空中要塞で最終決戦だよ~ですわ♡
ドババババババババババババババババババッ!
最終鬼畜兵器は胴体や羽根に備え付けた水晶玉のような射出口から、ピンク色のエネルギー弾を盛大にばらまきます。
「きゃあぁぁぁ、たくさん来ましたわぁ!」
「押忍押忍喝ッ! 押忍押忍押忍喝ッ! 押忍喝ッ押忍!」
目の前いっぱいに広がる弾幕を超虫ハエ・ブンブンはヴゥン、チュドン! ヴゥウンッ、チュドドドン! と、巨体に見合わない精密な動きと気合いでリズミカルに切り抜けます。
「キャンディ・ヴァルカノ~ン!」
真白ちゃんもアメ玉連射で応戦します。ですが、マーヤ大佐から豆鉄砲のようにあしらわれ、全く通用していません。
「隊長さ~ん、もっとすごいのを撃ちたいから、どっかに『パワーアップするベルが出る雲』ってな~い?」
「何の事だかさっぱりでありますが……、そうだ! 真白様、自分に『ショートケーキ』をいただきたいであります!」
「いいよ~?」
アナ隊長は真白ちゃんが作り出したショートケーキを一口食べると。
「お・い・し・い・でありまーすッ!!」
ドガカカカァーッ!!
『美味さのあまり怪光線が出るショートケーキ』で、アナ隊長が吐き出すレーザービームは、蒼空を貫き一直線に大蜂を討ち果たそうとします。
しかし!
パキーンッ!!
「!!」
鬼畜兵器は周囲に半透明色のバリアーを展開し、一切のダメージを与えることができませんでした。
『ほほう、今のはなかなか危なかったぞ。これは処罰を与えねばならんな』
マーヤ大佐は炎のようなエナジーを纏い、全身を緋色に染めると。
バアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!
竜の鱗を思わせる光弾を放ち、無数のエネルギー波が咲き誇る菊の花びらのような放射線を描いて襲いかかります。
その様相は、まさに!
「きれ~い、ふぐ刺しみた~い!」
「喝ーッ!!」
ハエ・ブンブンの大喝で、チュドドドドドドドドドドォォォ! と、竜鱗が一瞬消し飛んだように見えましたが、すべては防ぎきれず再び奔流が押し寄せて来ます。
「スイーツクリエイト、クレ~プ!」
すかさず、真白ちゃんが放つクレープの皮が、残りのエネルギー波を正面から防ぎました。が!
ドドドドドドドドドド、ズバアァッ!!
クレープを貫通し、ふぐ刺しのような光の刃がぽっちゃり姫様たちを襲います!
「!!」
「くっ、押忍っ!!」
ザザザザザザザ、ザシュッ、ザシュッッ!!
とっさにハエ・ブンブンは彼女たちが乗るわたあめの雲をかばい、その凶刃は全て緑金色の身体に突き刺さりました。
「押…………、忍…………」
「ハエ様ぁ!」「ハエさ~ん!」「ハエ殿ぉぉ!」
複眼から光が消え、羽ばたきが止まったハエ・ブンブンはぽっちゃり姫様たちが乗る雲もろとも墜落していきます。
「きゃあぁぁぁぁぁ~!」
重力加速度を増して墜ちて行くハエ・ブンブンと筋斗雲。
しかし、瀕死になりながらも、孤高の武道家は彼女たちを守るかのように六本の脚で雲をがっちり支えています。
「きゃあぁぁん! ひぃぃぃん! うわぁぁぁん! 怖いぃぃぃい! 王子様ぁぁー!」
キャロライン姫はわあわあ言いながらも、縦向きになったわたあめの雲をボルダリングの要領で移動し、ハエ・ブンブンの口につながるホースまで必死にたどり着き。
「フラッシュハニーぃぃ!!」
ホースの口先に指を突っ込み、ぎゅーんとハチミツを注ぎ込みました。すると。
ヴゥゥゥゥゥンッ!!
