大空中戦は弾幕系シューティングだよ~ですわ♡
「ところで、『いっこしだん』ってな~に?」
それを聞いて、アナ隊長は「ありりっ?」とずっこけます。
「一個師団とは、五千~一万人単位の兵隊の単位の事であります」
「まあ。それはそれは大軍勢でございますこと」
「早く対応策を取らないと、ひとたまりもないであります」
そうこうしている内に、迫り来る兵隊バチの群れ。
彼らが持つ槍の先端がチカチカッと輝くと、ピンク色のエネルギー弾が飛んで来ます。
「まずい! ハエ殿、かわすであります!」
「押忍! 言われずとも!」
ハエ・ブンブンは身を翻し、ヒュンヒュンヒュンと飛来するエネルギー弾の隙間を抜けますが、目の前には無数のさらなる敵弾が!
「ハエ殿! 第2波であります!」
「押忍っ! おぬしら、しっかりつかまっておれよ!」
『うわあああああっ!?』
ハエ・ブンブンは、ヴゥン! とひときわ羽音を高く響かせると、影をも残さぬスピードで弾幕を回避します。
さすがは世界一の武道家ハエ・ブンブン、並外れた動体視力と身体能力。
ですが、このままでは多勢に無勢。いつか被弾し、ぽっちゃり姫様ご一行は異世界の空に玉砕してしまいます。
「押忍……。脚がふさがっておらねば、『はえはえ波』で薙ぎ払ってやるのだが……」
「隊長様、対応策と言われましても、彼らになにか『弱み』などございまして?」
「いえ、やつらの習性で分かっているのは、せいぜい『甘み』を集めている事ぐらいしか、であります」
それを聞いて、真白ちゃんはぽむと手を打ちます。
「ん~? 良いこと思いついちゃったよ~」
「真白様?」
「スイーツクリエイト~、アメちゃ~ん」
真白ちゃんはドレスのスカートをひらひら靡かせながら、筋斗雲の先端に立ち、ぽんっと手のひらに野球ボール大のアメ玉を生み出すと。
「『キャンディ・ショット』~!」
ばしゅんっ! と前方に撃ち放ち、青空を切り裂いた飴玉は一匹の兵隊ハチの口の中を直撃します。
すると。
『あまーい!』
ハチ顔なので良くわかりませんが、恍惚とした表情を浮かべる兵隊ハチ。
さらに真白ちゃんが蜂の群れにキャンディを放つと、兵隊たちはわれもわれもとアメ玉に群がり、運良くゲットした蜂は巣へと戻って行きました。
「よ~し、狙いどおりだね~」
「真白様、これはどういうことですの?」
「ミツバチパッチは『甘み』を集めているから、習性でアメちゃんをおうちへ持って帰っちゃうんだね~。そうと分かれば~」
真白ちゃんは右腕に魔法の光を輝かせ、コブ◯のサイコガンのように構えると。
「『キャンディ・ヴァルカノ~ン』!」
どどどどどどどどどどっ! と、アメ玉を機関砲のように打ち出して、空賊たちを次々に巣へと追い返して行きます。
さらに真白ちゃんは、左手からぽぽぽぽぽんとアメ玉ボールを生み出し、オールブラックスの足元に転がします。
「さあ、みんなも投げて投げて~」
『カ、マテ! カ、マテ!』
『カ、オラ! カ、オラ!』
「早くなげて~」
「右舷前方へ、投擲!!」
『ラジャ!』
アナ隊長の指揮のもと、真白ちゃんを補佐するべく黒アリたちも迎撃に参加します。
虹色の軌跡を描いて飛ぶ色鮮やかなキャンディを、ハチたちは競うように巣に持ち帰ります。
「押忍押忍! どうしたどうした! しっかり狙って当ててみぬか!」
ハエ・ブンブンは筋斗雲を抱えながら襲いくるエネルギー弾をひらりひらりとかいくぐり、ミツバチ・パッチに付け入る隙を与えません。
「むっ、前方から編隊が来るであります」
「ええっ? 変態様がいらっしゃるのですか?」
「ミツバチパッチのエッチぃ~」
「言うと思ったであります」
冗談すら交える余裕を見せながら、アナ隊長はハチたちの体当たり攻撃も的確に弾き返します。
さらに。
「キャロちゃん、疲れてきたよ~」
「自分たちもであります!」
「はぁい。おまかせください、フラッシュハニー!」
疲労する度にキャロライン姫の回復技を受け、再び元気を取り戻す真白ちゃんたち。
こうして、2時間ほど繰り広げられた攻防戦は、ぽっちゃり姫様たちの優位で進んでいき、ミツバチパッチの軍勢の半数は姿を消しました。
ところが。
「押忍……?」
「ハエ殿、どうされたでありますか?」
「強い気を感じる……」
「えっ?」
「来た!」
ヒュンッ!!
突然、背後から突っ込んで来る赤い影!
ハエ・ブンブンは身体を傾がせて紙一重でかわします。
「ほう……? 完全に不意をついたはずだが、やるではないか」
『!?』
ぽっちゃり姫様たちの前に現れたのは、白いメットをかぶり、全身を赤く染めた仮面のハチ。
「我は、ミツバチパッチ軍指揮官の『マーヤ大佐』。まずは、よくもここまで来たものだ。敬意を表そう」
*
突如、何の伏線も無く現れた紅のハチは、慇懃無礼な態度で名乗りを上げます。
「あ、『赤い流星』!」
「押忍、知っておるのかアナ隊長?」
「『撃墜王』『三倍速』ともあだ名されるミツバチパッチの筆頭戦士。倒した敵将は数知れず、モハメッド王国も奴に苦渋を飲まされているであります」
「我を知っているなら、話は早い。ならば、とっとと降伏するか尻尾を巻いて逃げるが良い」
「ふざけるなであります!」
マーヤ大佐の挑発に、アナ隊長は豪快なマサカリ投法から音速の飴玉を投げつけますが。
ヒュンッ!
