勇者の城下町
翌日、オスカーとヘレナは旅の物資を買うのも兼ねて町に出た。ヘートヴィヒ達も誘ったのだが、政務やら外交やらでどうも来られないようで、父娘二人で出ることになった。
「いろんな人がいるねー!」
そう言って、オスカーと手を繋ぐヘレナが辺りを見渡す。
「エルの政策のお陰で、この国じゃどんな見た目でも、宗教でも、平等だからな」
オスカーも、そう言ってヘレナと歩く。
エルフリーデが、ノイケーニヒクライヒ王国を建国した当初、魔王征伐の影響でこの地には広大な荒れ地が広がっていた。人々は争いを避けて難民となり、かつてあった数ヵ国の国々の遺構は、甦らせることが困難なほど破壊された。
そんな荒れ地を復活させようとエルフリーデが考えたのが、『平等法』だ。この国内では人種、宗教、宗派、産まれた身分に至るまで、全ての人間が法と、勇者王エルフリーデの下に平等であり、それを侵すことは出来ない。荒れ地の開墾に貢献したものは、どんな見た目であれ一定の税を納めればその地を与えられ、どんな宗教であれ人々のために尽くせば国から恩賞が出る。行政機構の改善に貢献すれば官吏や大臣にもなれ、その人望が人々に認められれば領主や一代貴族にもなれる。各地から貧民や差別された人々、エルフリーデを慕う者達がこの大地に現れ、荒れ地を開墾し、法を作り、都市を再建した。この平等法のお陰で、ノイケーニヒクライヒは僅か十年で飛躍的な成長を遂げた。今やその王都エルフェブルクは、誰もが羨む大都市になった。
「おとーさん、あれは?」
ヘレナがそう言って指差す。そこには大きな銅像が立っていた。
オスカー達は今、宮殿と烏門を真っ直ぐにつなぐ大通りの丁度中央にある広場にいる。円形の広場は、北に宮殿、南に烏門をそれぞれ望み、東西には住宅街や、大通りに収まりきらなかった店達が所狭しと立ち並ぶ。その広場の中央に、一際目立つ銅像が立っていた。
「勇者像だな。魔王を倒して、町の外の丘からこの町を見下ろしたときの姿をかたどってるらしい」
オスカーはそう言ってヘレナと共に銅像の前まで来る。
銅像は、複数の人間をかたどった物であり、旗と剣を持ったエルフリーデを前にして、他の人間がV字にその後ろに立つ。南を向いた銅像は常に陽光を浴び、輝いている。そしてそのV字の中に、一人の男が座り込んでいる。エルフリーデに背を向け座り込むローブに身を纏ったその銅像は、他の人間に遮られて光が決して当たらない作りになっている。
「あの人だけ、太陽の光が当たってないね。なんで?」
ヘレナは、そう言って後ろの男を指差して首をかしげる。オスカーは少し苦笑して、
「彫刻家か、発注した奴がかなりのお節介だったんだろうな……」
と言って、空いている方の手で頭を掻いた。
「本当に……お節介な奴だ……」
オスカーは、ヘレナに聞こえないような小声でそう呟くと、宮殿の方をちらりと見、その場を後にした。
○
「だいぶ遅くなっちゃったな」
オスカー達が買い出しを終える頃には、空から日は沈み、変わりに月が姿を現していた。
「だねー。出発は明日なんでしょ?」
「ああ。早く行かないと、間に合わなくなっちゃ困るからな」
「うん。ねぇねぇ、東ローションの王子さまって、どんな人かな?」
ヘレナはそう言ってキラキラした目で見つめる。
「さぁ? 会ってみないと、わからないなぁ」
「お友達になれるかなぁ?」
オスカーは、少しだけ不安そうな顔をするヘレナの頭を優しく撫で、こう言った。
「大丈夫。きっと良い友達になれるさ。だって、ヘレナだからな」
「ほんとに?」
「もちろん! ヘレナは俺の、可愛い娘だからなぁー!」
そう言ってオスカーは、勢いよくヘレナを抱き上げ、肩車をする。
「おっ、ヘレナもがっちりしてきたな! お父さんちょっとだけしんどいかもだぞ?」
「もしかして……重い?」
「まさか! まだまだヘレナは軽いぞー! それー!」
オスカーは、心配するヘレナを肩車したまま思い切り大通りを駆け抜ける。賑やかさの落ち着いてきた大通りに、二人の父娘の、幸せそうなはしゃぎ声が響き渡った。
明日は遂に出立の日。向かうは異教徒の国ターコニアス。二人の不安は、自分達のはしゃぎ声にかき消された。




