相棒
早朝の澄んだ空気が、辺りに広がっている。初秋とは言え少し肌寒さを感じる気温だった。空はまだ霞んでいる。
総督府こと、通称『栄光の宮殿』前の大噴水広場は普段ならば早朝とは言え大勢の冒険者達などで賑わっている筈だが、不思議とこの日は宮殿前の守衛以外には黒衣を着た若い男と、兎人族の男と、黒衣の男が連れている幼い子供の三人に、各々の馬とそれが曳く馬車だけがそこに居た。
「オスカー、もう行くのか?」
兎人族の男が黒衣の男に話しかける。
「ああ。冬になる前にネードルスラントを出ておきたいからな」
黒衣の男はそう返す。
「そうか……お前はともかく、ヘレナが居なくなると寂しくなるな」
「グスタフおじさん、ヘレナとはなれるのさびしい?」
黒衣の男が連れている子供が兎人族の男にそう聞く。声音からしてどうやら女の子のようだ。
「おう、すっごく寂しいぞ。でもな、二度と会えないって訳じゃ無い。またいつかきっと会えるから、その日が来ると信じてるから、寂しいけど頑張れる。だからヘレナも、頑張るんだぞ?」
そう言って兎人族の男は少女の頭を撫でる。
「うん! ヘレナがんばる!」
「よし、いい子だ」
兎人族の男は少女を抱き上げると、黒衣の男に渡す。
「三年だ。三年後、ここで再会しよう。だから、死ぬな」
兎人族の男は黒衣の男に向かって拳を向ける。
「おう。お前も達者でな。三年後の再会を楽しみにしてる」
黒衣の男も兎人族の男の向けた拳に合わせるように拳を突き出す。パチンと音が鳴る。
黒衣の男達が乗った馬車は走り出す。兎人族の男はそれをあえて見ずに、自らの馬車に乗り込み、彼らとは全く逆の方へと馬車を走らせる。再び会うその日が来ると信じて……。
○
「グスタフおじさーん!」
ヘレナはそう大きな声を出しながら、グスタフに向かって一直線に駆け出し、その大きな丸い尻尾に飛び付いた。
「うわっ! え? ヘレナ? え? 本物か?」
グスタフは激しく動揺している。
「うん! 本物だよ! 久し振り、グスタフおじさん!」
「お、おう! 久し振りだな、ヘレナ。元気だったか?」
「うん! おじさんも元気だった?」
「おう、勿論!」
二人が再会を喜び合っていると、
「グスタフさん、その子誰っすか? もしかして、隠し子?」
先ほどまでグスタフと話していた男が声をかけてきた。茶髪に犬の耳を生やしている。彼も獣人なのだろう。
「なわけねぇだろアドルフ。前に組んでた相棒の子だよ。そういやヘレナ、オスカーはどこ行った?」
「ここだグスタフ!」
そう言ってオスカーは手を振りながらアンナと二人でグスタフ達に歩み寄る。
「オスカー! 久し振りだな!」
「ああ! 三年ぶりだな! 元気してたか?」
「あたぼうよ!」
そう言って二人は拳を突き合わせ、そして握手をした。
「にしてもさっきの驚き様、いやぁ~傑作だったな! この三年間で四番目に笑ったよ!」
再会早々オスカーはそう言ってグスタフを笑った。
「てめぇ見てやがったのか! フッまぁ良いさ。それより俺はお前からなんの音沙汰も無いもんだからてっきり旅の途中で野垂れ死んだもんだとばかり思ってたが、良く生きてたな!」
グスタフは意趣返しとばかりに嫌味をぶつけ、握る力を強める。
「生憎悪運が強いことだけが取り柄なもんでね!」
オスカーも応戦し、負けじと握る力をさらに強める。そうした応酬がしばらく続き、
「へへ、そろそろ降参したらどうだオスカー」
「そっちこそ、とっとと降参するのが身のためだぜグスタフ」
「……アンナさん、なにやってんすかあの人達」
「さぁ? ヘレナちゃん、あんなのに似ちゃだめよ?」
「はーい!」
漢達の(不毛な)争いは、その後いい加減呆れたアンナが止めに入るまで続いたのだった……。