ハエ・ブンブンの瞳に青い光が灯り、すぐさま体勢を立て直すと、再び力強い羽ばたきを取り戻しました。
「がはあっ! はぁ……、はぁ……。押忍、ありがとう……。もう少しで死ぬところだった……。押忍……」
「はぁ……、はぁ……。いいえ……、ハエ様ががんばってお守りくださいましたから、わたくしもお助けする事が、できましてよ……」
「押忍! では、この恩は戦働きで返すとしよう!」
ヴゥン! と一際高い羽音をかき鳴らし、ハエ・ブンブンはぽっちゃり姫様たちを伴い、最終鬼畜兵器が待つ戦場へと舞い戻ります。
それを見た、マーヤ大佐はリアル蜂顔で分かりにくいですが、表情を怒りで歪め。
『ほほう、大したものだ。あれも凌ぐというのか……。よろしい、ならば次は一瞬で消し炭にしてくれようぞ』
マーヤ大佐は再びその巨躯に炎のオーラを纏うと、空気中のエネルギー粒子を口の中に吸い込み、波動砲発射の構えを見せます。
『コォォォォォ、エネルギー充填、80%……』
「まずいであります……、先ほどよりもさらに強力な攻撃を仕掛けて来るようであります」
「う~ん。じゃあ、わたしもすごいやつをやっちゃうよ~」
真白ちゃんはドレスの袖をまくって、ぷるんとした二の腕を見せながら。
「スイーツクリエイト~、大きいアメちゃ~ん」
両手を上に掲げると黄色いレモン味のアメ玉が、野球ボールからバスケットボール、そしてバランスボールの大きさへと真白ちゃんの頭上でぐるぐる自転しながら大きくなって行きます。
『エネルギー充填、100%……』
ですが、真白ちゃんのアメ玉が完成する前に、マーヤ大佐の準備が整う様子。今にも波動砲が発射されそうです。
「うや~、これじゃあ間に合わないよ~」
「真白様! 微力ですが、わたくしも!」
すぐに、キャロライン姫も両腕をアメ玉に伸ばします。
姫の手のひらから放出されるハチミツをまとったレモン飴は、運動会の大玉送りの球から、一気にお台場テレビ局のあの球の大きさにまで膨れ上がり、ついに小型の太陽のような金色に輝く球体と化しました。
ですが!
『エネルギー充填、120パーセント! 喰らえッ、赤熱波動砲ォォォッ!』
ゴオオオオオォォォォォーーーーーッ!!!
最終鬼畜兵器の口から、燃えるようなピンク色のエネルギー波が射出されます。
極太の波動は大蛇のように、ぽっちゃり姫様たちが乗る筋斗雲を飲み込もうとします!
「行くよ~、キャロちゃん!」
「ええ、真白様!」
「「スーパーハニースイーツ~! ハチミツレモン飴ぇ~!!」」
どっごぉぉぉんっ!
負けじと真白ちゃんとキャロライン姫は、視界が薄紅色に染まる中、黄金の砲弾を発射します。
砲撃音を轟かせ、金色の彗星が光芒を描きながら、ピンク色のエネルギー波に立ち向かいます。
波動砲に比べ大きさに劣る飴玉でしたが、パワーはひけをとらず、むしろぐんぐんと押し返して行きます!
『カ、マテ! カ、マテ!』
『カ、オラ! カ、オラ!』
『キレてる、キレてるっ!』
『デカい、デカいっ!!』
『腹筋が板チョコのようだーっ!』
オールブラックスの応援(?)を受け、とうとう波動砲を爆裂四散させたハチミツレモン飴はマーヤ大佐の口の中を直撃!
すぽーん!
最終鬼畜兵器は動きを停止したあと、ブルブルブルと身体を震わせます。
そして。
『あっっまぁーいっ!!』
あまーい! あまーい! あまーい!
と、悲鳴を上げながら、うにょうにょと形が崩れていく巨大バチ。
元の一匹ずつの集合体に戻ると、ハチたちは殺虫剤を食らったかのようにバラバラとほどけて落っこちて行きました。
「「やった~っ!!」」
キャロライン姫と真白ちゃんは、きゃーっと手を取り合って盛り上がり、オールブラックスも涙を流して喜びを分かち合います。
「お見事! キャロライン様! 真白様! あの強敵『赤い流星』を倒されるとは、自分は感動であります!」
「いいえ? わたしたちはハチ様たちを倒したりなどしておりませんわ」
「そうだよ~。美味しいアメちゃんを食べてもらっただけだもん」
ね~、と2人は顔を見合わせると、小首を傾げてニッコリします。
先ほど墜落していった蜂たちは低空で意識を取り戻したらしく、赤いハチを先頭にフラフラと空中要塞へと戻っている様子です。
「さあ、自分たちも後を追うであります。今こそミツバチパッチを討ち果たす時であります!」
「ううう、もう争いはしたくないのですが……」
「素直にあおいちゃんと王子様を返してくれたらいいね~」
*
一方、そのころそのこーろ。
空中要塞『ハニカムレディー』では、簀巻き状態のジョージ王子とあおいくんがお互いのパートナーへの愚痴合戦を続けています。
ですが。
「あと、キャロラインは木苺を食べるのだよ、木から直に」
「いや、それは普通じゃないのか? 真白もするし、俺もやるぞ?」
「しかし! 繁みの下の方になっているのを、食べるときは気をつけろと言いたい! 真下にう◯こがあるかもしれないだろ!」
「王子様がう◯こって言うなよ」
「それでダメ出しをすると、食べちゃだめなんですかと泣く。泣くところが違うぞ!」
「まあまあ、確かに分からんでもないが……。ああ、イチゴといえば、真白と一緒にショートケーキを食おうとすると、いつも上に乗ってるイチゴを取られっちまう。俺はあいつと一緒の時にケーキのイチゴをまともに食った事はないぜ?」
「ふむ……? では、なぜ君は『イチゴを取られる事』に抵抗しない? ちゃんと不満の意思を伝えた事があるのか?」
「あ、いや、いつもあいつはうるうるしながら『食べた~い』って顔をするから……」
「そもそも! 君はなぜ、彼女と一緒にケーキを食べるんだ?」
「それは……」
「君の心理を当ててやろう。それは、彼女が美味しそうに食べている姿を、君がこの上なくかわいいと思っているからだ!」
ががーん!
