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大烏~カラスと娘と旅する世界~  作者: かんひこ
カラス父娘、勇者の国へ
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会議は踊らず、故に進む

 コンコンと、扉を叩く音がする。


「陛下、会談のお時間です。円卓の間までお出ましください」


 扉の向こうから、エルフリーデの部下の声がする。

 エルフリーデは、「わかった」と一言声をかけ、席を立つ。


「ギル兄、いかなくちゃね……」

「だな……皆を待たせる訳にはいかない」


 エルフリーデに遅れてオスカーも席を立ち、二人は部屋を後にした。









 円卓の間には、既に二人の男と、ヘートヴィヒが席に座って待っていた。二人はどうやら最後らしい。


「お、陰陽二対の勇者様のご登場か。こいつは縁起が良い」


 一人の男が、そう声を出す。金髪を角刈りにした、右目に大きな傷を持つ男――フェルマーレン王国第六王子、シャルル・ド・パトリウス・サノワだ。歳はフリードリヒと同じぐらいに見える。魔王征伐では、若獅子王子と呼ばれ、活躍した。


「久しいな、烏よ。息災そうで何よりだ。あまり(ちん)に心配をかけるな」


 シャルルに続いて、もう一人の男も声を上げる。生まれつきの甲高い声で、顎と口の上に筆で払ったような髭を蓄えた、明らかに気品のある男だ。会談の席だと言うのにキセルを吹き、頬杖をついている。


「まさか皇太子殿下までお越しになっているとは……」


 オスカーはそう声を漏らし、エルフリーデと同時に席に座る。

 この男の名はレオポルド・カールマン・フォン・グライフブルク。現在の神聖ローシエント帝国皇帝であるアウストリウス大公、カール・フランツ二世の嫡男であり、次代の皇帝位を継承する男だ。


「友の急用とあらば、駆けつけなくてはなるまいて……だが、勘違いしないでもらいたい。朕はそなたの父を悪く言うつもりはないのだ」


 そう言ってレオポルドは、そうそうたる面々を前に萎縮しているヘートヴィヒを見て言った。こう言った気遣いが出来る点も、次期皇帝としての彼の素質をうかがわせる。


「リードは……まぁ不運だったな。まさかたまたまお前が来てる時にあんなことが起きるなんてな」

「止めよ若獅子王子」

「へいへい」


 シャルルの言葉は、レオポルドによって遮られる。それでもシャルルは、ニヤニヤとしながらオスカーと、ヘートヴィヒを交互に見る。


「まぁまぁ……それじゃ話を始めましょ! それじゃギル兄、状況説明よろしく!」


 一触即発の状況を、エルフリーデは手を叩いて切り替え、会談は始まった。









「……で、あるか」

「真実味に欠ける話ではあるがな」

「まさか、法皇猊下(げいか)が復活派の裏に居たなんて……」


 オスカーは、法皇についての事や、東ローシェン崩壊について、三人に説明をした。


「どのみち朕は帝室。法皇とは相容れぬ。今すぐローシェンに兵を挙げてもよいぞ?」

「そんなことしたら、反アウストリウス色の強いうちの貴族が黙ってねぇぜ?」

「若獅子、皇帝の軍とやり合おうと?」

「フェルマーレンの精強さは、あんたが一番わかってるだろ? それにこっちはターコニアスとカピチュレーション(通商特権)結んでるんだってことも忘れんなよ? もう東ローシェンなんて足かせは無いんだからな」

「お、お、お二人とも……」


 立ち上がって睨み会い、再度一触即発になる二人を、ヘートヴィヒが間に入って止める。


「……ヘートヴィヒ姫の顔に泥を塗る訳にはいかんな」

「あぁ。フリードリヒ、おっかないからな」


 二人はあっさり引き下がり、会談は再開された。


「…………法皇にとって、東ローシェンは異端。滅亡寸前でのあの状態でも、ルキウースェノポリスの三重壁に守られた東方教会の力は依然衰えることはなかった」

「東ローシェンの件も、法皇の仕業と?」

「法皇庁……主流派教会にとって、異教徒は無知なだけで改心させられるが、異端は悪魔だ。滅ぼすべき存在だ。無い話じゃないのでは、と」

うち(フェルマーレン)みたいに、異教のターコニアスと仲良くしてる国だってあるんだからな。法皇庁がなにしたって驚かねぇよ」


 オスカーの言葉に、シャルルとレオポルドが食いつく。オスカーは話を続けた。


「ともあれ、今は東ローシェンの皇太子が気掛かりです。彼を保護出来れば、劣勢を強いられている天主教諸国が、ターコニアスとの戦いに優位に立てるかも知れない……」

「我々が保護してしまえば、いくら法皇と言えど手出しは出来んだろうからな」

「でも、誰がターコニアス領に……」

「言っとくが、俺のフェルマーレンもヘートヴィヒ姫のシュバルツブルクも、動けんからな?」


 フェルマーレン王国は、ターコニアスと強固な関係で結ばれている。今この関係は崩せないだろう。シュバルツブルクに至っては国教が主流派ではなく、新説派・聖典派だ。彼らが皇太子を保護するのは、かえって逆効果になるだろう。


「それについてはもうこっちで話がついてる」


 エルフリーデは、そう言って他の四人を見渡し、オスカーで視線を止める。エルフリーデと目の合ったオスカーは、ゆっくりと立ち上がり、こう言った。


「ターコニアスには、俺が行くことで話がつきました。向こうには、俺の部下もいます。場所についても、粗方見当がついていますから」


 そう言ったオスカーを見て、シャルルとレオポルドは、どこか納得したような表情を浮かべる。


「烏よ。流石だな」

「お前にしか出来ん芸当だわな。いやぁー、関心関心」

「……?」


 何のことか理解の出来ていないヘートヴィヒをおいて、会談は着々と進んでいった。

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