市場(画像有)
アンナ達と別れた後、オスカーとヘレナは少し早い昼食をとる事にした。アリオルストダムはアリオ川とルスト川の二本の河川が海に向かって流れ、その二つの川に挟まれるような形で都市が発達している。そのため美しい海や川を望みながら、名物の魚料理を食べることを売りにしている料理屋や宿も多い。今オスカー達が居る料理店、白猫の尻尾亭もその一つだ。この店は元々オスカーがアリオルストダムを拠点にしていたときの行きつけの店で、店主とも顔馴染みだ。
「どうだヘレナ、旨いか?」
「うん! 美味しい!」
オスカー達はその店でも海と川を一望出来る一番良いテラス席を取り、食事をとっていた。この店名物の白身魚のグラタンの旨そうな香りと、海風の匂いが混ざり、オスカーは少し懐かしくなった。
「今日はこの後、市場にでも行こうか。この前買えなかった分も何か買おう」
「ほんと! やったー!」
そう言って食べるスピードを早めるヘレナだったが、
「ん!? んー!? んー!?」
どうやら喉に詰まらせたらしい
「あー、ほら水飲め、水。あんまり急いで食べるからだ」
「ぷはぁー。あー、苦しかった」
「もっと落ち着いて食おうな。市場は逃げやしないんだから」
「うん!」
そう言ってまたスプーンを進めるヘレナと、もう食べ終わってヘレナの食べる姿を見守るオスカーの二人は一時の幸せを享受していた。
もちろん、その姿を遠目で見る黒衣の男の姿には気づくことなど無かったのだった。
○
オスカー達は食事を終えた後、港近くの市場に訪れた。各地との貿易や、新大陸南部・東洋の植民地との交易で日々莫大な利益を得るネードルスラントの象徴とも言える場所である。
市場には様々な物が売ってある。植民地で採れる香辛料や宝石類、珍しい植物の苗、果ては動物や奴隷など数えればきりがない。そんな市場を見ながらヘレナはあれもほしいでもこれもほしいと、頭を抱えながら悩んでいる。そんなとき、
「こらー! 待てー!」
市場の奥からそんな声が聞こえてくる。その声は段々こちらに向かって来るようだ。
「待てー! 止まれー!」
すぐ近くまで声が聞こえてきた。オスカー達はそちらを見ると、そこには商人らしき男に追いかけられている、小さなサルのような動物がいた。リスのような大きさと毛皮をもち、長い尻尾と額にはルビーのような赤い宝石のような物を持っている。どうやら、カーバンクルという新大陸の動物らしい。昔、マリアが大きな図鑑を開き、そう教えてくれた事をオスカーは思い出した。
「あ、そこの黒マントの方! そいつを捕まえてください!」
商人はオスカーにそう言う。
「よーし、任せとけ! 冒険者の力見せてやる!」
そう言って、上から捕まえようと手を伸ばすが、
「キシャー!」
「よーし、捕まえ……ってうわっ!」
ものの見事にかわされ、頭を踏み台にしてカーバンクルは駆け出す。そして、
「うわっ! え? 何々?」
ヘレナに飛び付き、その肩に乗りこちらを威嚇した。
「ヘレナ! 大丈夫か!」
「お嬢ちゃん大丈夫か!」
オスカーと商人がカーバンクルに飛び付かれたヘレナを見ると、
「うわー、なにこの子! 可愛いー!」
「え?」
「え?」
ヘレナに肩から外され、手のひらにのせられ撫で回されているカーバンクルの姿があった。
「おとーさん! 私この子欲しい!」
ヘレナが満面の笑みでオスカーの方を向く。ヘレナの手のひらにのせられているカーバンクルはどうやら既にヘレナに懐いてしまったようだ。手のひらから肩の上に上り、そしてヘレナの頭の上に乗り、遂にそこに座り込んでしまった。
「……わかった、しっかり面倒見るんだぞ?」
「うん! ヘレナちゃんとお世話する!」
結局、オスカーは商人と交渉し最終的には金貨三枚でこのカーバンクルを譲り受けた。後にこのカーバンクルは、「ルドルフ」と名付けられ、共に旅をすることになるのであった……
○
――その夜、アリオルストダム郊外のとある村にて……
「逃げろー!」
そう一人の村人が叫ぶ。
「こっちだ! 走れ!」
また別の村人がそう叫ぶ。他の村人はその声に従っててんでばらばらに逃げていく。そんな中、一人の男が後ろを振り返る。するとそこには、岩山から村を見下ろす、大きな獣がいた。その獣は四つの深紅の瞳を持ち、紫水晶のような長い二本一対の角を持ち、灰色の毛皮をもった、大きな虎のような姿をしている。
「あれが……灰の獣……」
男はしばらく経ってようやくそう一言呟いた。
この挿絵は友人に描いて貰いました。




