってその使用を制限されるわけでは無いことが多い。また、魔法と違って生まれつき使える者がほとんどで、血によっての継承もされない。その効果も千差万別で、多くの物がある。
「だが、こんな小娘の言葉を信用するってのか? 馬鹿馬鹿しい。寵愛だ? くだらん。あんなもの、デタラメに決まってるだろ? さっきのだって、魔法でなんとでもできる」
突然、一人の冒険者がそう言ってヘレナを馬鹿にした。
「あ? 今、なんつった?」
その言葉に反応したオスカーがスッと立ち上がり、グスタフにヘレナを任せる。グスタフは、「あんまりやりすぎんなよ」と忠告したが、果たして聞こえているのだろうか。
「だから、あんなもの嘘っぱちだって言ってんだよ。大体、『大烏』だかなんだか知らねぇが、あんたがたった一人であの灰の獣の角をへし折ったのだって信じらんねぇ話だ。嘘つきは遺伝するってな」
そうやってオスカーを挑発する男だったが、次の瞬間
「俺の娘を馬鹿にするんじゃねぇ!」
そう言って怒号をあげたオスカーの拳を見事に喰らって吹き飛んだ。
「……いってぇ……何しやがる!」
男が立ち上がろうとすると、オスカーは馬乗りになって剣を抜き、切っ先を眉間に突きつける。
「次同じことを言ってみろ、お前の頭を真っ二つに叩き割ってやる」
その声音には明らかな殺意が籠っていた。
言い終わるとオスカーは立ち上がり、剣を鞘に納めるとヘレナを抱き上げて、自分の座っていた席に戻った。しかし……
「おとーさん! 喧嘩しちゃダメでしょ!」
ヘレナに怒られてしまった。
「ごめんって、次から気を付けるから……」
「なら良いけど、おとーさん? ヘレナのために怒ってくれたのは嬉しいけど、次喧嘩したらおとーさんのこと嫌いになるからね?」
「それは困る! もう喧嘩しない! 約束する!」
オスカーはそう言ってヘレナに誓ったのだった。その先ほどまでの殺気とは打って変わったほのぼのとした雰囲気に、普段のオスカーを知らない冒険者達は、ただ困惑するばかりだった。
「この子の力については私を始め、ここにいる『竜狩り部隊』の全員が保証しよう」
「『森薙』のグスタフと、俺たちのパーティーも保証する」
そう言って、エドヴァルドやグスタフ達が声をあげる。もはや異議を唱えるものなど、居なかった。
「さて、落ち着いた所でそろそろ本題の方にいこうか」
エドヴァルドはそう言うと一枚の紙を取り出した。




