幕間 新しき賢者と黒衣の男、その一
今回は番外編です!良ければお楽しみください!
「ギルベアド、本当にそれで良いのか?何もキミが汚名を被る必要は……」
巨大な城の廊下に、話し声が響く。二人の男の声だ。片方は丸い眼鏡をかけた若い男だ。女性のように透き通った美しい肌で、体の線もまた女性のように細く、袖のついた深緑のローブを纏っている。頭にはローブと同じ色をした円錐形の帽子を被り、そこから美しい金色の髪が見えている。そして右肩には炎のように鮮やかな紅い鷹の様な非常に珍しい精霊獣――フェニックスをのせている。そしてもう片方は城の外に広がる夜の闇の様な黒衣を纏った男だ。
廊下の奥の大きな広間ではどうやら酒盛りをしているらしい。広間の喧騒が扉の隙間を抜け廊下まで聞こえてくる。二人の話し声など、聞こえはしないだろう。
「俺が汚名を被る事に意味がある。勇者エルフリーデが勇者に叙勲される前から共に剣技を高め合った、同じ師を仰いだ、常に隣にいた、兄妹の様に過ごした俺が全ての汚名を被り、裏切り者としてここを、エルフェブルクを去る事に……な」
黒衣の男はローブの男にそう返す。
「そんなのって……あんまりじゃないか! 人一倍努力して、人一倍敵を斬って、人一倍民を守って、人一倍平和を望んで、人一倍あの娘を助けたキミに与えられるものが裏切り者として始末されることなんて、あんまりじゃないか!」
ローブの男はそう叫ぶ。目尻には涙が浮かんでいる。
「……ありがとうカール。お前の様な良い奴が俺たちの仲間で居てくれて本当に良かった。俺なら大丈夫だ。本当に始末される訳じゃないし、幸いにも俺と運命を共にするつもりの大馬鹿者達が千人も集まって来てくれた。俺は恵まれてる。俺の新しい目的の為に、汚名を共に被ってくれる仲間が居るんだ。だから俺は、大丈夫だ」
黒衣の男はそう言ってローブの男の肩に手を置き笑って見せる。
「そうだカール。お前にいっこ良いもん見せてやるよ。俺の秘密だ。こいつを知ってるのはエルフリーデと、師匠と、俺の身内だけだ」
そう言って黒衣の男はフードを取り、前髪を後ろへとかき上げる。するとそこには……
「それってもしかして……」
「あぁ、魔族が額にもつ角と同じもんだ。もっとも、純粋な魔族の角ほど大きくは無いけどな。見たこともない、俺の父親から受け継いだ物だ」
黒衣の男の額には、小指の先程度の小さな尖った角が二本生えていた。形状は、子羊の角の様にも見える。
「この事は男の秘密だ。恥ずかしいから誰にも言わんでくれな?」
そう言うと、黒衣の男は踵を返し、ローブの男から離れて行く。
「それじゃ、明日は一つ宜しく頼むぜ友よ!」
しばらく歩んで男は振り返り、ローブの男にそう一言返した。
「あっ! ギルベアド待ってくれ! 僕は、僕はキミの事が……!」
ローブの男はそう引き留める。黒衣の男は一瞬立ち止まったが、ふたたび歩みだし、それきり二度と振り返らず闇の中へと彼は消えていった。それが、『新しき賢者』カール・フォン・シュタインが後に世紀の裏切り者として歴史に名を刻む男、ギルベアド・クルーガーをまともに見た最後の姿である。
今後もこのような幕間の話を幾つかあげていければと思っていますので、どうか宜しくおねがいします!




