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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、帰郷する
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灰の獣(グラウ)

 ――翌朝、総督府前の噴水広場……


 まだ朝靄が晴れない早朝だと言うのに、噴水広場には多くの冒険者達が集まっている。その数は五十から六十名。徒歩の者も居れば、自前で馬を連れている者、オスカー達の様に馬車ごと広場に乗り入れている者もいる。そして、ここにいるその多くの冒険者達はみな最低でもAランク――つまりは実力者達のみであった。勿論この場にはグスタフやアドルフ、そしてアンナやオスカーも居る。それもそのはず、今回彼らが召集された理由が理由である。



 ――灰の獣(グラウ)現る。その一報が冒険者ギルドに届けられたのは、昨日の夜中ごろであった。

 冒険者達にとって灰の獣とは、かつての魔王に匹敵するような、言わば宿敵のような存在である。手当たり次第に近隣の村や町を襲い、絶大な被害を及ぼしてはまた次の所へと向かっていく。何年も前からギルドや各国が対策を施してはいるが、それをものの見事に打ち破り、灰の獣が現れた場所には草木一本残らないとさえ言われるほどの被害を出すため、魔王征伐後の疲弊した国々にとっても、そこに暮らす民にとっても害悪以外の何者でもないのだ。



「皆さん! 刻限ですので、移動を開始致します! 目的地はここより南西へ三ローム(約十km)先のラゴタ村です! 先導はSランク『白雪姫』アンナ殿です!」


 ギルドの代表者らしき男がそう声を上げる。それに応え冒険者達は続々と広場から大通りを通って門を出、ラゴタ村へと向かう。


「おい、オスカー! 俺達は同じグループだ。一緒に行こうや」


 馬車に乗ったグスタフがオスカーにそう話しかける。グスタフ達は使節団の護衛の打ち合わせより、こちらを優先させたようだ。どうやら国も東洋からの使節を迎え入れる前にこの問題を解決させておきたいらしい。


「兄さん! それじゃ先に行って待ってるわ!」

「おう! 向こうで会おう!」


 そう言って河鹿にのったアンナは冒険者達の先導をするために一足先に広場を出て行った。


「おとーさん! そろそろだよ!」


 馬車の中からヘレナが顔を出し、そう言う。


「おっと、それじゃ行くか!」

「おう!」

「おー!」


 そう言ってオスカー達はそれぞれの馬に合図を出し、町を出ていったのであった。





「そういや俺思ったんすけど」


 グスタフの馬車に乗っているアドルフが突然オスカーにそう話を切り出した。


「ヘレナちゃん、危なくないんすか? 普通の依頼ならいざ知らず、今回はあの灰の獣が相手っすよ?」


 アドルフの心配は至極もっともだった。魔物と対峙するのに、弱冠十歳の少女を連れていくのははあまりにも危険すぎる。それも相手は各国が何年も対策を取りつづけてもかなわない魔物だ。だがその問いにオスカーとグスタフは、何故か少し自慢げにフッと鼻で笑い、こう答えた。


「まぁ、普通ならそう思うわな」


 とグスタフが。そしてそれに合わせるようにオスカーが、


「ああ。ヘレナは特別なんだ。特に、今回みたいなときにはな」


 と答える。


「そう! ヘレナは特別なの!」


 そう言ってヘレナも御者台に居るオスカーの隣に座りながら、自慢げに胸を張る。頭の上にいるルドルフも主人にならって胸を張っている。


「特別って、どう特別なんすか?」


 アドルフは少し不安そうにそう訪ねる。ベテラン冒険者二人のお墨付きがあっても、やはり心配なのだろう。オスカーはそんな優しさに心の中で感謝をしながら、


「まぁ、そのうちわかるさ」


 と答え、鞄の中から干し肉を取り出しヘレナに手渡す。


「ルドルフ、はい!」


 ヘレナはそう言って干し肉をちぎってルドルフに渡し、二人で食べ始めた。






 しばらく道なりに進み、一行は目的地のラゴタ村に到着した。この村の近くで昨日、灰の獣が目撃された。依頼のために近くに滞在していた複数の冒険者からも目撃情報が寄せられたので、恐らく事実であろう。しかし到着した冒険者達は、灰の獣に襲撃された村としては被害が予想以上に少ないことに、驚いた。


「何でこんなに被害が少ないんすかね?やっぱりギルドの情報伝達速度が早かったからなんすかね?」

「さぁな。ただ、被害が出る前に対応出来たのは良かった」

「そんだけ灰の獣退治にギルドも本気だって事っすかね」


 事実、発見から冒険者の派遣まで十三時間弱程しかかかっていない。ギルドでは緊急時、発見から初動までの時間を二十四時間以内と定めていることを鑑みると、これはかなり早い。


「兄さん! 居た居た!」


 村に到着した一行に、先着していたアンナも合流する。


「よし、これで皆そろったな」

 

 オスカーはそう言ってヘレナの方を見る。


「それじゃヘレナ、一つ頼んだ」

「うん! 任せて!」


 そう言ってヘレナはルドルフをオスカーに預け、祈りを捧げるように手を組むと、その場にへたり込み、目を瞑った。


「兄さん、ヘレナちゃん何してるの?」

「オスカーさん、おしえてくださいっす」


 アンナとアドルフがそう聞くが、オスカーは自分の口の前にに人差し指を立てて、「黙ってみてろ」と合図を出す。


 異変はすぐに現れた。ヘレナの近くに落ちている木の葉や石ころが宙に浮かび始めたのだ。そして更には何処からともなく蛍のような光りが辺りを漂い始めた。その光景に、アンナとアドルフだけでなく他の冒険者達も呆気に取られている。



 しかし、その状態は長く続かなかった。突然光りが消え、石ころ達が地面に落ちるとヘレナはパッと目を開けるといきなり立ち上がり、


「おとーさん、西から来る! すぐに!」


 とヘレナが叫ぶ。その顔には普段とは違った険しい表情を浮かべている。

 オスカーは「わかった!」と言うと、ヘレナを馬車にのせ、ルドルフを返すと、村の西へと走って行った。その後をグスタフが即座に追い、遅れてアンナ達もそれに追従する。グスタフ達Sランク冒険者のその姿をみていた他の冒険者達の一部もそれにならって西に向かっていった。



「オスカー! 奴さんかなり近いぞ!」


 グスタフが叫ぶ。どうやらグスタフの耳でも動きを捉えたらしい。


「この当たりからだな」


 グスタフが立ち止まりそう言う。オスカーも銃に弾を込め、グスタフの所へ向かう。その後続々と冒険者達が集まり、グスタフの指示で体勢を整え始めた。


「来るぞ!」


 体勢を整え終わらない間に、突然グスタフが叫ぶ。その直後、灰の獣は森の奥からまるでこの世の王者かのごとく、堂々とその姿を現したのだった。

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