表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、勇者の国へ
106/176

六年後の約束

「ギルー、エルー、腹減ったろ? グラタン焼いたから食おう!」


 汗をかきながら剣の鍛練をする二人の子供に、そう言って一人の人物が近づく。長い黒髪を腰の辺りで結んだ、隻眼の人物だ。中性的な見た目と服装のお陰か、見ただけでは性別がわからない。


「グラタン!? 食べるー!」

「おっしゃー! 師匠、愛してるぜ!」

「私も愛してるぞー! ほら、手を洗ってきなさい」


 長髪の人物はそう言って笑うと、練習用の剣を受け取って手洗いを促す。

 子供達は疲れも忘れて勢いよく井戸に向かって駆け抜けていった。


 そんな子供達の背を見て、その人物ヴィルヘルム・レーム――否、ウィルヘルミナ・レームは優しく微笑み、直後に少し咳き込んだ。口を押さえた手には僅かに血が付いている。


「どこまで、行けるかな……」


 ウィルヘルミナはそう言って寂しげな笑みを浮かべると、


「よーし! 私も混ぜろー!」


 と言って、二人の方へ駆けていった。


 これが、勇者の師であり自らをヴィルヘルム()と称し続け、弟子達にすら明かさなかった稀代の剣豪の姿である……









 まだ朝もやがかかる早朝、オスカーは既に起きていたヘレナと共に、宮殿から少し離れた墓地に訪れた。

 二人の目の前には多くの墓標の中でも、特別大きく立派な墓が立っていた。

 オスカーはそこに、持ってきていた花束を供え、しゃがみこむ。


「師匠。遅くなっちまったけど、ただいま。この子は娘のヘレナ。俺に似ずに、素直ないい子に育ってくれた」


 オスカーは笑って、墓標に話しかける。


「おとーさんのししょう?」


 隣のヘレナが、そうオスカーに聞く。


「そう、師匠。父親みたいな人だった」

「なら、おじーちゃん?」

「ヘレナからしたら、そうなるかもな……でも、あんたが爺さんか。笑えるな」


 オスカーはそう言って微笑む。


 オスカーとエルフリーデは、同じ師を仰ぎ鍛練を積んだ。今の彼らがあるのは、この師の教えのお陰だろう。

 誰よりも酒と笑い話を好み、金に困っている者を見ると、自分も金がないのにそっと握らせてやるような、とびきり愉快で優しい人だった。

 剣の実力は超一流で、片目を失っているにも関わらず、その死角からいくら素早く踏み込もうと、返り討ちにあった。オスカーとエルフリーデは、一生かかってもこの師から一本取る事は出来なかった。



 オスカーはその後ちょっとした現状報告をすると、ゆっくりと立ち上がり、墓標に別れを告げる。


「それじゃ師匠、そろそろ行くわ。次もし帰ってこられたら、そんときは長々話そうや」


 オスカーはそう言ってヘレナを連れて踵を返すと、宮殿へと戻っていった。









 オスカー達の出発には、目立たぬよう殆ど誰も立ち会うことはなかった。

 ただし、ヘートヴィヒとレジーナだけは、二人の出立を見送ってくれた。


「ヘレナちゃん、気を付けてね? 本当に、本当に……」

「ヘートヴィヒちゃん……だいじょーぶ! また今度会ったときに、いっしょにけんのおけいこしよ?」

「うん!」


 ヘートヴィヒはそう言ってヘレナを抱き締める。


「ヘレナちゃん。私や勇者様は、尋ね人保護の連絡を受け次第、ローシェンに行くから、そこでまた会えるはずだから……無事に帰ってきてね?」

「うん! あ、ローシェンで落ち合えたら、レジーナちゃんが行ってた王子さまがどんな人か、会ってみたいの! 良いかな?」

「もちろん! きっと喜ぶと思う!」

「やったー!」


 ヘレナはそう言って、レジーナも巻き込んで三人で抱き合う。


「私たち三人、きっとまた会えるよね?」


 ヘレナが問う。


「もちろんよ!」


 ヘートヴィヒが答える。目尻には涙が浮かんでいる。


「だって私達、お友達だもの! きっとまた会えるよ!」


 レジーナも、ヘートヴィヒに続いて答える。その目は涙で潤んでいる。


「それじゃ、約束! 六年後、また三人でこうやって会おう!」


 レジーナが提案する。


「うん!」

「でも、どうして六年後なの?」


 ヘートヴィヒが聞く。


「十六歳になったら、冒険者のクラスが無制限解禁になるの。ヘレナちゃんなら、その頃にはもう超一流になってるはず」


 レジーナが、ヘートヴィヒの問いに答える。


「それじゃ六年後!」

「またここで!」

「三人一緒に会いましょう!」


 三人はそう言って互いを強く抱き締めると、その輪を解いた。ヘレナは、目尻に浮かぶ涙を拭って笑顔を作ると、一目散にオスカーに向かって駆ける。


「もうお別れは――」

「お別れじゃないよ! 次会う約束!」


 ヘレナはオスカーの言葉を、そう力強く遮る。一瞬驚いたオスカーは、優しく微笑むとこう言った。


「……そうか。もう約束は終わったのか?」

「うん! もう大丈夫!」

「なら、行こうか」

「うん!」


 二人は馬車に乗り込む。

 ヘレナは荷台から後ろの二人に思い切り手を振る。

 馬車は動き出す。

 ヘレナは、二人の姿が見えなくなるそのときまで、絶えず手を振り続けていた。

これにてシュバルツブルク・北方諸国編は終了!次回からは『オリエントの皇子と灰の獣編』となります! いよいよ前半戦も大詰めとなって参りました! これからもどうぞ、よろしく御願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