「え、いや、そんなことは……」
図星を突かれ、言葉に窮するあおいくん。ジョージ王子は間髪を入れずに。
「なぜ、そんな事が分かるかって? それは、わたしがキャロラインに対していつも思っている事だからだ。好きな人と食べることがどんなに大切ということか。そうやって、私はいつも彼女に癒されているのさ」
「それはもう、愚痴じゃなくてただの惚気だぞ?」
「はっはっは、私たちは婚約者だ。彼女をほめ称えて何が悪い。君たちのような『今の関係を崩したくなくて、つかず離れずの甘酸っぱい距離感を保ち続ける幼なじみの2人』とは違うのだよ」
「ちっ。人の気も知らねーで、言いたい事言いやがって……」
「はっはっは、君も言いたい事があるならはっきり言いたまえ。スッキリするぞ?」
あ、そーれ。あ、そーれ。と言わんばかりに囃し立てるジョージ王子。
「そりゃ、俺だって真白の事がす……」
「あおいちゃ~ん! 助けに来たよ~」
うわあ! と、天井まで飛び上がりそうなくらいに驚くあおいくん。
見れば、王室の入り口に真白ちゃんと大きな黒アリたち。そして、キャロライン姫が立っていました。
「キャロライン……?」
キャロライン姫は、蜜ロウで身動きが取れないながらも無事な様子の王子様に、くしゃくしゃの泣き顔になると。
「うわぁぁぁぁん! 王子様ぁぁー! 王子様ぁぁーーっ!!」
一目散に駆け出して、ジョージ王子にすがりつきます。
「良かった……、良かったのです……」
「キャロライン……、君も無事でなによりだ……」
「ええぇ……、真白様や皆様がたいへん良くしてくださって……」
ぐすんぐすんとすすり泣くキャロライン姫を、ジョージ王子は柔らかい笑顔で見つめます。
そして、真白ちゃんはあおいくんの側まで近寄ると、あおいくんのほっぺたをここぞとばかりにぷにぷにします。
「おい、こら、やめろ」
「ふふふ~。あおいちゃん、のり巻きみた~い」
「余計なこと言ってんじゃねー。ところで、お前らどうやってここまで来た? 城ん中も兵士たちが大勢いたはずだぞ? 女王蜂はどうした?」
「説明したら長くなるけど、女王バチさんならそこにいるよ~」
「!?」
「あおいちゃんがやっつけちゃったんじゃないの~?」
真白ちゃんの指差すほうをあおいくんが見ると、女王パッチやお付きの兵士たちが倒れてピクピクしています。
「あ、あ、甘い……。甘すぎるぅぅ……」
どうやらあおいくんたちの、愚痴合戦の皮をかぶったおのろけエピソードの『甘み』にすっかり当たってしまったようです。
「えーと……。とりあえず、助けに来てくれてありがとな」
「えへへ、どういたしまして~。ところで~、さっき『真白の事がす……』って、なんて言おうとしてたの~?」
「げ、おまえ聞いてたのか?」
「?」
きょとんと不思議そうな顔をしている真白ちゃんに、あおいくんはぷいっとそっぽを向きながら。
「あー……、俺はお前の事が『すっげえ、スイーツバカ』だと言ってただけだ」
「え~」
つづくよ~ですわ♡