「当たらなければどうということはない」
「何っ! であります!」
一瞬で赤いハチの姿が消え失せ、前方にいたはずのマーヤ大佐が背後に出現します。
「後方! 放てーっ!!」
『ラジャ!』
オールブラックスは一斉にアメ玉を投げ放つも、マーヤ大佐はそれを踊るようにかわしながら、ドンッ! と槍から電磁波をまとった特大エネルギー弾を撃ち放ちます。
「押忍っ!」
「何っ!?」
ヴゥン!
しかし、ハエ・ブンブンも目にも止まらぬ動きで光弾を避け、逆に『赤い流星』の背後を取りました。が。
「ハエさ~ん、速く動くときは言ってよ~。落っこっちゃうかと思ったよ~」
「お、押忍。すまん押忍……」
真白ちゃんから咎められ、しゅんとする世界一の武道家。
その隙に、マーヤ大佐は体勢を立て直しました。
「はっ、デカい図体の割に機敏なのだな。では、スピード比べと行こうか!」
「押忍! ならば、ワシも本気を出すぞ! おぬしら飛行酔いするなよ?」
「心配ございませんわ。わたくしの能力で、皆様の三半規管も強化されておりましてよ」
「上等だ、押忍!」
ハエ・ブンブンと赤い流星はともに加速すると、互いに背後を取るべく空中戦を開始します。
マーヤ大佐は槍をグルグルと回転させ、ドドドドドッ! と大量のエネルギー弾を発射します。
ハエ・ブンブンはそれらを一旦はかわしますが、通過したはずの光弾がUターン!
「!!」
「ホーミングショットだ、貴様にしのげるかな!」
ハエ・ブンブンはさらに速度を上げ、上昇からの背面宙返りで振り切ろうとしますが、追尾弾は蛇のようにうねりながら背後に接近します。
すかさず、ハエ・ブンブンは急ブレーキから身体を反転し。
『喝ッ!』
チュドドドドーンッ!!
怒号を放つと、あわや直撃かという寸前、光弾が目の前ではじけ飛びました。
しかし!
「詰みだ」
「押忍っ!?」
追尾弾はあくまで囮! 後背を取った赤い流星は槍を構えてハエの背中を刺し貫こうと突っ込んで来ます。
が!
すぽんっ!
「んがぐぐっ!?」
ふら~っと飛んできたキャンディが、大佐の不意をついて口に入ります。
それを投げたのは、なんとキャロライン姫!
「わぁい、当たりましたわ!」
「あ、あ、あ……、甘ぁーいっ!!」
赤い流星・マーヤ大佐は、仮面とハチ顔なので分かりにくいですが、だらしない笑顔で墜落していきました。
「さすが、キャロライン様! お見事であります!」
「え? あ、でも、あの方は落っこちて行かれましたが、大丈夫でしょうか?」
先ほどまで戦いを演じた敵将すらも気遣う、心優しいキャロライン姫。ですが、真白ちゃんはあっけらかんと。
「ん~。気にしなくていいんじゃない? 空を飛べるから心配いらないと思うよ~」
「押忍……、キャロライン殿、助けてもらってかたじけない」
「ほら、ハエさんもこう言ってるし~」
「はあ……」
一方、将を討たれ、動揺を隠せない空賊ミツバチパッチ軍。いくつかの部隊はすでに退却を始めています。
「よし、勝ち戦だ! このまま、敵の本拠地に乗り込むであります!」
「「おぉ~!」」
『ラジャ!』
ぽっちゃり姫様ご一行は、逃げるハチたちにアメ玉をばらまきつつ、空中要塞『ハニカムレディー』を目指します。
しかしっ!
『待てーいっ!』
ビーッ! という羽音が空を裂き、筋斗雲の前に再び仮面の赤いハチが立ちふさがります。
「はーっ、はーっ……。よくも、我に苦杯を舐めさせおったな……」
めちゃくちゃ怒っているマーヤ大佐。なめさせたのはアメ玉なんだけどなあと、ぽっちゃり姫様たちは思います。
「我らミツバチパッチの誇りを傷つけた代償は、貴様らの血で購ってもらう……。近衛兵団!」
『アイアイサー!』
マーヤ大佐の檄に呼応して、集まって来たのは百匹近くの屈強な兵隊バチ。
「『臨機応変』ッッ!!」
突如、マーヤ大佐がパワーワードを唱えると、うにょうにょと彼女らの身体が溶けて混ざり合い、次第に元の蜂の姿を形容していきます。
ただし、その大きさは普通のハチ兵の百倍以上。
さらに、全身に機械武装を施したメカニックな仕上げと化します。
「なんか、すっごいラスボスっぽくなったよ~?」
「こ、怖いですわぁ……」
『これから貴様らはなんの手助けも受けず、ただひたすら死ぬだけだ。どこまでもがき苦しむか見せてもらおう……』
最終鬼畜兵器と化したマーヤ大佐は、肉食虫の複眼でぽっちゃり姫様たちを睥睨しました。
『死ぬがよい』
つづくよ~ですわ♡
今回のお話の元ネタが分かる人は、立派な『シューター』です。